哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『経済学的思考のすすめ』(筑摩選書)

2011-05-21 01:22:22 | 時事
 学問として経済学を学んだことはあっても、社会人として生活しているうちに、経済に関して世間で流布している非論理的思考に慣らされてきてしまってはいないか。その原因は、経済は生活に直結するがゆえ、直観的に世間で話される非論理的言動が多く、あたかもそれらが正しい論理的帰結であるかのように受け入れられてしまうからかもしれない。言論の自由がある以上、非論理的思考を語ることは自由だが、それを聞く側がその間違いを認識できないと、とんでもないことになる。民主政システムによって、国の経済政策の選択を間違ってしまうことになりうるからだ。その非論理的思考を簡単に矯正するための良本が表題の本である。


 この本では非論理的思考の例として「アナロジー(似ているものから類推する)例:国の借金=個人の借金のように論じてしまうこと」や「アブダクション(ある事象の結論から前提を真と類推すること)例:ある金持ちは努力してそうなった→努力すれば金持ちになれると類推してしまうこと」との考え方で紹介し、専門家外の者が平気で間違って経済を論じていることを指摘している。


 本書ではとくに前者の類推の仕方を、類推的帰納法と書いている。本来数学における帰納法は厳密に論理的な思考なのだが、生活経済に関しては、メディア報道においても、上記に挙げているような非論理的な類推が確かに多いと感じる。単に世間話として語る分には問題ないが、昨今のメディアでは世間話的非論理的言明が、経済学者以外によっても結構まことしやかに語られることが多いのは、本書の指摘するとおりである。


 本書の後半では、経済学者らしく、市場原理を重視した論調を展開するが、さらに日本の最近の経済低迷の原因について、日銀にインフレ目標の達成を義務付けないからだと断定している。この政策一つで劇的に日本経済は復活するのかは、もう少し他の学者の意見も確認したいところだ。