読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『本当に江戸の浪人は傘張りの内職をしていたのか?』

2009年02月13日 | 人文科学系
山田順子『本当に江戸の浪人は傘張りの内職をしていたのか?』(実業之日本社、2008年)

時代考証家の山田順子さんによる江戸物の第二作なんだけど、やはり一応六つくらいのまとまりで話が書いてあるのだが、たんなる知識の見せびらかし的なつくりになっていて、新しい江戸庶民像を作り出そうとかという意欲というかコンセプトというか、そういうものがまったくないので、読後もまったくなにも残らないしろもの。

まぁなかにはいくつか面白い話もあって、たとえば勝海舟の曾お祖父さんは農民で祖父(つまり息子)ために御家人の身分を買ったらしい。千両(一億円)で最下級の武士の身分が買えたというのだから、御家人の身分を買うといったら、いったいどれくらいの金を曾お祖父さんは積んだのだろうか?勝海舟は御家人になって三代目ということだったわけで、だから幕末においてあのような因習にとらわれない自由な発想で危機を乗り越えることができたのだろうか。幕末になると農民でも金で武士の身分になることができたというのは初めて聞く話だが、まぁフランスでも大金を手にした商人(ブルジョワ)が大金を積んで貴族の身分を買うという法服貴族というのが大量に出現したわけで、そう考えたら別に不思議でもないか。

もう一つ面白いのは歌舞伎役者の話で、よく千両役者という言い方をするが、千両というのはなにもきりがいいからではなくて、実際に売れっ子の役者になるとそれくらいの年収があったということらしい。それくらいの金を出さないといい役者を興行主も雇えなかったらしいから、年間の興行出費はたいへんなもので、したがって芝居を見るのもそうとう金がかかったらしい。江戸三座の年間興行出費は七千両(七億円)くらいという。桟敷で5万円、土間で3万5千円くらいというから、だれでも見れるものではなかったということなのだろうか。しかし江戸の庶民のあいだに歌舞伎役者の人気はすごかったのだから、もっと安く見れる方法もあったのだろう。このあたりのつめがこの本は弱いというのか、まぁ知っていることを見せびらかす式の本なんでしかたないか。

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