あたしは、圭太(けいた)と付き合っている。でも、これはクラスのみんなには内緒(ないしょ)なの。二人だけの秘密(ひみつ)。だから連絡(れんらく)を取り合うのも、二人だけが分かる暗号(あんごう)メモを使ってる。
そんな面倒(めんど)くさいことしないで携帯(けいたい)とかメールがあるでしょ、って思ったよね。あたし達は、そんなありきたりなことはしないの。みんなに知られないように付き合う、このドキドキ感(かん)がいいんじゃない。授業(じゅぎょう)中に二人で見つめ合ったり、偶然(ぐうぜん)をよそおって並(なら)んで座(すわ)ったときなんか、机(つくえ)の下で一瞬(いっしゅん)、二人の手が触(ふ)れる。これは、メールでいっぱい『好きだよ』って送られるよりも、何十倍も嬉(うれ)しいことなのよ。
――放課後(ほうかご)、仲(なか)の良い友達(ともだち)と彼氏(かれし)の話題(わだい)になった。みんなは彼氏の自慢(じまん)をして…。でも、あたしには何も訊(き)いてこなかった。そりゃそうよ。あたし、誰(だれ)とも付き合ってないことになってるんだもん。あたしはみんなの話を聞きながら、優越感(ゆうえつかん)にひたっていた。あたしは、みんなとは違(ちが)うんだから。――友達の一人が言った。
「ねえ、どうして圭太なんかと付き合ってるの? あんな奴(やつ)のどこがいいのよ」
あたしは、目が点(てん)になった。口をあんぐり開けて固(かた)まってしまった。友達は、
「なに驚(おどろ)いてんの。みんな知ってることよ。それより、圭太なんかやめときなさいよ。顔はまあまあだけど、面白(おもしろ)いとこひとつもないじゃない。別れた方がいいよ」
その場にいた友達は、みんな肯(うなず)いていた。――そんな…、何で知ってるのよ。
あたしは、「圭太のことなんか、何とも思ってないわよ。付き合ってるわけないじゃん」
<つぶやき>この後、彼女の恋心(こいごころ)は冷(さ)めてしまったようです。恋に恋していたんですね。
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