そして、ここから始まる。新企画スタートです。


 西暦に直せば700年代前半、日本の天皇は45代聖武天皇の御世(みよ)。
 
 大和の国(奈良県)の長谷寺(はせでら)に、高徳で名高い徳道という僧侶がいた。

 ある時、徳道は夢を見た。
 そこは地獄の閻魔さまの前。
 閻魔さまがあごをなでながら、少々困ったという顔をしていらっしゃる。

 徳道は尋ねた。
「閻魔さま。何か思案の最中でございますか?」
「ええ、徳道さん。とにかく困っております」
「何が?」
「最近、死んでからここへ来る者のうち、地獄へ送らねばならぬ者の比率が大変高いのでございます。このままでは、地獄はすし詰め、満員になり、係の者の手も回りません」
「それは、それは。さぞお困りのことでしょう。私に何かお手伝いできますか」
「それは勿体ないお言葉。ではどうでしょう。娑婆の世界に戻りましたら、人々にお寺参りを勧めてください」
「お寺参りですか?」

「そうです。とにかく、娑婆の世界では自分さえ良ければいいというムードが充満しています。たしかに、飢饉が起これば飢え死するしかなく、病気になれば満足な薬もなし、栄養価の高い食べ物とてないのですからすぐに死に至ります。ですからいきおい、せめて娑婆の世界だけも好き勝手なことをしていい思いをしてやろうと、短絡的思考に陥る者が多くなるでしょう」
「そうですな。死んで花実が咲くものかなんて言っておる者が大勢います」

「・・でしょう。せめてお寺参りをして、あの世のことに思いを馳せたり、仏教の教えによって、人として素晴らしい生き方をしようとしてくれれば、私たちも大助かりなのです」
「しかし、お寺参りと言いましても」
「さあ、そこでです。都(みやこ)に近い霊験あらたかな観音さまがいらっしゃるお寺をリストアップしました」
「33?」
「そうですよ。だって、観音さまは人々を救うために33の姿に変身するんでしょ」
「だから33ですか」

「そうです。その33のお寺にお参りして、お経をあげたしるしに、ハンコを押してもらうよう勧めてください」
「スタンプ帳ですな」
「いや、行った記念に押すようなものじゃありません。お経をあげた、つまり口で唱えたとしても、お経を納めた、つまり納経のしるしです」

「ほう、そうやって33のハンコを集めるのですな」
「そうです、そうです。その帳面を持ってこっちへ来れば、厳しい取り調べはカットして、浄土へ行かせます。いわば浄土への通行手形です」

「なんだか、面白いことを考えましたねぇ、閻魔さま」
「だって、そうでもしなけりゃ、地獄が満杯に・・」
「はい、わかりました。やってみましょう」
「おお、ありがとうございます。おい、例のものを徳道さんにお渡ししなさい」

 手下の猫が二匹で重々しく持ってきたのは、両手でどうにか持てるほどの大きな木箱。
 受けとった徳道さんが開けてみると、そこには33個のハンコが整然と納まっていました。
 すると閻魔さまが言いました。
「このハンコをお使いください」
「でも、今は夢の中ですから、これをいただいても持って帰るわけにはいきませんが・・」
「あははは、心配はご無用です。このハンコは別ルートで娑婆に届けておきます」
「そんなことができるのですか?」

「ええ、実は私の部下の中に、罪人たちをそっと見ている猫がおりましてな。闇夜でも見立たぬように黒い色をしております。その猫たちが、運送を担当いたします」
「ほうクロネコの運送屋さんですか」
「ええ、そういえば、徳道さんはヤマトの国の長谷寺においででしたな。クロネコヤマト運輸とでもしましょう。わははは」
「何を将来の人々に誤解を与えるようなことを・・」

「まっ、冗談は別にして、このハンコは摂津(兵庫県)の中山寺(なかやまでら)の裏手に埋めておきますから」
「わかりました。では目が覚めたら早速、仕事に取りかかりましょう」
「お願いしま・・・」

 閻魔さまの声と姿が遠ざかると「お願いしますよ。和尚さま」という弟子の声が聞こえてきました。
 どうやら、何度起こされてもなかなか起きないので、弟子が早く起きるようにお願いしていたのでした。

「不思議な夢を見たものじゃ。しかし、夢にしてはあまりにリアルじゃ。わ、ちょっと摂津の中山寺へ行ってくるぞ」

 でかけて(今の宝塚にある)中山寺の本堂の裏手へ回ると、なにやら最近盛り土をしたような場所がある。
 掘ってみると、なんと昨夜夢で見た木箱が出てきて、中にはちゃんと33のハンコがありました。
「へぇ、こういうことがあるのだな」
 ふと横をみると、クロネコがニャーとないた。
「ごくろうさまだったのう。でも次はペリカンかダックスフンドにたのまないとフェアーではないな」と・・・言ったかどうかは知りません。


 徳道さんはそのハンコを長谷寺に持ってかえり、長谷寺以外の32のお寺の住職に、ことの次第をしたためて手紙を書きました。

 全員から「ほう、いいではないですか。やりましょう、やりましょう」という返事。

---今から1300年前の話ですが、さて、このあとどうなる?
 そして、この新企画の行方は?
  あははは。楽しくなってきた。
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