みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0604「雪山」

2019-07-18 18:32:18 | ブログ短編

「もう少しだ。ほら、頂上(ちょうじょう)が見えるだろ。がんばれ!」
 男は後ろを向いて、女に言った。だが、女は雪(ゆき)の斜面(しゃめん)に座(すわ)り込んでしまって身動(みうご)きできない。男を見上げると苦(くる)しそうに言った。
「もう無理(むり)よ。あなただけでも、行ってちょうだい。私、ここで待ってるから…」
「なに言ってるんだ。お前をおいて行けるわけないだろ。それに、お前と一緒(いっしょ)じゃないと意味(いみ)ないんだ。二人で頂上に立つって約束(やくそく)したじゃないか」
「ほんとに無理なの。もう一歩も歩けないわ。だから、行って!」
「分かった。じゃ、山を降(お)りよう。……無理をさせて、すまなかった」
「ダメ、そんなのダメよ。この山を征服(せいふく)するのが、あなたの夢(ゆめ)だったじゃない。今までしてきたことが、無駄(むだ)になっちゃう」
「いいんだ。またいつでも登(のぼ)れるさ。次は、必(かなら)ず二人で成功(せいこう)させよう」
 その時、下の方から坊主頭(ぼうずあたま)の白髭(しろひげ)を長く伸(の)ばした老人(ろうじん)が、ひょうひょうと登って来た。二人の姿(すがた)を見て、老人は言った。
「こんな雪の日に登らんでもいいのに。大変(たいへん)だろ? 明日になればきれいに溶(と)けちまうから、また来なさい。この山は逃(に)げやせんからな。ハッハッハッ」
 老人はそう言うと、軽々(かるがる)とした足取(あしど)りで頂上へと向かって行った。二人は老人を見送(みおく)ると、信じられないとうい顔で見つめ合った。
<つぶやき>この老人は何者(なにもの)なのでしょう。仙人(せんにん)、それとも偉(えら)い修行僧(しゅぎょうそう)なのかもしれない。
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