旅限無(りょげむ)

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教育基本法改正の年 其の壱

2006-12-28 14:55:02 | 教育
■NHK・FMの『日曜喫茶室』という番組で、長年テレビ業界に身を置く人達が集まって語り合ったことが有りました。その時、永六輔さんが指摘したのですが、同じニュース番組でも、ラジオとテレビは報道する順番がまったく違うのだそうです。新聞各紙が第一面に持って来る記事が違うのは誰でも知っていますが、ラジオとテレビを比較して接している人は少ないのではないでしょうか?では、どうしてラジオとテレビのニュース番組に報道順位の違いが生まれるかと言うと、「絵になる」かどうか、この一点で決るのだそうです。

■そう言われて見ますと、リモコンを手に入れたテレビの視聴者を逃がさないように必死に努力した結果、民放各局の夕方のニュース・ショーは神経質に「ジャグリング」を繰り返しても、見事な「金太郎飴」状態になってしまった理由も同じなのだと分かります。「絵になる」ニュースを中心に番組作りをしようとすれば、本来のジャーナリズムの使命を忘れて行くのも避けられないでしょうなあ。こうした視点で今年を象徴するような大騒ぎになった「イジメ問題」を考え見ますと、テレビとラジオでの取り上げ方の違いに唖然とするほど驚かされるのであります。

■福島県から始まった県知事の汚職事件では、真っ赤な嘘をイケシャアシャアと口にする知事のアップ画像がどれほど放送された事でしょう?その嘘をついている顔は、後々、真相が発覚した時には何度も繰り返し使用されて天下の晒し者にする最高の道具に変じます。政治的な権力という点で県知事とは比較にならない学校の校長先生や、ほとんど名誉職でしかない教育委員会の幹部などが、県知事や国会議員と同じような扱いで画像が放送されました。テレビの手法としては、「イジメは無かった」と言い張る校長先生や教育委員会の幹部の「絵になる」シーンの直後に、悲嘆に暮れる自殺した生徒の遺族が「絵」となって現われ、モザイクだらけで「絵」になっていない同級生が機械的に加工された声で証言します。

■こうした見世物となった「イジメ問題」が教育問題の主要な要素となって行く間に、『教育基本法』の改正案があれよあれよと思う間に衆参両院を通過して行ったのでした!確かに、学校を現場として自殺事件が起こるのは衝撃的なニュースです。しかし、考えてみると銀行を舞台とする強盗や横領の事件が「金融問題」ではないように、「イジメ自殺」問題は教育問題には直結しない可能性が有るのではないでしょうか?ちょっと、乱暴な連想なのですが……。それ以上に、演出たっぷりのテレビ映像が持っているアナウンス効果が、生命感覚が動揺する思春期の人間の群に波紋を広げて行くと、奇妙な自殺の連鎖が起こるのは誰でも知っていることでも有ります。

■学校に通う生徒が起す事件を、全部丸ごと「教育問題」に押し込んで「学校の責任」を追求するのは、一時の通快感を得られますが、元々、刑事事件を扱う権力機関でもなく、専門的な精神医療の施設でもない学校に、「教育」以外の仕事を何もかも要求するのは問題ではないでしょうか?「教育」は国家100年の大計ではありますが、国家の大事を全て背負い込むような分野ではありません。時には国際平和や環境問題さえも「教育問題」に直結する!などという議論を耳にしますが、教育によって軍事大国になるのではなく、軍事大国が先に出現してから教育を利用する事は有りますが、政府も軍部もまったく戦争を考えてもいないのに、学校教育が軍事色を強めて行って国家に戦争を決意させる事は出来ません。確かに「洗脳」という気味の悪い心理操作が存在しますが、学校がその技術を先頭を切って採用しているのではなく、学校は時代に引き摺られて行くものではないでしょうか?

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