旅限無(りょげむ)

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素人がやっては行けないこと 其の弐

2011-12-14 15:28:16 | 外交・世界情勢全般
■日本の次期主力戦闘機(FX)について、野田ドジョウ首相は来年早々に訪日予定のキャメロン英国首相と13日に電話で10分ほど話したそうです。次期主力戦闘機(FX)は「あらかじめ定められた選定手続きにのっとり公正かつ厳正に選定する」と言って欧州共同開発のユーロファイターを買うとも買わないとも言わなかったそうであります。「公正かつ厳正」の公正は遠い昔に政界を揺るがしたグラマン疑獄やロッキード事件を繰り返さないとの意味があるかも知れませんが、厳正の方は「あらかじめ定められて手続き」という名の責任の丸投げを意味しているようで心配です。防衛省内での選定案を取りまとめるはずの一川シビリアン大臣は舌禍事件と問責騒ぎで省内からも忌み嫌われているらしく、「今月に入ってFXの検討内容について一度も報告を受けていない」との報道があります。従って防衛大臣の頭の上を素通りして選定案は上へ上へと揚がって行くことになりましょうが、最終的に誰が決断を下すのかがさっぱり分かりません。

……米ロッキード・マーチン社製の最新鋭戦闘機F35が、金属疲労実験の結果、機体に多数の亀裂が生じるとの恐れが明らかになり、米国防総省が開発計画の見直しに乗り出した。オーストラリアやカナダではすでにF35導入計画見直しの動きが出ているほか、米国側からも日本のFX調達計画を懸念する声が出始めている。
「日本だけが(トランプのババ抜きで)ババを引く可能性があり、戦略的な過ちを犯しかねない」こう語るのは日本の防衛政策に詳しい米大手国防産業の幹部だ。オーストラリアはすでにF35の早期購入を断念し、米海軍の主力戦闘攻撃機FA18導入へシフト。F35の導入遅れで生じる“力の空白”を埋める方向にかじを切り始めた。
F35の共同開発国のカナダも「米財政削減に伴う国防費削減の行方を見極める必要がある」(マッケイ国防相)と慎重な姿勢に転じている。…… 

■自分が担当する沖縄問題に関しても「詳細は知らない」し、沖縄処分などの歴史も知らない一川シビリアン大臣のことですから、豪・加両国の動きなどまったく知らないのでしょうし、日本の防衛に必要とされる戦闘機の能力や適正価格についてどれほど勉強しているのか、はなはだ心細い限りなのであります。先代の菅アルイミ前首相はFXに関して唐突に「軍事に興味があるんだ」とか何とか言い出したことがありましたが、理系大学出身の首相でも第5世代戦闘機の使い方を理解するのは非常に困難だと思われますし、まして農林水産省出身の元官僚である一川シビリアン大臣には選定の仕事は無理というものでありましょうなあ。


「F35の生産計画を遅らせるべきだ」と主張した米海軍のベンレット中将は、国防総省で同機の開発計画を担当する。これまでも開発の遅れを懸念する声は米政府内にもあったが、直接の担当者の証言で、もはやF35の開発遅れは不可避の情勢だ。こうした中、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と英ロールス・ロイスは2日、F35の代替エンジン自費開発を断念すると発表した。「F35の機体の開発、生産スケジュールが不確実で、自費開発による利益確保に影響を及ぼしかねない」からだ。…… 

■エンジンが無くなったら超音速どころか離陸さえ出来ませんぞ!注文主の米国政府が財政赤字で青息吐息なのですから、世界的な不況と経済危機への対応で必死の軍需産業も殿様商売はしていられない御時勢なのでしょう。米国が世界最強の戦闘機を作って維持していられない時代になる予兆のようにも思える大変な事態になったものであります。日本だけが忠義面して最終的な開発コストも分からない新製品を言い値で買って恩義を売ろうと誰かさんが卑屈に考えているのだとしたら、非常に危険なことになりそうです。


オバマ政権に影響力のある「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)の上級顧問、パトリック・クローニン氏は2日、産経新聞に「日本がF35を選択すれば、日本と日米同盟に極端な危険を引き起こす」と述べた。米国内で生産計画を遅らせるべきだとの論議が起きている中、「日本が、F35の購入を決めても米国がもろ手を挙げて喜ぶわけではなく、導入が遅れて日本政府が批判されることになっても、米国はその責任を負おうとしない」(クローニン氏)とみられるからだ。こうした懸念について、ロッキード・マーチン社は2日、「試験飛行などの結果が示す通り、開発はきわめて順調で、安全面での問題も全くない」と反論している。
2011年12月13日 産経ニュース 

■虎の子の新製品をしぶとく売り込みたい気持は分かりますが、報道を見る限りはロッキード社の説明には説得力がまったくありません。日本の防衛官僚はこんな話を鵜呑みにして「公正で厳正な選定」作業を粛々と進めているのではありますまいな?!


米国防総省がF35の調達計画を2年延長させる見通しとなり、大詰めを迎えた航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)の選定作業の見直しが必至だ。米統合参謀本部副議長らがメンバーである国防調達委員会(DAB)の結果を見極めないまま、日本が年内に結論を出すことは「無計画のそしりを免れない」(日本の防衛産業関係者)ためだ。
DABは、国防予算を管理するナン・マッカーディ法の規定で設置が義務付けられており、連邦議会には当初予算比25%以上増額した計画を中止にできる権限がある。DABは来年1月の会議で、F35の2年間の開発延長を決める見通し。これを受け、国防総省が2月、統合執行運営会議を開くとともに、米空軍、海軍、海兵隊が初期運用能力を決定、実戦配備を進めていく段取りだ。こうした米国の運用見直しを待たずに日本政府がFXを選定するのは事実上不可能だ。…… 

■「当初予算比25%」という基準は日本の官僚が得意とする「小さく産んで大きく育てる」公共事業予算の扱い方とは雲泥の差の明確さを示しておりますなあ。日本の土木工事では2倍3倍は当たり前で10倍だの20倍などというトンデモない予算超過が認められていたのでした。米国製の兵器類を買う時に日本はまったく値切りもせず言い値で買ってくれる乗客だったという話もありますが、売主側の方が厳しいコスト基準を持っているというのも不思議な話ではあります。財務省の嫌がらせを避けるためだけに「清水の舞台から飛び降りる」無謀な選定などしてしまうと、同じ台詞で絶望的な大戦争を始めた大日本帝国の轍を踏みはせぬかと心配です。


米シンクタンク、新アメリカ安全保障センターのクローニン上級顧問は「米国側に不確定要素が増しており、日本のF35選定後、価格高騰や遅延が判明すれば、野田政権の選定責任が浮上する」と語っている。日本側には、仮にF35を選定する場合、
(1)DABの結果を見極めるためにFX選定を延期する
(2)F35を選定した上で、(3年間近く生じる)実戦配備までの力の空白を埋めるための措置をとる-という代替案としての“プランB”の策定が不可欠となってくる。
FX候補でもある米海軍の主力戦闘攻撃機FA18について、飛行隊長を務めたフィル・ミルズ氏は「第5世代というビジネス用語を戦闘機に持ち込むことから最新型のFA18に旧式という誤解が生じる」と指摘。欧州4カ国で共同開発したユーロファイターの英BAEシステムズは「制空能力に加え攻撃力もあり、F35に引けをとらない」と強調する。米軍はF35について「主力戦闘機として他に選択肢はない」(パネッタ国防長官)との立場。日本にも将来的な配備は不可欠だが、延期で生じる空白をどう埋めていくかが焦点だ。
2011年12月13日 産経新聞

■こんなに複雑で難しい選定作業を一川シビリアン大臣と野田ドジョウ首相が責任を負って正しく進められるのか?「誠心誠意」や「全力」ではとても足りない大仕事を今の民主党政権が出来るのか?トンデモない時にトンデモない政権と大臣が登場してしまったと、うっかり政権交代に手を貸してしまったことを後悔することが多いとはいえ、震災復興の遅滞遅延や原発事故対応の大失敗に更なる大きな汚点を憲政史上に残すことになりそうな実に嫌な予感がする師走であります。無理をせず、民主党には年内にでも政権を投げ出して欲しいのですが……。
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