まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

会社分割のピンぼけ規定

2009-10-10 23:19:07 | 商事法務

     またまた会社法に対する「けち」ですね。会社分割の規定についてです。新設分割でも同じですので、吸収分割の規定を引用します。

       757条:会社は、吸収分割をすることができる。この場合においては、当該会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社(吸収分割承継会社)との間で、吸収分割契約を締結しなければならない。

       758条1項二号:承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務

       758条1項四号:承継会社が分割に際して分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等について、株式の数又はその数の算定方法並びに資本金及び資本準備金に額に関する事項等

       一方467条には事業譲渡の規定があります。この規定では「事業の譲渡」と言っています。「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」等とは言っていません。

○ 会社分割でも、実質は事業譲渡と同じですね。方式が違うだけで中身は一緒です。勿論手続的な違いはあります。

― 事業譲渡では譲渡資産・負債には個別承継手続が必要ですね。しかし債権者保護手続は不要です。従業員は転籍ですね。

― 会社分割では資産・債務・雇用契約は包括的に移転します。債権者保護手続が必要となります。従業員の承継には労働契約承継法(=会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成十二年法律第百三号)が適用されます。

       「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」というのが全くのピンぼけです。事業というものは、人・物(資産等)・金(資本金や負債)・情報・技術等が有機的一体となって機能する単位の事です。権利義務だけで成り立っているものではありません。有機的一体となって、人が動き、知恵が生まれ、ノウハウが出来、収益を生む素地ができるのです。権利義務の一部なら、機械一個でも権利義務の一部です。これでも会社分割ができるという規定の仕方になっています。事業というものは、個別の権利の総和を超える、1+1が3になるものなのです。

○ 権利義務の全部又は一部に代わる=対価として株式を交付する」というのも全くピントがぼけています。権利義務の対価として金銭等が交付されるのではありません。

   有機的一体となった事業を評価して、それに対して株式等が交付されるのです。権利義務は事業の構成要素ですが、要素の全部ではありません。うまくいかず赤字の垂れ流しというのもありますが、事業というのは、権利義務を越える価値が生じるのです。収益力があるなら、それに相応しい評価が得られます。取引先関係・信用も引き継ぐケースが多いでしょう。権利義務に対して金銭等が交付されるのであれば、それは単なる資産(権利マイナス負債・義務=ネット資産)の譲渡の対価でしかありません。

       権利義務を越える価値とは何でしょうか。まあ営業権といいますか、「のれん」ですね。営業権とは、企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊な製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係」(最判S.51.7.13

私の目からみると、会社分割の規定は非常におかしいですね。もっときちんと規定できないものでしょうかね。

コメント
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