まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

米国M&A契約の落とし穴条項

2014-10-01 21:45:28 | M&A
○ 米国企業の入札方式の買収案件では、最終買収候補に選ばれたときには売主企業側から買収契約書のドラフトが送付されてきて、これを買収側が一部修正(先方原稿に書き込むという意味でMark-upと言われています)して修正案を提示して契約交渉の詰めが行われます。売主が用意しますので、当然売主側に有利な条項が多いのですが、中には一見売主が有利なのかわからない条項やTrickyな条項が含まれています。米国では、それに気づかない、修正しない買主側がその責任を負えばよいという発想なのでしょうか?M&Aは、性善説で行ってはいけないということですね。米国では弁護士も含めて結構cheating society (ちょろまかし・ごまかし社会)という面があるのではないかと思っています。今回は、一見すると分からない落とし穴条項(勿論個別の契約で違うのですが)のいくつか(気づいた範囲ですが)を、取り上げて見ましょう。

1) Data Roomの情報
「Data roomで開示された一切の情報は、買主にdisclosed, provided, deliveredされたものとする。」という条項⇒膨大な資料を手分けして見ても、現実的には、どこにリスクがあるのかわからない場合が多いのではないか。しかし、きちんと見て、それなりのヘッジをしないわけには行かない。売主提示ドラフトには、「the disclosures in each Disclosure Schedule are exceptions and qualifications to the representations, warranties and covenants set forth in the Definitive Agreement (DA)」(ここでのQualificationsというのは「制限」という意味です)と、親切に?書いてあるものもあるので、Disclosure Scheduleも含めて、きちんと丁寧に読まないといけません。売主は、ひっかけ/Tricky条項をDisclosure Scheduleに忍ばせているケースが時々あります。要注意です。
注意:a.DDで見つけたリスクは、買主として認識しているので、売主の表明保証対象外となる。Disclosure Scheduleで明確に表明保証対象外とするむね確認する。
b.表明保証の各論ではなく、一般論で仮にカバーされていても、買主が知っている場合には、表明保証責任違反としては認められない可能性が高いので注意が必要。
c.「買主が知っていたとしても売主は、表明保証責任を免れない」という規定が契約書の入れば良いが、そんな規定を認める売主はいない。

2) Rep. & Warrantyの限定
「表明保証条項に規定した以外の事項は、一切表明保証しない」という条項⇒これはカウンターが必要ですね。修正として、表明保証は、重要な点で真実正確で、かつ重要事項は全てカバーされているとしないといけないですね。

3) Actual Knowledgeという限定
例えば、「Seller’s Actual Knowledge of Bill Clinton, xx, xx 」と記載。 これは、売主のBill Clinton,xx,xxが実際に知っていたことに限定(knowledge qualifier)されます。しかも、その立証責任を買主が負う事になります。この立証責任はかなり困難だと思います。日本でも、不祥事のときに経営トップが、「知らなかったとか記憶にありません」と言い逃れしますね。これは経営者ではないですね。仮に知らなかったとしても経営者として知るべきであったことは当然含まれるように、また人の限定をしてはいけませんね。

4) Material Adverse Effect (Change)=MAC条項の濫用
法令(税法・環境法令も含む)違反、ビジネス、表明保証等についてMaterial Adverse Effectを及ぼすことはしていないとか、closingの条件としてMACに該当する事実が起こっていないという条件をいれます。即ち軽微なものがあっても、その責任は負わないとか、軽微な事が発生してもclosingは予定通り行うという条項があります。当然、売主と買主側が考えるMACには、大きな隔たりがあります。売主側は、経済状況・為替相場の大きな変動があっても、これはMACに該当しないので契約実行を求めますが、買主側にとっては、これら経済状況・為替変動などは、事業の見通し・買収額の変動に大きな影響を与えるとしてMACに該当すると考えるでしょう。どこまでをMACとして定義するか検討・交渉して決める事項です。例えば買主の場合なら、Closing直前までに15%以上の為替が不利に変動したらMACに該当する等としておかないといけません。相手のdraftのまま見過ごしてはいけないですね。

5) Indemnificationの規定
Closing date後、売主が表明保証違反等により買主に損害を与えた場合、そのindemnification(補償)をどの範囲で行うのか規定が設けられます。普通は、個別案件の損害額と、これが積み重なった総額の損害額の2つの視点から損害賠償額の補償の規定がなされます。また総額についても買収額の20%とか15%とかのCapがはめられるのが普通です。
① 一件当たりUS$1万以上の場合はその全額で、かつ総額が$10万以上の場合には、の全額を補償する。例:1件5万ドルの損額が11件の場合=$55万の補償
② 一件当たりUS$1万以上の場合はその全額で、かつ総額が$10万以上の場合には、$10万を超える部分のみ補償する。55-10=$45万の補償
③ 一件当たりUS$1万以上の場合は、1万ドル超過分のみで、総額が$10万を超える場合は全額を補償する。4万x11=$44万の補償
④ 一件当たりUS$1万以上の場合は、1万ドル超過分のみで、総額が$10万を超える場合は、その超過額を補償する。4万x11=$44万-10万=$34万の補償
 規定の仕方によって、補償額がことなりますので、注意が必要です。


○ 一般的な落とし穴は上記ぐらいだと思います。しかし、個別案件でしばしばTrickyな条項に会います。Asset deal(=closing dateの譲渡財産額で価格調整)で、事前に取り決めた運転資本額をClosing dateの運転資本額で調整する案件がありました。運転資本額が増大すれば買収価格(支払額)が増える条項です。運転資本額のDisclosure Schedule記載の計算式にはAccount receivable(A/R)が入っていますが、譲渡資産にはA/Rが入っていません。つまり売主は、A/Rを意図的に増やして、その分受取額をかさ上げ、ねこばば出来るのですね。日米の一流法律事務所の自称M&A専門弁護士が数人担当していました。どうでもよいDisclosure Schedule(closing date現在でup-dateされるもの)を丹念に調べてしっかりfeeを取られましたが、こういった買主にとり重要な事項の指摘はありませんでした。

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