里山も初夏のよそおいである。ワラビを求めて、毎年行っている里山に、妻とでかけた。妻も母を亡くしてから元気がないが、今年初めてのワラビ狩りを楽しみしていたらしい。妻が採ったワラビは、細く食べるのもはばかるようだが、それでも満足していた様子だ。好物の蕗を煮物する分を採った。
石激る垂水のうえのさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも(巻8・1418)
万葉集に収まる蕨の歌である。蕨が出る春を喜ぶのは、この時代から食用されてきた証である。塩漬けにして貯蔵した記録も古文書に見える。また、根を掘ってワラビ粉を作り、これでワラビ餅を作った。今日なお、デパートで売られているワラビ餅がこの時代からあることは感慨深いことだ。
蕨ばかりではない。新緑が一斉に里山を彩り、野草の花も随所に見られる。イカリソウの群落がかわいい花をつけていた。イカリソウは古来精力剤として用いられてきた。50歳になってから妻を娶った小林一茶は、住んでいた里の山に出かけてこのイカリソウ採取している。茎、葉、根など全草を刻み、煎じて温服する。一茶は妻との間に子が出来ても、次々と亡くなっていったので、一茶はこの強精剤を服用して子作りに励んだらしい。