「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

なまはげのP波障子を揺すりけり 原田健治 「滝」4月号<滝集>

2015-04-24 04:01:36 | 日記
 なまはげの姿は全く見えていないが、まだ遠くにいるなまは
げを察知して、寒明け近くの障子が震える音を感じた。なまは
げの「気配」を目に見える形で顕かにしている。つまり感覚の
具現化だ。何かの気配を察知した時点で、人間の脳は一瞬思考
を停める。再び動き出した脳は最大出力で気配の正体を探ろう
とする。多くの体験や行為の中を逡巡して「なまはげが来る」
の思考が一気に跳び出す。気配を察知してから思考を形成する
時間は、ほんの一瞬であるような気もするし、永遠が凍結され
るほど長い時間でもあるような気もする。なまはげは存在感が
強すぎるのだろうか、昔から輪郭のはっきりした吟詠が多い。
それらの句と較べるとこの句の新鮮さが際立つ。特に、察知し
た気配をP波と表現したところが新しい。大震災の後、地震発
生のメカニズムはすっかり常識になっており、地震が来る前の
地響きの音はP波によるものだと誰もが知っている。「P波」
の部分を、単に「気配」や「叫(おら)び」「声が」などと表
現するより一層の深みが出た。(石母田星人)

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