だてに育ったわけじゃない物語(FINAL)


 お釈迦つづけました。

 そうやって、親に大変な思いをさせておきながら、やがて成長すると思春期になり、友達もできてきます。
 髪の毛を気にし、シャンプーし、とかし、セットし、いい服を着たいとファッション雑誌を買いまくり、109へばかり行き、一度着てはすぐに次の服に手を出します。

そのために親は、子供の自分は穴のあくまで同じ服を着続けているのに親の姿を見ては「ダサイ」などとアホなこというのです。

 親は子供が外出すれば、学校でも、仕事でも、遊びでも、その身を案じないことは一瞬たりともありません。---急病になったりしていないか、交通事故にあっていないか、犯罪に巻き込まれはしないか、不自由な思いはしていないか……と。

 そしてやがて結婚なると、男の子は妻ばかり大切にして、父母を軽んじるようになります。自分たちの部屋や家ばかりで仲良くするようになるのです。

 父母は年齢を重ね、気力も落ちて人恋しくなり、かつての家族団欒を懐かしんでばかりいます。

 いっぽう子供は毎日夜になっても父母のところに来るわけでもなく、電話をかけてくるわけでもありません。

 両親のどちらか一方が亡くなると、ちょうど旅人が見知らぬ宿屋に泊まった時のように、親は一人寂しく取り残されるのです。
 いったいそのどこに親子の恩愛(おんない)の情があるというでしょう。滅多に干さない布団は湿って冷たく、へたをすれはダニなどがでてきてかゆくて、一番中眠ることはさえできないというのに。
枕が湿っぽいのは、寝汗だけのせいではありません。寂しさゆえに、頬をつたって流れるものもあるのだから。

 どれほどため息をついて漏らすことか。「いったいどうして私はこんな親不孝の子を生んだのか、どうしてこんなに親不幸に子に育ったのか……」と。

 ため息まじめにではなく、面と向かって大声で言う時だってあります。
 しかし、そんな時に嫁は、ただ頭をさげるだけで、その実は薄笑いを浮かべます。
 この嫁の親もまた、親不幸です。自分の親にも夫の親にも親不孝なのです。やがて夫婦して、親を罵倒するようになります。

 ある時、親が急病だからと知らせを受けても、10回のうち9回は会いにくることもありません。それどころか「早く死んでくれればいいのに」と罵倒さえするのです。

 親はこれを聞いて涙を流し、両目が腫れてしまうほどです。
 そして思います。――『お前は小さい時、私がいなければ育つことはできなかった。お前のような親不孝者ははじめから生まないほうが良かった…』
 
----   ----    ----    ----

 お釈迦さまのあまりに具体的な話を聞いて、聴衆の中には、懺悔の涙を流す者がたくさんいました。
 人は誰でも、だれかの子供だからです。
 会場の様子が悲しみと苦しみと、後悔の念で充満してしまったので、お釈迦さまは内心シマッタと思いました。
 そこで、こう言いました。

---もし、人々が父母の恩に報いようとするならば、私が今説いている『父母恩重経』を書写し、一句一句を身に保ち、善なる行を積み、仏を供養することである。
 そうすれば、その人は父母の恩に報いることができます。----

 そこまで聞いた時、弟子のアナンが立ち上がって、お釈迦さまに合掌し頭を低く垂れました。

 そうして、その場にいた帝釈天や梵天王、諸々の神や人々、生きとし生ける者はこの経を聞き、喜び、悟りを求める心を発しました。

 またこれらの喜びの声は大地を動かし、感涙の涙は雨の如く流れ、人々は五体を地に伏してお釈迦さまの足を頂き、礼拝し、教えに従ったということです。

―――『仏説父母恩重経』――おわり――

※     ※     ※     ※ 
    
 いかがだったでしょうか、『父母恩重経』。親孝行のお経として、昔から伝わっているもので、これも先の「十王経」と同じく中国成立のお経です。
  たとえが昔の状況ものになっているので、若干訂正してお送りしました。
  ブログやミクシーの日記を読んでいると、よく「生んでくれてありがとう」という若者の記述を目にします。
 私はいつもそれを読むと思うのです。
「その後はどうした?」って。
「ただ感謝をしただけか?」って。
 手紙書いたか?
 電話したか?
 旅行へ行った時お土産送ったか?
 そして、墓参りしてるのか?って。
 善行を積んでるか?
 ちゃんと生きているのか?って。

 親孝行、したい時には親はなし。さりとて墓に布団をかけられもせず……

○      ○      ○      ○
 長くなってしまったので、例のご詠歌の解説は、次次回からのメインで取り上げます。予定変更ばかりです。ぎゃははは。

 明日は、一応お役の通り父母恩重経』全文の一般的な和訳をアップしますね。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )