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徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:松岡圭祐著、『千里眼 ファントム・クォーター』(角川文庫)

2021年06月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

千里眼新シリーズ第2巻『ファントム・クォーター』は、1巻で小さく登場していたものを見えなくするグラスファイバーが主題となります。
この繊維はすでにかなりの改良が加えられ、それを被せられたトマホークが日本のある場所に向けられているという情報がある一方で、岬美由紀はロシア大使館を通じて依頼のあったチェチェンへの支援に赴く途中で何者かに拉致され 、気がつくと、そこは幻影の地区(ファントム・クォーター)と呼ばれる奇妙な街角でした。どうやらゲームのルールがあるらしいのですが、何がどうなっているのか謎めいた状況です。
ストーリーの出だしで起こっていた日本の製造業の株価の一斉暴落、見えざる武器を操る組織とファントム・クォーターの仕掛けに関係があるのかないのか、話が進んで1つの謎が解かれても、別の謎や問題が発生する数段階のミステリーを重ねたストーリー展開は、読者を退屈させることなくクライマックスへ導いてくれます。
また、国家的危機だけでなく、臨床心理士としてきちんとクライアントの問題にも同時に対応しているところが目を惹きますね。次元の違うものが絡み合って同時進行する重層性が面白いと思います。

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2021年06月23日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

千里眼シリーズの最新刊『千里眼の復活』を読んだのをきっかけに同シリーズにはいわゆる「クラシックシリーズ」の後の「新シリーズ」があることを知り、思わずシリーズ全巻を大人買いしてしまいました。

新シリーズ第1巻である『千里眼 The Start』は、岬美由紀の生い立ちと空自を除隊して臨床心理士になる経緯を振り返って描かれます。その際に重要な役割を果たした笹島が、千里眼としてすでに有名になっていた美由紀とある事件をきっかけに再会し、ともに飛行機墜落事故予告について調べることに。

事故予告に関する調査が始まってからはいつもの松岡圭祐テンポでスリリングなストーリー展開となりますが、過去の説明からそこに至るまでは少々回りくどく、繫がりもやや無理があるような印象を受けます。
けれども、クラシックシリーズから年月が経過し、その間の心理学的知見の変化・発展が作品に反映されるとともに、スーパーヒロイン岬美由紀のスーパーぶりがやや抑えられて人間味が増したような設定になっているところは興味深いです。
現状のリアルを踏まえつつ絶妙にフィクションを交えて独自の近未来図を描き出すことを意図した作品だそうです。2007年の作品に描かれた近未来のうち14年後の現在、現実のものとなったのはどのくらいあるのでしょうか。

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書評:松岡圭祐著、『千里眼の復活』(角川文庫)

2021年06月22日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


『千里眼』シリーズも12年ぶりの新刊が出ました。
私は5年ちょっと前に『千里眼完全版クラシックシリーズ』12巻16冊 を一気読みしたのですが、実はこれには「新シリーズ」と呼ばれるものが10巻14冊あるんですね。『千里眼の復活』はこの「新シリーズ」の続編なので、その存在を始めて知ったのでした。知ってしまったらもう読むしかないですね(笑)

『千里眼の復活』はコロナ禍後の日本が舞台で、航空自衛隊基地百里基地から仮配備されていた最新鋭戦闘機F-70が盗み出されるところから始まります。このF-70は架空の戦闘機ですが、欠陥だらけなのにトランプ元大統領にほとんど強引に売りつけられたF-35の完全改良版という設定で、1機だけ日本に購入させたことになっています。
F-70は在日米軍普天間基地にも配備されており、そこからも同様に盗み出されてしまいます。このF-70は性能が良すぎて味方でも発見できないほどステルス性に優れ、F-35が束になってもかなわない戦闘機。これが2機、謎の敵の手にわたり、東京と青森が空爆されます。
自衛隊の方ではF-70のデータ流出に関わったと目される情報処理官に対する捜査が行われますが、催眠誘導で消されたらしい記憶を呼び起こすために臨床心理士の嵯峨がことに当たったものの、機密情報が明かされないままでの誘導には限界があったため、彼の提案で元自衛隊パイロットであるこのシリーズの主人公・岬美由紀が担当することになります。これによって国家の危機に深くかかわることになった美由紀が独自ルートで捜査をすることになります。

このストーリーは、日本の離島が中国やロシア勢に売却されてしまっていることの問題点を浮き彫りにします。現行法では日本の土地の売買に買い手の国籍制限や使用目的制限などがなく、外国勢が無人島を購入してそこに軍事拠点を作ったりすることを阻止できない現状です。日本領土なので、日本の法支配は受けますが、完全私有地であるため、所有者の同意なく警察権力が介入することはできず、監視もできないという都合の悪い状況です。
実際に軍事拠点が作られているかどうかはもちろん不明ですが、可能性として領土内に敵の拠点を抱え込むリスクがあるのは確かです。
本作には言及されていませんが、水源を含む土地も外国勢にどんどん売り渡されている現状は国防の観点からだけでなく、国の将来の存亡にかかわる資源問題です。きちんと危機感を持って対策を講じないと、少子高齢化による人員不足、経済力低下、兵力低下で最低限の自衛すらままならない状況に陥るのではないでしょうか。
この作品はそういう意味で政治批判的な「警鐘」と解釈できます。

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書評:松岡圭祐著、『特等添乗員αの難事件 VI』(角川文庫)

2021年06月19日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

万能鑑定士Qの事件簿 0』同様、『特等添乗員αの難事件』シリーズの最新刊が今年の2月に発売されていたことを完全に見逃していました。
現在進行中の『高校事変』シリーズは「続刊予約」で自動購入にしていましたが、『特等添乗員αの難事件』シリーズは2014年に発行されたV巻で完結したと思っていたので、まさか7年ぶりに新刊が出るとは驚きました。
ファンにとってはV巻から時間が7年跳んでいるわけではなく、スムーズにつながっているので違和感がなく、それでもなお現在のコロナ自粛などの状況が反映されているところが「最新」という感じがします。
一方で、前作を知らない人にとってもスムーズに入りやすいように工夫されていると思います。ヒロインの浅倉絢奈が、婚約者の執事に一風変わった花嫁修業を受けていることや、その内容であるところのラテラルシンキングやロジカルシンキングの話に興味を覚えたら、シリーズ前作を読んでください的な書き方のように思いました。
適度にこれまでの設定や経緯が説明されているので、7年も経って色々忘れていた記憶が徐々に蘇って来てちょっと懐かしいという気がします。
さて、VI巻のストーリーですが、絢奈が韓流芸能観光が問題となっている韓国ツアーに添乗することになります。政治的状況から失敗が許されないツアーであるにもかかわらず、一癖も二癖もありそうな9人のツアー客を連れて行くことになります。景福宮のフリータイムで参加者の1人が倒れ、絢奈が駆け付けると別人に成り代わっていました。倒れた女性はある芸能事務所の練習生ユジョンで、病院まで付き添っていた絢奈の同僚が事情を聴く間もなく事務所の部長とやらにほとんど強制的に引き戻されてしまいます。絢奈たちは行方不明になったツアー参加者を探し続けますが、韓国警察も旅行会社も大人一人が勝手な行動をしただけと取り合わず、状況が掴めないままとりあえず他の参加者とともにツアー続行します。ところがショッピングタイムでは女性客2人が異様なほど爆買い。それが実は同じツアー参加者のK-POPファンと思われる母娘を恐喝してそのクレジットカードを使ったものだったことが判明します。後にこの母娘も失踪してしまい、ツアーバスは東南アジア系のいかにも危険な臭いのする男たちに囲まれるという感じに謎のハプニングが次々に起こって息つく暇もなくスピーディーにストーリーが展開していくところが松岡圭祐ならではの筆致というところでしょうか。
韓国の政治と芸能界の裏の腐敗を抉り出すようなストーリーですが、「人の死なないミステリー」というモットーは堅持されているので読後感もさわやかです。




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2021年06月19日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

2016年に『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの〈叫び〉』で終了したはずのシリーズから昨年最新刊が出ていたのですね。完全に見逃していました。

『万能鑑定士Qの事件簿 0』の舞台は2009年、凛田莉子がチープグッズから独立した直後で、まだ自分自身に自信が持てず万能鑑定士Qという名前の重圧に喘いでいた頃の話なので「ゼロ」の番号がついています。
都内で発見されたバンクシー作とおぼしきステンシル画の真贋判定に強引に巻き込まれてから、あれよあれよという間に舞台は熱海、グアム、そして福岡へと広がっていきます。熱海では複製博物館のようなところでなぜかゴッホの真作 と思われるものを発見し、グアムではホテルで開催されていた地元文化(の勘違い)を示す展示品の中になぜか漢委奴国王印の本物の輝きを発見し、福岡市博物館に問い合わせるものの一笑に付されてしまいます。しかし、後に本物の漢委奴国王印を保管しているはずの福岡市博物館ではすり替わった贋作が発見されます。この一連の事件の裏で糸を引いているのは誰なのか、そして何が本当の目的なのか、ワクワクするミステリーです。しかも人が死なない。
グアムでは3巻以降なかなか新刊が出ていない『グアムの探偵』シリーズのヒガシヤマ親子が登場し、莉子をサポートして事件の解決に貢献します。こちらも早く新刊が出て欲しいものですね。



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2021年03月26日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


この高校生・優莉結衣を主人公にしたバイオレンス小説もついに10巻まで来ました。
結衣の異母妹である凜香の実母・市村凜は意識不明の重体に陥っているはずでしたが、彼女が入院している病院で看護師が殺害され、捜査が進むうちに入院患者が意識を取り戻し、市村凜ではないことが判明します。さて、本物の市村凜はどこで何を企んでいるのか?
一方で、結衣はなぜか国際文化交流のためのホンジュラス訪問を予定している慧修学院を訪問し、校長に面会しますが、あっという間に追い返されます。彼女のこの謎の行動は、後にホンジュラスでの武装集団による襲撃の裏に優莉家長男の架祷斗があったことで理由が明らかになります。父・匡太の遺志を実現しようと着々と力をつけ準備を進めてきた架祷斗はホンジュラス訪問中の慧修学院3年生の生徒たちを人質に日本政府に要求を突きつけますが、政府は極秘裏に自衛隊特殊部隊を結衣とともにホンジュラスへ派遣します。こうして結衣は人質の生徒たちを救い、兄の愚行を止めるためにまた戦闘の只中に突入するわけですが、本物の統率の取れた軍人相手にほぼ全く歯が立たず、何度も「これまでか」という状況に追い込まれます。
この巻の特徴は、結衣の独壇場ではなく、明らかな味方による助けがあることでしょう。
長男との戦いは次巻へ持ち越されますが、次は最終回でしょうか?いよいよクライマックスという印象を受けますが、ひょっとしたらあと2巻くらいあるのかもしれません。どう決着がつくのか楽しみです。





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書評:三浦綾子著、『銃口』上・下巻(角川文庫)

2021年01月03日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


数か月前にFB友の1人からお勧めされて買っておいた三浦綾子著、『銃口』上・下巻。最近の読書傾向は知識を入れる系か軽い娯楽に偏っており、題材の重さからこの作品をずっと保留にしていたのですが、年末年始でちょっとまとまった休みが取れたこともあり、ついに読むことがかないました。

『銃口』は、大正天皇ご崩御の折についての「綴り方」(今でいう作文)で、寒かったことばかり書いて先生に天皇陛下に対する崇敬の念が足りないと厳しく怒られることから始まる、北海道は旭川の質屋の長男として生まれた北森竜太の数奇な人生を描く大河ドラマです。竜太が多大な影響を受けたのは、綴り方で怒った先生ではなく、その後に小学3年~6年まで担任となった、生徒一人一人の家庭環境や個性を考慮して寄り添い、差別をなによりも嫌い、「どうしたらよいか迷った時は、自分の損になる方を選ぶといい」 といった助言をした坂部先生でした。彼に憧れ、彼のような教師になりたいと師範学校を出て、昭和12年に教師となった竜太でしたが、炭鉱町の小学校で「綴り方」の授業を推進するなど教育の理想を目指す彼のもとに、言論統制の暗い影が忍びよります。
竜太は天皇陛下の御真影が祀られる奉安殿に最敬礼することに何ら疑問を持つものでもなく、天皇陛下の「皇国民」を育てる重要な任務を自分なりに真っ当しようとする教育信念を持っており、新聞もろくに読まないために政治や国際情勢のことには明るくはないという、明らかに当時の普通の日本人の価値観を持ち合わせていた人間です。それにもかかわらず、綴り方が全人格的な教育に最も重要な科目であるとして結成された「綴り方連盟」の会合にたった一度だけ幼馴染で同じく小学校教師になった芳子に誘われて参加し、そこに参加者として記名したことが仇となってしまいます。治安維持法がどんなものなのか、「アカ狩り」を噂に聞くことはあっても自分には関係ないと思っていた竜太でしたが、「綴り方連盟」が熱心な教師の集まりというだけでなく、「反政府思想を持った不穏分子である」という嫌疑をかけられたばかりに、数十人の教師たちが一斉検挙され、竜太もそれに巻き込まれたのでした。7か月間留置所に拘留され、有罪判決どころか裁判もしないうちに退職願を書くことを強要され、心が折れかけていた竜太は、旭川の留置所に移送され、坂部先生とたった10分の面会を許された際に言われた言葉、「同じだよ、竜太。自分がこんなに弱い人間であったかと何度自分に愛想が尽きたことか。しかしね竜太、自分にとって最も大事なこの自分を自分が投げ出したら、いったい誰が拾ってくれるんだ。自分を人間らしくあらしめるのは、この自分でしかないんだよ。」 --これによって、自分を持ち直します。
恩師の坂部先生は拘留中に受けた拷問のために亡くなってしまいますが、竜太は生きて釈放され、保護観察の身となります。
綴り方連盟関係者の一斉検挙は一切報道されなかったものの、人の口に戸は立てられないため、竜太をスパイ・非国民扱いするものもあり、彼は結局家業の質屋を手伝うしか選択肢がなくなります。それでも家族に支えられ、幼馴染の芳子と拘留で延期してしまっていた結婚を数日後に控えた竜太の元に今度は赤紙が舞い込みます。
結局、芳子と結婚できないまま満州に出兵し、得難い戦友や理解ある上官に恵まれ、酒保という軍隊の中では安全な役割を果たしながら終戦間際まで過ごしますが、何人殺した、何人強姦した、死姦が最高などと聞くに堪えない自慢話をする古参兵や、本当に些細なことで部下に暴力をふるう上官などを見たり話に聞いたりして、そんな獣のような行いが本当に「天皇陛下の御心に適うことなのか」(上官の命令は陛下の命令とされていたことから)と疑問を抱いたり、酒保の上官である山田曹長の「自分の命が生まれてくるまでに何万年かかっている」というような命の大切さを説く言葉を受けて、改めて生きるとは何かを考えることになります。
そして、昭和20年8月9日にソ連軍の砲撃に合ってから山田曹長始め残っていた少数の同胞たちとの逃避行に移ります。この間の竜太の体験がまた強烈ですね。生き延びるために銃を捨てる決断をした山田曹長に従ったのは竜太だけだったので、たった二人で朝鮮を目指して行くわけなのですが、食料も尽きて国境近くまで来たところで抗日運動家たちのアジトに出くわしてしまい、あわやこれまでかという状況になるのですが、ここの隊長をしていたのが、以前竜太の父が助け出したタコ部屋逃走者の朝鮮人・金俊明で、「命の恩人の息子だから」と竜太と同行者の山田曹長を命がけで日本に送り届ける手配をしてくれたのです。
おかげで無事に帰国・帰郷し、芳子とも晴れて結婚し、紆余曲折の末、教師にも復職することになります。

ネタバレになるほど粗筋を書いてしまいましたが、この作品の醍醐味はストーリー性ではなく、主人公・竜太がどういう人たちに出会い、何を体験し、どう考えたかというその思考過程とその際に発せられる言葉の力にあるので、粗筋を先に知ったところで読む意味が薄れることはないと思います。
私にとって衝撃的だったのは、まず、言論統制下にあって、明らかに反体制の思想を持っていた人たちばかりでなく、竜太のような体制に従順な市民にまで嫌疑をかけられ、特高に捕まって拘留されたということです。もちろん、反体制だったら捕まって拷問されたりしてもいいということではありませんが、当時の常識と思想・言論の自由が法的に保証されている現代とでは価値観が違います。当時は国民が一丸となって敵と戦い、東洋に西洋人の奴隷ではない平和と共栄をもたらすことが是であり、それに反する者や天皇に仇成す者は団結を乱す悪であったわけですから、反体制の共産主義者たちが取り締まり対象になったのは当時の価値観においては理に適っており、特高は自分たちの仕事をしただけと言えます。これは、ハンナ・アーレントが、ユダヤ人大量虐殺の事務処理をしていたアイヒマンに見て取った「悪の凡庸さ」に通ずるものです。
しかし、竜太のような体制に従順な非政治的な市民に思想犯の嫌疑をかけるのは、当時の価値観においても尋常なことではなかったはずです。これは、一度思想を統制しだすと、社会全体がパラノイア化し、些末な違いさえも敵視されるようになることの現れなのでしょうね。
作者の伝えたいことの主眼はここではないことは十分承知していますが、私自身が「リベラルがかってるから危険」と言われたことがあり、それで実害を被ったわけではないにせよ、勝手に決めつけられることに対する悔しさや悲しみを味わった経験から他人事とは思えなかったのです。また、それと同時に、私のような世界の様々なことに批判的ではあっても基本的には無害な者まで危険視する人の精神世界や環境を想像して、ふと恐ろしさも感じたのでした。

この作品の主眼は、「人間は人間である」という当たり前のことです。人として当たり前のことが、果たして当たり前にできているのかという問いかけです。学歴が高いから、お金を稼いでいるから、社会的に地位が高いから偉い人間なのではないし、学歴が低いから、貧乏だから、xxだから劣っている人間ということもありません。立場やステータス、性別や民族や国籍や信教・思想の違いを超えて、差別なく同じ人間として尊重する、困っている人に手を差し伸べる、優しい慈しみの心、真心を持てるかどうか、これによって人間の真価が決まります。この作品中にあるようにキリスト教の「神の前の平等」をその考えの拠り所とすることも可能でしょうし、(原始)仏教のようにすべて人間の無明のなせるわざ、慢によって人は苦しむのだから、それを克服してあらゆるものに対して差別なく慈しみの心を持つべきであるという思想を拠り所とすることも可能でしょう。宗教的・思想的な根拠はともかく、重要なのは他人を同じ人間として差別なく尊重できるのかどうかという点です。
『銃口』では、主人公・竜太の父が、騙されて過酷な労働条件のタコ部屋に入れられ、日本人じゃないということで迫害を受けたために逃げ出した朝鮮人・金俊明を救い、祖国朝鮮へ帰る手助けをします。その差別ない真心に応えて十数年後、金俊明は、外地を敗走していた竜太の命を助けるわけです。
それよりは小さな恩返しですが、竜太たちが満州を逃げ出すときに道案内役を務めた満州人・李も、たくさん嫌な扱いを日本人からされていたものの、山田曹長や竜太には優しくしてもらったからという理由で、仲間から裏切り者扱いされる危険を冒して竜太たちを助けました。人が人として真心をもって向き合えば、民族の違いを超えて真心で応えてもらえることもあるという、心温まるエピソードですね。これぞまさに「情けは人の為ならず」というところの人間性の真髄ではないでしょうか。

国だの支持政党だの社会的立場など「枠」や「敵味方」で物事を考えているとついつい大切なことを、そして自分自身をも見失いがちになってしまいしまいますが、人として人と向き合い、差別なく慈しみの心を持ちたいものですね。


書評:松岡圭祐著、『高校事変 IX』(角川文庫)

2020年10月25日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行



松岡圭祐の『高校事変 IX』を最新刊自動購入でひょいと電子ライブラリーに入ってきたので、さっそく読みました。

フェリーでの激闘から数日。公安の監視を受けながら孤立した学校生活を送る中、体調不良を訴える優莉結衣は、前巻まででだいぶ和らいできていた心がさらに解されて、かつての担任教師にも感情を吐露してしまいます。そのこと自体に彼女自身が戸惑っている様子も丁寧に描かれていて、ただの高校ハードボイルドじゃない、「そうだ、これは青春」という感じがします。

宿敵・田代勇次とこの巻でいよいよ決着がつきます。結衣の体調不良で、前半はだいぶ勇次に出し抜かれていますが、後半で盛り返していきます。まあ、主人公ですので当然ですが(笑)

これで終わりなのかと思いきや、新たな敵?新章が始まるようです。

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2020年08月28日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


続刊自動購入に設定してあったので、『高校事変』の最新刊が発売と同時にサクッと私の電子本棚に入って来ました。このところ読み漁っている影響力や説得術、知性や思考力関係のものはとりあえず脇に置いて、乱入してきたこの本を一気読みしました。
在日ベトナム人の闇社会を牛耳る田代ファミリーは前巻での兵力と武器の密輸入に失敗し、多大な損失を出して追い込まれたため、最後の総力戦とばかりに多大な報奨金をかけてありとあらゆる反グレたちを結衣にけしかけます。突如行方をくらました男子生徒の謎、担任教師となった伊賀原の暗躍……。午前零時、「結衣狩り」が始まるかに思えましたが、伊賀原の仕掛けた罠のため事態は脇道へ逸れていきます。それでも結局また、死体の山が作られてしまいましたね。もう、こういうストーリーだから仕方ないと諦めてますが。
しかしながら、結衣の味方は確実に増えていて、憎み合っているかに見えた(異母)兄弟姉妹たちも結集して、結衣自身の心も少しずつほぐれてきたようです。
次の戦いは警察相手になるのでしょうか?それとも新たな敵が登場するのでしょうか?あの、植物状態から奇跡的に目を覚ましてしまったおばさんが結衣の味方になるのか敵になるのか、その辺りの伏線は次巻で回収されるのでしょう。

個人的には『グアムの探偵』の続きの方が読みたいんですけど。あちらは血なまぐさくなくていいんですけどねぇ。

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2020年05月30日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


高校事変の最新刊が出たました。
忙しくてもついついがーっと読んでしまうのが松岡作品です。
結衣は京都の緊急事案児童保護センターに収容され、13歳の時に初めて人を殺した悪夢を見るところから物語がスタートします。新型コロナウイルスが猛威をふるう春、センバツ高校野球の中止が決まった折、結衣が昨年の夏の甲子園である事件に関わったと疑う警察が事情を尋ねに来て、結衣を甲子園署に連行します。
そこからその1年前の事件についての結衣の長い回想に入ります。
その1年前の事件の概要が明らかになったところで、時間軸が現在に戻り、現在進行中の甲子園での緊急事態に焦点が当てられます。
その事件の背後にもベトナムからの帰化人田代槇人とその組織が関わっていて、今回もかなりの死傷者が出ます。
そろそろマンネリ化してるとも言える結衣の戦いですが、支持者も増えてきて、結衣の人間性がまたほんの少し丸くなって、「アオハル」を微かにけれどもどこか自嘲気味に受け入れる心情が、悪をせん滅するためとは言え殺すことに躊躇しなくなってますます苛烈になっていく慣れと非常に対照的で、これからどう転ぶのか気になる余韻を残していますね。

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