みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0973「うしろ」

2020-10-23 17:55:04 | ブログ短編

 残業(ざんぎょう)で帰りの遅(おそ)くなった彼女。いつもなら駅前(えきまえ)にタクシーが何台か停(と)まっているのだが、どういうわけか今日は一台もいなかった。彼女は仕方(しかた)なく家まで歩くことにした。
 駅を出てしばらく行ったとき、彼女はうしろに何かの気配(けはい)を感じた。最初(さいしょ)は気のせいかと思ったが、時(とき)おりコツ・コツと小さな音が耳(みみ)に入って来た。彼女はうしろを振(ふ)り返ってみたが、誰(だれ)の姿(すがた)もなかった。「何だ、気のせいか…」と彼女はぽつりと呟(つぶや)いた。
 辺(あた)りは薄暗(うすぐら)く家の灯(あか)りはほとんど消(き)えていた。小さな街灯(がいとう)がぽつぽつと灯(とも)っているだけ。彼女は足を止めた。ここから先(さき)は、田んぼや畑(はたけ)の中を通る道になる。当然(とうぜん)、人に出会(であ)うことはない。彼女は意(い)を決(けっ)して歩き出した。
 歩き始めてすぐ、さっきのコツ・コツという音が聞こえだした。彼女は息(いき)を呑(の)んだ。歩き続けると、その音は少しずつ大きく、早くなっているような気がした。ここで振り返れば、周(まわ)りには隠(かく)れるところはないので誰かがいれば目にすることができる。だが、彼女にはそこまでの勇気(ゆうき)はなかった。彼女は足を早めた。音は、彼女の足音よりも早くなっていく。彼女が駆(か)け出そうとしたそのとき、その瞬間(しゅんかん)――。彼女は誰かに肩(かた)をつかまれた。彼女は大声をあげて、手にしたバッグを振りまわす。
 ――彼女は目の前に倒(たお)れ込んだ男を見て言った。「もう、お兄(にい)ちゃん。おどかさないでよ」
 男は泣きそうな顔をして、「何だよ、お前が、俺(おれ)を置(お)いて行こうとするからだろぅ」
「そんなこと、知らないわよ。どこまでびびりなのよ。いい加減(かげん)にして」
<つぶやき>どうしようもなく頼(たよ)りない兄(あに)ですが、見捨(みす)てないで長い目で見てやってね。
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