彼を前にして彼女はフリーズしてしまった。彼が彼女に話しかけているのに、彼女にはまったく聞こえてないみたい。隣(となり)にいた友達(ともだち)が彼女をその場から連れ出した。
友達は彼女の頬(ほお)を軽(かる)く叩(たた)いて言った。「しっかりして! 目を覚(さ)ましなさい」
彼女は腑抜(ふぬ)けたように、「あぁ…、あの…、やっぱり、あたし…。もう、ムリだよ」
「なに言ってんのよ。彼のこと好きなんでしょ? せっかく私が会わせてあげたのに…」
「だって彼が来てくれたのは、あなたが誘(さそ)ったからで…。あたしの方が、お邪魔虫(じゃまむし)って…」
「あなたバカなの? いい、よく聞きなさい。私は彼のことなんかどうでもいいの。私は、彼にあなたのことを話しただけ。あなたに興味(きょうみ)がなければ、彼だってここに来てないわ」
「でも…。あたし、昨日(きのう)からずっと考えちゃって…。彼と何を話せばいいのかとか、彼とどう付き合っていくのかとか…。頭の中で色々(いろいろ)シミュレーションしてみるんだけど……。どうやっても、彼とあたしが上手(うま)くいくことなんて想像(そうぞう)できなかったの」
「はぁ? 何してんのよ。そんな先(さき)のことまで考えなくてもいいんだよ」
「だって、彼よ。あの、みんなから一番人気(にんき)の…。あ、あたしなんかが…」
「ほんとバカね。なにビビってんのよ。彼のこと、好きなんでしょ?」
彼女は、心細(こころぼそ)げにうなずいた。友達は、彼女を睨(にら)みつけて言った。
「だったら、勝負(しょうぶ)しなさいよ。いい、逃(に)げんじゃないわよ!」
<つぶやき>頼(たの)もしい友達ですね。恋に踏(ふ)み出すには、これくらい背中(せなか)を押(お)されないと…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。