読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『逆説の日本史4』

2009年02月16日 | 人文科学系
井澤元彦『逆説の日本史4』(小学館)

この第四巻は「古今和歌集」の六歌仙から始まっているが、おもに藤原摂関政治の興亡というサブタイトルをもつ三つの章と武士はなぜ生まれたかということを「ケガレ思想」との関係で解き明かした章で構成されている。

第一に面白かったのはなんといっても『源氏物語』が藤原道長という藤原摂関政治の頂点にたつ人物の最盛期に書かれたことの謎に関わらせて解き明かした部分である。紫式部は宮中に仕える女性であったわけで彼女が源氏が天下を取るというような話を書いていることは多くの人に知られており、源氏を政治の世界から追放した道長がそのような女性に資金援助(紙を調達してやっていたらしい)までして『源氏物語」執筆を助けていたのは一見するとありえないことだからだ。『源氏物語』という世界最初の大長編小説は、道長というか藤原一族が政治的ライバルとして蹴落とした源氏が怨霊になるのを防ぐために援助したことから生まれたのだという井澤元彦の説明は、たしかに説得力がある。

昨年(2008年)は源氏物語千年紀としていろいろな行事もあり出版物もたくさんあったが、そのなかでこの主張はどのように位置づけられていたのだろうか? 私はやっとこさ第6巻か7巻くらまで読んで、面白くなくてやめてしまったので、とても解説書なんかを読む気力はなかったが、こんな面白い仮説がまったく無視されてしまうとしたら、日本の研究界もおしまいだねって気がする。1008年ていえば、ヨーロッパはまだ文学らしいものはほとんどないに等しい状況だ。あの時代はフィクションというようりも、まだ古事記日本書紀的な民族の成り立ちを描いた叙事詩的なものが主だったわけで、今日にまで通用するようなフィクションとしての小説は、まさに『源氏物語』が最初だった。もちろん中国では(これも井澤が繰り返し述べていたように)小説(フィクション)というものにたいする蔑視があるので話が違うのだろうけど。

たしかにあんな風に、現実ではないといっても、実際に存在する御所を舞台にしたスキャンダラスな話を作ってしまって大丈夫だったのだろうかと思っていたが、なるほどそうすることで政治的に追放された源氏が怨霊化するのを防ぐ狙いがあるとして当時の人々が納得していたのなら、そうかもしれないと理解できる。

もう一つ面白かったのは青島幸男が東京都知事に当選した直後あたりに書かれた第6章で、青島都知事が自衛隊を違憲の団体でいずれは解体すべきだといいつつ、一方では災害時などには自衛隊を使うというような虫のいいことを言っていることを取り上げて、平和主義者の矛盾を追及しているところだ。

それにしても奈良時代から律令制度が国家の制度として定められたにもかかわらず、それが完全に骨抜きにされてしまい、それが何百年と続いたというのはすごいことに思える。律令制度というのは、現代の政治感覚からしても、なかなか立派な制度のように見えるが、それが私利私欲によって骨抜き・虫食いにされていくのは、なんか立派な政治理念では世の中動いていかないということを示している見本のような気がする。

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