哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『私とは何か さて死んだのは誰なのか』

2009-04-09 23:44:00 | 哲学
 最後の三部作が刊行された。表題の本には、あの「わたくし、つまりNobody」が載っている。絶版の『メタフィジカ!』が初出という。

 「わたくし、つまりNobody」を最初とし、「さて死んだのは誰なのか」で終わるのは池田さんらしく一貫している。ただ「Nobody」という言葉には、少しだけ違和感がある。というのは、「自分というのは何者でもない」という言い方はその後に出版された本などで池田さんは繰り返し書いているが、「Nobody」という言い方は使わなくなっているからだ。NobodyやEverywhereという言い方は、響きもいいし決して分かりくいわけでもないが、平易な言葉で哲学を語ろうとした池田さんは、安易に外国語を使うことも避けたかったのかもしれない。

 また表題の本を読んでいて、池田さん“らしくない”文章があった。「住民投票に思うこと」という文である。これは未発表原稿だそうだ。
 まず「概念についての議論は必ず空疎」とし「戦争が概念ではなく現実であるように」とある。しかし池田さんは『残酷人生論』で、「戦争という最も観念的な出来事」と高らかに言ってのけたはずである。戦争を「いや」とか「いい」とか言う余地のない具体的現実、とは池田さんは捉えていなかったように思うが、どうであろう。
 さらに言うと、この文の最後の方で、「インターネットの可能性も侮れません」とあるが、インターネットのような便利さ追求による人間性の堕落をあれだけ指摘していた池田さんである。インターネットを肯定的に評価するのは大変珍しいと思う。

 何はともあれ、最後の新刊を味わって読もう。