『世界は認知バイアスが動かしている 情報社会を生きぬく武器と教養』(栗山直子著)からの転載です。
「宿題をやりなさい」がナンセンスなのは
心理的リアクタンスは白由や選択肢が制限されると、それに対して反発や抵抗を感じ、制限された行動をむしろ取ろうとする心理的傾向です。
たとえば、親に「宿題をやりなさい」と言われれば言かかるほど、やりたくなくなったり、職場の上司にアドバイスされると、そのアドバイスに従わない方法をとりたくなったりすることが当てはまります。誰かに無理に説得されたときに反発する力が作用します。これが心理的リアクタンスです。説得と心理的リアクタンスの面白い実験があります。健康的な食事を勧める場合、強制的なメッセージと、自由を尊重するメッセージの2パターンを提示して、調査参加者がどのように反応するかを調べました。
結果は強制的なメッセージはリアクタンスを引き起こし、反発する人が多く、自由を尊重するメッセージはリアクタンスを抑制できていました。
無理やり説得しても共感を得られないのは想像がつくかもしれませんが、この実験が興昧深いのは、そうしたリアクタンスの大小が行動にもつながることを明らかにしていることです。
リアクタンスが起きても、それを行動に移すかは別の問題です。あくまでも心理的リアクタンスは反発したくなる気持ちなので、実際にその感情に従って行動するにはハードルがあります。
ただ、この実験では強制的な説得をして反発が生じると、健康的な食事はせず、自由を尊重するメッセージでリアクタンスが抑えられると健康的な食事をとるようになることが明らかになっています。
ですから、人に何かを頼んだり、説得したりする際には心理的リアクタンスをできるだけ小さくするアプローチが重要になることをみなさんも覚えておくとよいかもしれません。
絶対見るなと言われると見たくなる―-「ブーメラン効果」
心理的リアクタンスによって引き起こされるのが、ブーメラン効果です。説得しようとしたり、影響を与えようとしたりしたときの行動や説明が逆効果になってしまうことです。
みなさんも「絶対に見るな」と言われたら無性に見たくなるはずです。「誰にも言わないでね」と言われたら、言いたくてたまらなくなるはずです。これもブーメラン効果です。
実際に実験で証明されています。公衆トイレの落書きを調査した有名な実験例があります。トイレに「絶対、落書きをするな」と張り紙をした場合と、「落書きしないようにお願いします」と張り紙をした場合では、前者では落書きが増加し、後者では減少しました。
心理的リアクタンスによって強い言葉の説得が逆効果になるので、たとえば広告や教育の現場でどのような言葉を使うかは重要になります。先はどの実験とは別ですが、お願いしたり、依頼したりする場合は、命令調や弱い口調ではなく、その中間くらいの言い回しが最も効果があることを示した実験もあります。
「選択的アーキテクチヤ」で、学生に健康的な食品を選ばせよ
では、心理的リアクタンスを引き起こさないためにはどうすればいいのでしょうか。
具体的な方法のひとつに選択的アーキテクチャというのがあります。これは選択肢を工夫した制度設計です。
人々の選択に影響を及ぼす設備などの物理的な構造や見た目、情報提供の方法などの枠組みを工夫することで、リアクタンスを引き起こさないよううまく誘導して選択させます。人は選択肢に自由度がなかったり、選んでほしいメッセージを強制されたりすると反抗したくなるので、その上うに感じさせない仕組みをつくります。
これはナッジ理論の一種です。「そっと後押し」することを意味するナッジは、強制することかく、また、経済的なインセンティブなどを与えることなく、人々により良い選択を促す枠組みです。
選択的アーキテクチャとナッジはほぼ同じなのですが、これに関する有名な実験があります。
学校のカフェテリアで健康的な食べ物を取りやすい位置に、たくさん食べると健康に害を及ぼすお菓子などの食べ物を取りにくい位置に配置しました。生徒が選んだ食品の割合を測定したところ、取りやすい位置に置いた健康的な食品を選ぶ生徒が大幅に増加しました。
また、目線の高さに配置した食品を選ぶ確率が高く、目線の高さと食品の選択率に髙い相関関係が示されました。選択肢の置き方今提示の仕方で抵抗を感じさせずに無意識に人を誘導できることを示しています。(つづく)
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