旅限無(りょげむ)

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教育基本法改正の年 其の四

2006-12-30 10:00:37 | 教育

 我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。

■ここでやっと「教育」が出て来ます。改正前はどうだったでしょう?


 われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造を目指す教育を普及徹底しなければならない。

■「平和」が有った箇所に「正義」が入って、「公共の精神」が加えられて「個性豊かな文化(の創造)」が削除された変わりに、「伝統を継承し、新しい文化(の創造)」になっています。欧米好みの「普遍的」という単語も削られているので、書き加えられた「伝統」が光りますなあ。でも、「伝統を継承」するのではなくて破壊する者が「新しい文化を創造」して来たという歴史的事実を隠蔽するのに苦労しているようにも見えます。そして、「…を目指す教育を推進する」というのは、「…を目指す教育を普及徹底」に比べると響きが弱くなっています。これが日本の「伝統」なのでしょうか?まあ、「普及徹底」させろ!と命令する怖い人が居たのが占領時代ですから、何となく誰が書いたのかが透けて見えるような文言になってしまったのは仕方が無いのでしょうが、折角、改正するのですから遠慮しなくても良いのに、とも思える奥ゆかしい文末であります。


 ここに、我々は、日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。

■「前文」の文末に、突如として「憲法」が出現するのには驚かされますが、その理由は改正前の「前文」を読めば簡単に分かります。


 ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。

■ここに有った「新しい日本」の「新しい」を前の段落に移して、「新しい文化」に混ぜ込んでしまっているのは名人芸!改正前の「新しい日本の教育」という文言は、「新しい日本」と「新しい教育」という二重の修飾関係を埋め込んで、戦前の日本を二重に否定する抜群の効果を持っていましたからなあ。「普遍的」を捨てて「伝統」を盛り込むには、文末の「新しい」が邪魔です。そして、「振興を図る」というところに、並々ならない政府の決意が滲んでおりますぞ!この文末を丸ごと削除してしまうと法律の「前文」になりませんし、かと言って「憲法の精神に則り」だけを消し去るのも露骨過ぎますから、「前例遵守」の官僚体質を発揮して、相当に事務的機械的に書き上げたような印象です。

■安倍総理が「憲法改正」を明言しているのですから、もしも、この『基本法』前文を新たな金科玉条とするのなら、この条文を前提として新憲法が書かれるという、奇妙な逆立ち現象が起こることになるわけです。本当に「平和憲法」を一新してしまうのなら、『基本法』の再改正が必要になるでしょうが、果たして、安倍総理大臣はそこまで先を考えているのでしょうか?今回の法律は、「我が国の未来を切り拓く」ために制定されているのですからなあ。改正前の法律は、過去を徹底的に否定する強い調子に満ちていましたから、今回の「伝統」と「未来」とを重視する法律はどうなっているのでしょう?


第1条(教育の目的)
 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれなければならない。

■主権者である国民からの付託を得て、税金を使って行なわれる「教育」行政の目的は何か?その目的が「人格の完成」であるのは、相手が子供なのですから当たり前の話で、問題はどんな人格なのか?という事になります。目標とする「心身」が規定されます。これも改正前と比較して見ましょう。


…教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれなければならない。

■「民主的な」を挿入して置いて、後段の「真理と正義」「個人の価値」を削除しています。そして、何故か「勤労と責任」が消えているのが気になります。まさか、「ニート」やら「非正規雇用」を先送りする目的で、就職活動を支援する学校の役割を弱めてしまおうなどと画策しているのではありますまいな!?
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