二口山塊、三方倉山標高956m。ひたすらに、肚にしみ込んで行く緑。長い山登りのなかで、これほどに美しい緑を見たことがあったか。そんなことを考える余裕もないほどに、次々と視野に飛び込んで来る、緑、緑、緑。「この木、樹齢400年は越えてるね。」と誰かが言った。幹回りは4人ほどの人が手を繋がないと抱えられない。梢を空いっぱいに広げて、降りそそぐ日光を独り占めしている。
あらとおと青葉若葉の日の光 芭蕉
日光で詠んだ芭蕉の句だが、芭蕉が目にした光景を、このブナは偲ばせてくれる。青葉、若葉の言い回しが面白い。日を受けて青葉になっていくかたわら、新芽の浅緑が出る二重構造こそ、この情景ではなきか。
この山に登ったのは、記憶の限りでは3回目である。同じような季節ではあるが、今年は雪が多かったという。事前の情報収集でほんの2週間前はまだ雪が残っていた。そういう事情もあってか、同じコースを歩いているのに、記憶にない景色が次々と目に飛び込んでくる。前回登ってから5年以上の歳月が過ぎているので、歩行速度も遅くなっていおると思われる。じっくりと、新緑を見ながら登ったためか、その美しが際立っているのは、雪がもたらしたせいであるのかも知れない。
登山を開始してからおよそ1時間半、柱状節理といわれる岩場に着いた。ここから先が、急な登りとなっている。ころごろとした岩の道には、ロープも張ってある。結構な難所と思えるが、ここも前回の時の登りに記憶がない。それほど難儀とも思わずのぼったせいであるのか。その上は高度でおよそ200m、道はジグザグにきられたある。
標高900mを超してから、残雪が確認できた。ほんの少し、雪の上を歩く。すでに、雪の上の歩行が懐かしく感じるようになっている。本日の参加者13名、内男性4名。趣味の世界はあくまでも女性上位だ。足元にはカタクリ、イワウチワ、イワカガミ、シラネアオイなどの可憐な花が咲いている。だが、今日の主役はあくまでもブナの新緑だ。この登山の目的のひとつにシロヤシオの花を見ることであったが、わずか一枝、二枝の花を見ただけであった。
頂上まで2時間少々、11時20分頂上着。ここで昼食。頂上までの距離2.5㌔、標高差600m。その傾斜は厳しいが、しっかりした登山道で比較的楽な登りであった。頂上のから木々の新緑の向こうにどっしりと構える大東山が見える。若者が二人、気軽の声をかけてくれた。我々の歩きをみて、すばらしい、自分たちも見習わねばと。シーズンに数回の登山では、若者といえども頂上まで厳しい登りであったらしい。
下山も急である。ほぼ下りっぱなしで、杉林に来てほっとする。川のせせらぎが聞こえ、鳥の鳴き声も高くなったような気がする。1時40分下山。帰路、ばんじ屋の温泉で汗を流す。気持ちいい風呂であった。