翌日(よくじつ)、探偵(たんてい)はまだベッドの中にいた。寝室(しんしつ)のドアを叩(たた)く音で探偵は目を覚(さ)ました。ドアを開けて入ってきたのは助手(じょしゅ)の陽子(ようこ)だ。陽子はまくしたてるように言った。
「先生(せんせい)、何やってるんですか? 電話(でんわ)しても通(つう)じないし、こんな時間まで寝てるなんて。もう、信じられない。先生のせいで、あたし、権藤(ごんどう)さんに怒鳴(どな)られて――」
探偵はベッドから起き上がると、上半身裸(じょうはんしんはだか)になっていた。それを見た陽子は、小さな悲鳴(ひめい)をあげて飛び出して行った。探偵はゆっくりと着替(きが)えをすませると寝室を出た。
「君(きみ)は、男と付き合ったことはないのか? 何なら、僕(ぼく)が良い人を――」
「先生! 今、そんなこと言ってる場合じゃないです。権藤さんが連れて来いって…」
「それは無理(むり)だ。これから、朝食(ちょうしょく)をとらないといけない。先に行っててくれ」
「朝食って、もうすぐお昼(ひる)なんですけど…。いつまで寝てるんですか?」
「僕は、寝たいときに寝たい時間だけ寝ることにしている。これが一番、健康(けんこう)にいいんだ」
「また、そんなこと言って…」陽子は卓上(たくじょう)のスマホをとって、「それに、何でスマホの電源(でんげん)を切るんですか? これじゃ、連絡(れんらく)とかできないじゃないですか?」
「そんなもので、大切(たいせつ)な時間を無駄(むだ)にしたくないからだ。もちろん、事務所(じむしょ)に電話をつけるつもりもない。それより、頼(たの)んでおいたこと、ちゃんと伝(つた)えたのか?」
<つぶやき>もしこんな上司(じょうし)だったら、胃(い)が痛(いた)くなりそうですよねぇ。転職(てんしょく)を考えないと。
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