あいつは女子(じょし)に取り入るのが上手(うま)かった。いつの間にか仲良(なかよ)くなって、女子の輪(わ)の中に入って行く。俺(おれ)は、別に羨(うらや)ましいなんて思ってないけど…。でも、あいつがときどき俺の方を見て、どや顔(がお)をするのが気に食(く)わない。
最近(さいきん)は保健室(ほけんしつ)に入り浸(びた)っているようだ。女子だけじゃなく、保健の先生(せんせい)にちょっかいだすなんて、絶対許(ゆる)せねえ。あの先生は、俺たちの憧(あこが)れの――。
この間、保健室を覗(のぞ)いたとき、あいつがいて…。よりによって、あいつが先生に頭を撫(な)でられているとこを目撃(もくげき)してしまった。俺は、俺は、別に羨ましいなんて…。
俺は心を決(き)めた。俺も、あいつのように――。どうすれば良いのかちゃんと分かってる。今まで、あいつのしていたことは全部(ぜんぶ)頭の中に入ってるんだ。後(あと)は行動(こうどう)に移(うつ)すだけだ。
放課後(ほうかご)、俺は保健室を覗いてみた。生徒(せいと)は誰(だれ)もいなくて、先生だけが机(つくえ)に向かって仕事(しごと)をしていた。俺は保健室に入ると、あいつのしてたように声をかけた。多少、声がうわずってしまったが、これでつかみはOKだ。――そのはずだった。
でも、先生は大笑(おおわら)いして、「何やってるの? あなたには似合(にあ)わないわよ、そんなこと。ねえぇ、人には向(む)き不向(ふむ)きがあるのよ。人の真似(まね)なんてしてないで、あなたらしいアプローチをしなさい。そうじゃないと、恋人(こいびと)なんてできないぞ」
<つぶやき>これが一番むずかしい。たくさん失敗(しっぱい)して、自分らしさを見つけましょう。
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