タイトルに「吉祥天女拝観」とある。仙台に来た奈良・薬
師寺の国宝を見ての吟詠だ。麻布に描かれた独立画像として
現存最古の彩色画を前に「美しき」と素直に表現するしかな
かったのだ。注目したのは「春の雷」。天女の姿を見た作者
の胸の内に春雷ということばが湧き上がってきた。展示会場
のあの閉塞した空間にいて、なぜ春雷が浮かんできたのだろ
う。そこを探るために作者の胸の内の「命の源」を遡ってみ
ることにしよう。生命を誕生させるためには、たくさんの有
機分子を用意し組み立てる必要がある。有機分子の中で最も
重要なものがアミノ酸。無機的な世界だったはるか昔の原始
地球に、何ものがどのようにしてアミノ酸を登場させたのか。
海中にはさまざまな化合物が不安定な形で溶け込んでいる。
その中には、アミノ酸の構成要素となるものも多く含まれて
いた。また、岩盤や大気も不安定だったため、噴火や雷など
がひっきりなしに起こっていた。原始地球上では放電、加熱、
撹拌、酸化、還元などの反応が四六時中、巨大規模で起こっ
ていた。そんななか雷光によって偶然アミノ酸が「合成」さ
れるような現象が起きた。生命を構成する原初の有機物であ
るアミノ酸は、雷のもつ放電エネルギーで生成されたと考え
られる。生命つまり生物の源を作ったのは雷なのだ。作者は
吉祥天女の御姿に命の源である雷を感じ取った。春の方角の
東を守るのは青龍。その龍は雷の光をもたらし豊饒の大地を
創る。雷を感じ取れたのは、作者の深い感動に天女の思慮が
及んだからだろう。(石母田星人)
師寺の国宝を見ての吟詠だ。麻布に描かれた独立画像として
現存最古の彩色画を前に「美しき」と素直に表現するしかな
かったのだ。注目したのは「春の雷」。天女の姿を見た作者
の胸の内に春雷ということばが湧き上がってきた。展示会場
のあの閉塞した空間にいて、なぜ春雷が浮かんできたのだろ
う。そこを探るために作者の胸の内の「命の源」を遡ってみ
ることにしよう。生命を誕生させるためには、たくさんの有
機分子を用意し組み立てる必要がある。有機分子の中で最も
重要なものがアミノ酸。無機的な世界だったはるか昔の原始
地球に、何ものがどのようにしてアミノ酸を登場させたのか。
海中にはさまざまな化合物が不安定な形で溶け込んでいる。
その中には、アミノ酸の構成要素となるものも多く含まれて
いた。また、岩盤や大気も不安定だったため、噴火や雷など
がひっきりなしに起こっていた。原始地球上では放電、加熱、
撹拌、酸化、還元などの反応が四六時中、巨大規模で起こっ
ていた。そんななか雷光によって偶然アミノ酸が「合成」さ
れるような現象が起きた。生命を構成する原初の有機物であ
るアミノ酸は、雷のもつ放電エネルギーで生成されたと考え
られる。生命つまり生物の源を作ったのは雷なのだ。作者は
吉祥天女の御姿に命の源である雷を感じ取った。春の方角の
東を守るのは青龍。その龍は雷の光をもたらし豊饒の大地を
創る。雷を感じ取れたのは、作者の深い感動に天女の思慮が
及んだからだろう。(石母田星人)
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