植山町(うえやまちょう)の殺害現場(さつがいげんば)は高級(こうきゅう)マンションだった。殺害されたのは五十代女性・宇野美子(うのよしこ)。警視庁(けいしちょう)の刑事(けいじ)たちも捜査(そうさ)に加わっていた。そこへやって来たのはあの探偵(たんてい)。助手(じょしゅ)の陽子(ようこ)に無理(むり)やり連れて来られたようだ。陽子は探偵の背中(せなか)を押(お)して言った。
「もう、早くして下さい。それでも探偵なんですか? しっかりして下さい」
「そんなに押すなよ。別に僕(ぼく)が来なくても…。そうだ、お昼(ひる)まだだろ? 何か食べに…」
陽子は探偵をマンションに中へ押し込むと、ちょうどエレベーターは鑑識(かんしき)が調(しら)べているところだった。仕方(しかた)なく二人は非常階段(ひじょうかいだん)の方へ――。探偵は陽子を押し止めて、
「なぁ、まさか階段はないだろ? 鑑識が終わるまで下で待ってた方がいいんじゃ…」
陽子は探偵を睨(にら)みつけて、「なに言ってるんですか。五階くらい階段で行けるでしょ。先生は日頃(ひごろ)から怠(なま)けてるんだから、ちょうどいい運動(うんどう)です」
「おい、勘弁(かんべん)してくれ。僕は虚弱体質(きょじゃくたいしつ)なんだ。無理なことをすると――」
陽子は、探偵の言うことなどお構(かま)いなしにぐいぐいと押し上げていった。五階にたどり着くと、そこも警察(けいさつ)の人間であふれている。現場の部屋の前には、捜査一課(そうさいっか)の権藤(ごんどう)刑事が立っていた。探偵を見つけると、嫌(いや)みたっぷりに言った。
「やっと到着(とうちゃく)か? 読(よ)みが外(はず)れたからもう来ないと思ってたぞ。よく顔を出せたなぁ」
探偵は何か言い返そうとするのだが、息(いき)が切れて言葉(ことば)にならなかった。
<つぶやき>無理な運動はしない方がいいですね。さて、こんなんで本当に大丈夫(だいじょうぶ)なの?
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