マンションの外に探偵(たんてい)が座(すわ)り込んでいた。そこへ助手(じょしゅ)の陽子(ようこ)が駆(か)け寄って言った。
「先生(せんせい)、ちゃんと現場(げんば)を見なくてもいいんですか? もう少しやる気を出して下さい」
「なに言ってんだよ」探偵は自分の頭を指(ゆび)さして、「僕(ぼく)はここで仕事(しごと)をしてるんだ」
陽子は探偵の横に座って、「ほんと、減(へ)らず口ばっかりですね」
「そんなことより、頼(たの)んだこと、ちゃんと聞き込みしてきたのか?」
「もちろんです。えっと、被害者(ひがいしゃ)の宇野美子(うのよしこ)は、夫(おっと)とは離婚(りこん)。息子(むすこ)が一人いるんですが家を出ています。現在(げんざい)、被害者は一人暮(ぐ)らしですね。それで、仕事は――」
「個人融資(こじんゆうし)だろ。それも悪質(あくしつ)なやつだ。手広(てびろ)くやってたんだろうなぁ」
「ど、どうして、そんなことまで…」
「これでも探偵なんだよ。下りて来るとき、主婦(しゅふ)たちが話してるのを聞いたんだ。どうやらこれも単純(たんじゅん)な事件(じけん)だ。後は、あの威張(いば)りくさった権藤(ごんどう)に任(まか)せて、どっかで昼飯(ひるめし)を食おう。もう、お腹(なか)が空(す)きすぎて、頭がまわらないよ」
探偵は歩き出した。陽子は慌(あわ)てて追(お)いかけて、「勝手(かって)なことしたら、また権藤さんが…」
「僕は、警察官(けいさつかん)じゃない。あいつに従(したが)うつもりなんかないんだ」
「そんなこと言って、どうなっても知りませんからね。あたし…、もう……!」
「ここへ来る途中(とちゅう)に中華料理店(ちゅうかりょうりてん)を見つけたんだ。そこへ行こう。君も、お腹をいっぱいにすれば、イライラもなくなるんじゃないのか?」
<つぶやき>彼女のイライラの原因(げんいん)は探偵さんなんですけど。そのこと、分かってるの?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。