みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0596「麦わら帽子」

2019-07-10 19:16:43 | ブログ短編

 あれは去年(きょねん)の夏(なつ)、僕(ぼく)が高二の時のことだ。海岸沿(かいがんぞ)いの道(みち)を歩いていると、風(かぜ)に飛ばされたのだろう、麦(むぎ)わら帽子(ぼうし)が僕の目の前に飛(と)んで来た。赤いリボンのついた女の子の帽子だ。
 僕はそれを拾(ひろ)い上げてあたりを見回(みまわ)した。すると、海岸の方から女の子が駆(か)けて来るのが見えた。たぶん僕と同じぐらいの年頃(としごろ)で…、髪(かみ)が短くてちょっと可愛(かわい)い――。ま、こういうところでは、どんな女の子でもドキッとすることがあるのだが…。そんなとこを差(さ)し引いても、充分(じゅうぶん)おつりがくるような女の子だ。ここら辺(へん)の娘(こ)じゃなくて、よそから海水浴(かいすいよく)に来たのだろう。
 彼女は僕のところへ来ると、「ありがとう」って言って、微笑(ほほえ)んだ。僕は彼女に麦わら帽子を渡(わた)して…。彼女は、何度も頭を下げて行ってしまった。ただ、それだけのこと…。それで話は終わりのはずだった。
 その日の夕方。同じ道を通って帰って来ると、道端(みちばた)の生垣(いけがき)に麦わら帽子を見つけた。赤いリボンがついていて、昼間(ひるま)の帽子と同じやつだ。僕はその帽子を手に取ってあたりを見回した。でも、回りには誰(だれ)もいなくて…。僕は、あの時の女の子の顔が目の前にちらついた。今頃(いまごろ)、捜(さが)してるんじゃないか、困(こま)ってるんじゃ…。交番(こうばん)に届(とど)けようと思ったけど…、つい行きそびれてしまった。その麦わら帽子は、今でも僕の部屋の片隅(かたすみ)に――。
<つぶやき>いけませんねえ。でも、ほんとうにその娘いたのかな? 夏につきものの―。
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