アンティマキのいいかげん田舎暮らし

アンティマキは、愛知県北東部の山里にある、草木染めと焼き菓子の工房です。スローライフの忙しい日々を綴ります。

映画「金子文子と朴烈」と本「何が私をこうさせたか」

2020-01-02 18:14:49 | 映画とドラマと本と絵画
    韓国映画「金子文子と朴烈」を見ました。名前だけは知っていましたが、くわしくはまったく知らない二人の事件。勉強のために借りたのですが、思いのほかよくできていて驚きました。2017年の映画ですが、韓国では爆発的な人気を博したようです。

    金子文子も朴烈も、大正時代のアナキスト。社会主義おでん屋といわれている居酒屋で働く金子文子は、朴烈の詩に感動し積極的に彼にアプローチ。そして同棲を始めます。ほどなくして起きた関東大震災。その後、朝鮮人が井戸に毒を投げたという流言飛語が飛び交い、ものすごい数の朝鮮人が、警察に守られた自警団をはじめとする日本人に殺されます。混乱に乗じ、社会主義者やアナキストの検挙も始まり、朝鮮人である朴烈は、投獄されるほうが殺されるよりましだと自らすすんで自首します。ついで文子も率先して牢獄へ。大した犯罪を犯しているわけではないから、朝鮮人虐殺の波が収まるまで留置されることを望んだわけですが、事態は急変。

    このあたりの経緯が微妙。朝鮮人の毒投入の流言については、実は日本政府はそれがデマだと知りながらあえて頬かむりして、民間人による朝鮮人虐殺を野放しにしていた。なぜ、政府がそういうことをしたかというと、震災後の救済を政府がほとんどしてくれないため、人々が国会前に集まって暴動寸前にまでなりそうだったから、民衆の怒りの矛先を朝鮮人に向けさせるためと映画では説明されます。このことは、全く知らないことでした。しばらく前には米騒動があり、日比谷焼き討ち事件もあります。窮した人たちや怒った人たちが暴動にはしることは、政府には容易に想像できたとおもわれます。

    政府は、朝鮮人虐殺事件があまりにすさまじくなり、国際的な評価が下がることを懸念します。そうしたとき、内大臣~水野という人物は、虐殺を正当化ないしは隠ぺいするにふさわしい朝鮮人を探させます。選ばれたのが朴烈。朴烈は実は、アナキスト仲間たちと爆弾の入手をはかっていたことが判明。その爆薬を使って、当時の皇太子(昭和天皇)を暗殺することをもくろんだとされます。つまり大逆事件に発展することになり、死刑の判決が下されるかもしれない裁判にかけられることになります。微罪で済みそうだったふたりに、一転して死刑判決が下ります。

    暗殺をもくろんだにはちがいないようですが、謀議だけ。それなのに、死刑の判決を下そうとするのはすさまじいことです。政府は二の足を踏みますが、水野は敢行しようとします。二人は裁判を演説会ととらえ、自説を主張。反対派の妨害のためもあって、二審めからは非公開となりますが、とにかく堂々とした態度を取り続けます。

    主演の二人は韓国人。金子文子役の女優の日本語は極めて流暢でした。内大臣や判事を演じた役者も韓国人なのですが、やはり日本語がとても堪能でびっくり。ずっと3人とも日本人だと思っていました。日本人俳優もたくさん出演。それにしても、名前を聞いたことのない弁護士や当時の作家が何人も、ふたりに協力していたことも知りました。

    監督は、反日映画にならないよう極力務めたそうで、かなり事実に即して作られた映画のようでした。難を言えば、日本人の着物の着方がちょっと変なことが気になったくらい。文子役の女優は、キュートでかわいく、そして大胆に演じていました。

    ところで、金子文子は、判事との面談で、自身の生い立ちを問われるままに語ります。極貧の家に生まれ、父に去られ、母に捨てられ、親戚の間を転々とした彼女。父親の勝手な都合で、長い間無籍者であった彼女は、そのことだけでも差別されつづけます。そして、10歳ころから7年間朝鮮にいた祖母のところで養われます。その間の祖母たちからの虐待はものすごいもので、その後、追い出されるようにして日本に帰国した彼女は、東京で働きながら勉強することを志します。でも生活の苦しさに追われ、勉学はおろそかになりがち。そうしたときに社会主義者やアナキストたちと出会い、一気に彼らの勧める本を読み漁ります。

    判事は彼女に紙を与えて、独房で手記を書くことを課します。それが彼女の死後出版された「何が私をこうさせたか」。

    気になったので、さっそく取り寄せ読了。誕生から牢に入るまでの半生が細かくつづられています。小学校もろくに行かせてもらえなかった彼女ですが、頭脳はかなり明晰だったよう。彼女は一貫してすべての人が平等であることをのぞみ、主張します。その彼女と同じ境遇の極貧の人たちや、彼女たちを虐げ侮蔑する人たち、無知、偏見や性格のゆがみのせいで同じ家族であっても差別する人など、非常に克明に描かれています。牢にいて絶望的な状況にありながら、彼女は書き続けます。文章力は相当優れていて、文庫本にして400ページ、なかだるみすることなく読み進めました。

    こういう映画を撮る、韓国の映画界、すごい。この映画を見てだいぶたってから、「菊とギロチン」という同時代のアナキストたちを描いた日本映画を見ましたが、深さが違う。アナキストの描き方が浅すぎる。金子文子の一生を描いたら、相当面白いのに、とおもうのですが、そういう作り手はいないのでしょうか。





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 本日グリーンママン朝市に出... | トップ | 今年度の醤油ができました! »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画とドラマと本と絵画」カテゴリの最新記事