昨日の続き…ヤナヒメ神社祭りの当日

「へぇー、そりゃまたどうしたことです?」と弁尊さんがききますと、村長さん、
「お祭りの前日になると、この神社の社の後ろの森から、一本の白羽の矢が村へ飛んで来るんです。その矢が屋根に刺さった家は、子供を一人今日のこのお祭りの日に、この神様にお供えをしなくてはならないんですよ。昨日も一本の白羽の矢がこの元兵衛さんの家の屋根に刺さったんで、可愛そうだが一人娘のお里ちゃんを、ほらこうしてこの木の樽の中に入れて、こうして神様にお供えに来たんです。」
「それは、変だ。神様が子供を食べると言うですか?だって神様や仏様は人々を見守ってくれている筈でしょう。そんなお供えなんかしなくても平気ですよ。」と弁尊さんが言うと、
「それが、お供えをしないと、その年に必ず大嵐がやって来て村中の作物が全滅してしまうんです。さぁ、もうすっかり日もくれてしまいました。そろそろ村へ帰らないと神様がお怒りになる。みなのしゅう、可愛そうがだ行きましょう。弁尊さんも、今日は村に下りたほうがいいですよ、でないとお里ちゃんと一緒に神様に食べられてしまいますから。」と村長さんは言いました。
「いやいや、私はここに残ります。どう考えても神様がそんな事をする筈はない。私は、ここへ残って本当はどうなのか見届けることにします。」
どうしても、弁尊さんが村へは下りそうもないので、村長さんは仕方なく、
「まぁ、どうしてもと言うのなら、無理にとは言いませんが、神様に食べられてしまっても、知りませんよ。さぁ、皆さん、帰りましょう。」と言って、村の人達と一緒に村へと下りて行きました。あとに残ったのは弁尊さんと、木の樽に入った、お里ちゃんだけでしたが、お里ちゃんは既に気を失ってしまったのか、樽の中からは何も聞こえません。
 既に空には丸い月が登ってこうこうと冴え渡っています。若い弁尊さんは近くの大きな杉の木にするすると登って、高い梢の枝に腰を下ろして、事の成り行きをじっと見守ることにしました。
 やがて、夜も更けると、遠くの方でお寺の鐘がゴーンと響き渡りました。
 すると、それまで明るく輝いていた月が突如として、黒雲に覆われ、辺りはまるで墨を流したように真っ暗闇になってしまいました。

 この続きはまた明日…。
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