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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0611「非常事態」

2019-07-25 18:35:52 | ブログ短編

 外(そと)は大雨で強い風が吹(ふ)き荒(あ)れている。男は必死(ひっし)に玄関(げんかん)の戸(と)を押(お)さえていた。手を放(はな)したら最後(さいご)、この家は倒壊(とうかい)してしまうだろう。それほど古(ふる)い家だった。男は大声で叫(さけ)んだ。
「アイちゃん! ちょっと手を貸(か)してくれないか! このままじゃ…」
 部屋の中には女がいた。女は爪(つめ)にネイルを塗(ぬ)りながら、イヤホンで音楽(おんがく)を聴(き)いていた。どうやら男の声は届(とど)かないみたいだ。男は、さらに声を張(は)り上げた。女はやっと気づいたようで、「なに? いま、手がはなせないの。無理(むり)いわないで…」
 女は両手の指(ゆび)を立てながら、玄関の方へ歩いて行った。男は女が来たのを見ると、
「何してるんだよ。ちょっと手を貸してくれ。俺(おれ)だけじゃもう…」
「いやよ。あなたが何とかしてよ」女は自分の手を男に見せて、
「今のあたしは何もできないの。見ればわかるでしょ。それに、あなた言ったじゃない。これからは、俺が全部面倒(めんどう)見てやるからって」
「そりゃ、言ったけど…。今は、非常事態(ひじょうじたい)なんだ。頼(たの)むよ」
「あたし、こんなぼろい家だなんて知らなかったわ」
「悪(わる)かったよ。でも、始めに言っただろ。最初(さいしょ)から贅沢(ぜいたく)はできないって」
「それにしたって、これはひどすぎよ。あたし、帰ろかなぁ…。今ならまだ…」
 その時、突風(とっぷう)が襲(おそ)ってきた。男は、必死に踏(ふ)ん張(ば)りながら、
「その話、後(あと)にしないか? 今はこの状況(じょうきょう)を二人で乗(の)り切ろうよ。そうじゃないと――」
<つぶやき>嵐(あらし)は外(そと)だけじゃなく、家の中にも静(しず)かに吹き荒れていたのかもしれません。
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