アンティマキのいいかげん田舎暮らし

アンティマキは、愛知県北東部の山里にある、草木染めと焼き菓子の工房です。スローライフの忙しい日々を綴ります。

本「捨てないパン屋」

2023-01-24 17:50:21 | 映画とドラマと本と絵画

  広島のパン屋ドリアンの店主、田村陽至さんの著書。ドリアンは、大きなパンを薪窯で焼いているパン屋さんです。本書は、パン屋の三代目である彼がたどり着いた、パンとパン屋の形をつづったものです。

  「はじめに」を読めば、本書で彼の言いたいことがほぼわかります。

   「社会から「ありがとう」と言ってもらえる仕事をして、しっかりお金も儲かって、かといって長時間労働せず、ほどほどに働いて、時間にゆとりがあって長期休暇もとれる。そのような働き方が理想なのかもしれません」

   彼はヨーロッパ諸国のパン屋で働いたり、一般の人たちの家に泊まったりして、パンを通じて幸せになる働き方を調べて回りました。その後帰国して、これまでのパン屋とは違うかたちのパン屋をはじめました。

   どこが違うかというと、「徹底的に手を抜く」ということ。20種類ほどあったパンの種類を4種類に減らし、しかもいずれも500gから1キロの大きなパン。具なし。代わりに、材料は有機無農薬国産の小麦粉を使い、自家製のルヴァン種で発酵させて、窯は石窯に変えました。

   こうすることで、焼く量はこれまでと変わらないのに、従業員が不要になり、店番の妻が一人いればやって行けるようになりました。人件費や具材の節約ができるので、これまでの小麦粉の2倍もする小麦粉を使っても売値を抑えることができる。大きいので、一見すると高いようにみえますが、彼によれば「グラム単価でみれば、スーパーで売っているバケットと同じ値段」なのだそうです。

   これは、ヨーロッパのやり方を真似ただけ、と彼はいいます。「ヨーロッパでは、パン屋もほかの商売も、会社も、はては公務員や政治家まで、こんな感じの「素敵な手抜き」の良いループを描いているのです」「「手を抜くことによって質を向上させている」からです」

   近頃のパンブームで、テレビでは目新しいパンをいろいろ紹介しています。本書を読むと、だいぶ前から、まるでファッションのように、パン業界では「今はこれがはやる!」といった調子で目新しいパンが次々に登場し、パン屋はその「流行」に追われるようにして品数を増やし、挙句の果て過重労働にならざる得ないのだそうです。そういう状況からすっぱり縁を切った彼。縁を切って舵を切り替えたからこそ、今や年商2500万円のパン屋になった、ということです。

   共感する点や勉強になることがいくつもありました。なかでも、私が知らなかったのは、ヨーロッパのもともとのパンは酵母菌ではなく乳酸菌発酵だということ。

   タンパク質であるグルテンは乳酸菌によって分解されるけれど、酵母菌は分解しない、というのです。つまり、昔から小麦を食べていたヨーロッパの人たちは、からだによくないグルテンを徹底的に乳酸菌で分解することを体験的に学び、パン作りを進化させていった、というわけです。

   「昔ながらのパン作りは、乳酸菌が主役の発酵。そんなパンは食べても消化不良を起こしにくいのです」

   彼が作るルヴァン種は、酸っぱいパン種。「乳酸菌が増殖している」からです。乳酸菌と酵母菌が程よく合体したのがルヴァン種だそう。これまでわたしは、単に小麦やライ麦から起こした種、という認識しかありませんでしたが、そもそもの菌が違うとはおどろき。

   とはいえ、ルヴァン種は自家製のフルーツ酵母よりさらに手間がいりそう。でも、ネットで検索してみたら、私が使っているホシノ酵母とヨーグルトと小麦粉で、普通より簡単にこの種ができる方法が載っていました。名付けて「ホシノルヴァン」。本物には程遠いかもしれませんが、まずはこの冬、ホシノルヴァンを作って、パンを焼いてみたいな、と思いはじめました。

    ところで、たまたまこの本を読み始めたころに、前から頼んでいたドリアンのパンが届きました。二回目の注文です。大きなパンが、ビニール袋にどさっと入っているだけ。おしゃれなシールも、しおりもリボンも何もありません。あるのは、納品書と原材料表示とパンの食べ方と、毎月書いているらしい彼のエッセイ。

   今回は、冬だけ製造するパンデピスを食べたくて、友人たちと共同購入しました。パンデピスはバターをつかわず、スパイスと蜂蜜と黒糖の入ったしっとりしたケーキ。ヨーロッパのパン屋で学んだパンデピスだそうです。本物を食べたことのないまま、米粉とみりんでパンデピス風のケーキをつくっているので、勉強にと思って取り寄せました。

    ほかのパンはどれも、じわじわと味わい深いものばかり。ルヴァン種発酵独特の酸っぱさが特長です。バターやチーズと食べると、おいしさ倍増。賞味期限は一週間と長めです。大雪注意報が出ているいま、ちょうどよい食料となりました。

 

 

   

  

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映画「レイジーマン」

2023-01-24 15:00:27 | 映画とドラマと本と絵画

   ナマケモノ倶楽部主宰の辻信一氏が監修した、タイの少数民族、カレン族の長老ジョニとその子供たちに取材したドキュメンタリー。

   「レイジーマン」とは英語で怠け者のこと。カレン族に伝わる民話に登場する、稀代の怠け者ジョッカルに由来します。このジョッカルは、三年寝太郎同様、寝転がっているだけで食べるのすらめんどうくさがる。果物の木の下に口を開けて寝転がり、果実が落ちてくるのを待つ。喉が渇けば雨のしずくを口の中で受け止めることができるまで待つ。日本の寝太郎と違うのは、いざというとき頑張る寝太郎と異なり、ジョッカルは雨水のしずくが自分の口の中に落ちるのを邪魔した虹に腹を立て、虹に向かって刃物を投げつけて欠けさせてしまう。その虹のかけらが草を刈り、畑を耕し、実りをもたらしてくれる。そして最後に彼は王様に。あくまで自然の何かが彼にしあわせをもたらす話になっています。

   ジョニは、この話を「自然と共生するカレン族の教えが込められている」といいます。

   カレン族は長いこと、森に暮らし、その森で焼き畑農業をおこなって生活してきました。しかし、近代化が進み、焼き畑農業は自然を破壊する行為と目され、森の木々は伐採されてコーヒーなどのプランテーション化が進みました。化学肥料が施され、大量の農薬がまかれ、単一作物の栽培が奨励されました。コーヒーの次は、遺伝子組み換えトウモロコシ。家畜の飼料にするためです。木々のなくなった丘は土砂崩れが起き、村人は飲み水にも事欠くようになりました。トウモロコシは立ち枯れし、農民たちには借金ばかりが残りました。

   こうした中、ジョニの息子は、コーヒーの栽培を始めます。栽培法は、以前とは大違いのもの。森の木々の木陰に植え、日陰の植物として育てます。すると、無肥料、無農薬での栽培が成功し、村の産物として成り立つようになりました。名付けて「レイジーマンコーヒー」。ジョッカルが口を開けて作物の実りを待ったように、あえて人間の手を施さず、自然の共生を壊さずに実りがやってくるのを待ったのです。ジョニは、「今こそ、カレン族の教えを全世界が知るべきだ」といいます。

   地味なドキュメンタリーですが、世界中の森が危うくなっていて、少数民族の暮らしが成り立たなくなっている現状と、世界規模の趨勢に抗して、なんとか自分たちの文化と暮らしを守るべく奮闘している人たちのいることを知ることができました。ジョニの末娘は、都会暮らしを経験した後、村に戻り看護師として働く一方、村に伝わる伝統的な自然療法を施すセンターを建設し始めています。屈託のない彼女の笑顔は、美しく印象深いものでした。

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