「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

本日は六句掲載です。

2013-06-05 07:55:06 | 日記
若冲の鶏雪解けの広瀬川 鈴木ひびき
「滝」5月号<滝集>
見事な二物衝撃の句。鑑賞は難しいと思いながら通り過ぎることが出来ない。読み手を納得させようする言葉はなく、ここに意味を求めても、詠むに至った連想の過程は作者にしか分からないのだろう。絵画のことはとんとわからないが、若冲の鶏と、清冽な雪解け水を集めて流れる広瀬川とに凛とした躍動感が何処かで響き合い、私を放さないのだろう。鶏からグワッという感じで広がっている広瀬川の景色も又、春の手ごたえを伝えて余り有る。(H)

鳥帰る切り口蒼き板ガラス 横田みち子
「滝」5月号<滝集>
少し寂しさを伴う「鳥帰る」である。手元にあるのは板ガラスの「蒼き」と言う切り口。越えなければならない海へ、地球を見ながら飛ぶ鳥の群れへと想像の視線が繋がっていく。
板ガラスの分厚さが氷のようにも思え、それ以上の「物」を思い描くことが出来なかったが、それでいいように思った。遠近の妙が思いを広げる句。(H)


山脈のむらさきめきて卒業歌 大島てい子 
「滝」5月号<滝集>
暖かい日があるかと思えば、急に寒くなったりする頃、褐色だった山の色が紫がかって見えるようになる。遠眼差しに見る山に季語が語る思い出がいいですね。現在の卒業歌は学校によって異なり、それぞれの時代の卒業歌が歌われている。縁もゆかりもない学校から聞こえて来る「仰ば尊し」に我が事を重ねられたのはいつ頃までだったのだろう。ふとそんな事を思い、愚息が中学の卒業式に伴奏をした「大地讃頌」がしばらく耳から離れなかった。(H)

誕生日ひとりぼっちの花見かな 瀧川澄江
「滝」5月号<滝集>
ちょっと淋しい誕生日。桜の見事さを語って、感動を分かち合える人がいないのですものね。でも考えようによっては、一人になる時間をプレゼントしてくれたのかも知れませんね。ゆっくり、俳人の歩幅で桜を愛でたら佳句が授かるかもしれません。時間貧乏の私にはちょっと羨ましい気がしました。(H)


地虫出づ早や傷のある膝小僧 中内美知子
「滝」5月号<滝集>
地上の春の始動を感じさせる季語と、何処で何をして遊んできたのか、さっそく膝に擦り傷をつくって帰って来た男の子。春の陽気につられて出来た虫は、巣穴を出るなやいなや働く蟻でしょうか。傷に薬を付けてもらっている子の傍らに、白いゴムボールをのぞかせたグローブが見えるようです。(H)


スコップを持って墓参の春彼岸 三上由枝
「滝」5月号<滝集>
北国に住んでいればこの「スコップ」の具象に、雪に覆われたお墓を思うでしょう。私も雪掻きをしてお参りをしてきました。降り積んだ雪が溶けては凍り、比較的新しい雪の下はシャーベット状になり、その下は氷になっていて、しかし、土に接している所はうっすらと溶けていて、スコップを刺すと割と簡単に「カパッ」とはがれ取れるような感覚が柄から伝わって来ます。其処には草の小さな芽の緑色が点々と・・・。春を感じる一瞬ですが、まだ冬と春が混在する春彼岸の頃ですね。
同号の瀑声集
「しんがりが雪解の風を抱いてくる 越谷双葉」
は、青森在住のお二人に少し遅れてくる春が上手に詠まれています。(H)


2 コメント

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地虫出づ (今村征一)
2013-06-05 08:29:38
中でも一番好きな句は
地虫出づ早や傷のある膝小僧 中内美知子
でした。
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膝の傷 (博子)
2013-06-05 16:41:39
 頼もしいですね。田舎に住んでいても、外で元気に遊ぶ子をなかなか見られなくなりました。
 
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