「くそっ。やっぱりだめだ。暗証(あんしょう)番号を入れないとこの扉(とびら)は開(ひら)かない」
男は扉の前で焦(あせ)る気持ちを抑(おさ)えて言った。さっきから警報(けいほう)が鳴(な)り響(ひび)き、どこからか人の叫(さけ)ぶ声が聞こえてきた。そばにいた女が、男を押(お)し退(の)けて言った。
「代(か)わって。わたしがやってみるわ。見張(みは)っててよ」
女は頭に浮(う)かんが番号(ばんごう)を打ち込んでいく。すると、ロックが外(はず)れる音がした。
「お前、どうやったんだ? 何で、番号を知ってるんだよ」
「そんなこと…、わたしは適当(てきとう)にやっただけよ」
扉が開くと、二人は手を取り合って駆(か)け出した。
次の瞬間(しゅんかん)――。気がつくと、二人は扉の前に戻(もど)っていた。男が扉を開けようと必死(ひっし)になっている。でも、どうやっても扉は開(あ)きそうもない。
「くそっ。やっぱりだめだ。暗証番号を入れないとこの扉は開(ひら)かない」
女は呆然(ぼうぜん)としていたが、男を押し退けると言った。「わたしが、やってみるわ」
女は暗証番号を打ち込んだ。すると、ロックが外れて扉が開いた。
「お前、どうやったんだ? 何で、番号を知ってるんだよ」
「きっと、何度もやってるからよ。さあ、行って。わたしはここに残(のこ)るわ。何かを変えないと、たぶん永遠(えいえん)に同じことの繰り返しなのよ。あなただけでも、ここから逃(に)げて!」
<つぶやき>男なら、彼女を置(お)いていくなんてできないですよ。何があっても離(はな)れないで。
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