○全部取得条項付種類株式とは、法務省の解説(「一問一答 新・会社法 法務省大臣官房参事官 相澤 哲編著」)によると、2以上の種類の株式を発行する株式会社における、そのうちの1つの種類の株式の全部を株主総会の特別決議によって取得することができる旨の定款の定めがある種類の株式としています(171条1項、108条1項7号)。いわゆる100%減資等を円滑に行うために、株主全員の同意を得ることなく株式の全部を取得する制度に対する要望と、株主の利益保護とを勘案したものということです。
・続けて、以下の様に解説しています。
-普通株式に全部取得条項を付けるためには、株式の内容を変更する旨の定款変更をするために、特別決議が必要+全部取得条項付種類株式の種類株主総会の特別決議が必要(111条2項、324条2項1号)。
-全部取得条項付種類株式は、取得条項付株式のように定款に権利内容の重要な事項が全て明確になっているわけでは無く、定款で全部取得条項を付した時点で、取得対価等の権利内容が決定されていない場合もあり、取得対価等を取得の決定のための総会の特別決議で定めるとしています。(そうは思いませんね。こんな種類株式を発行するときは、既に債務超過状態ですから、取得対価は無償とか1円とか決められるのが普通ではないかと思います)。
-取得条項付株式の取得の場合は、重要な事項(取得対価等)は、既に定められているので、後は一定事由(条件)を充たす日(168条1項)や取得する株式(169条1項)を定めればよいので、(取締役会設置会社では)取締役会(取締役会の無い会社は総会普通決議)で決定できるとしています。(でも取得条項付株式を発行するときは、事前に定款に規定されていない限り、定款にその内容を規定しますので、その場合は、種類株式発行会社である場合を除き株主全員同意の特殊決議ですね(110&111条)。事務的な一部の事項だけ取締役会で決められるわけですね)。
-全部取得条項付種類株式の総会では、取得する必要性の説明をした上で、分配可能額(財源規制)の範囲内(461条1項4号)での対価の内容・対価の割当に関する事項・取得日(171条1項)を決定するとしています。
○株式の消滅を意味する株式の消却は、昔の商法では、例えば、資本の減少と共に行いましたね。しかし、会社法では、株式の消却を、①自社株式を取得して自己株式にして、②自己株式を消却するという、二段階方式に整理しました(178条)。即ち、資本金の額の減少と株式の消却の関係を切り離しましたね。
○よくわからないですね。この種類株式は。
・2以上の種類の株式の発行会社での種類株式としながら、全部取得し消却する100%減資用の株式としています。もう1種の株式は残りますよね。全種類の全株式の100%減資ではないですね。この株式は消却して消滅しますが、他の種類の株式は残りますね。
・100%減資は、普通は債務超過の会社が行いますよね。にも拘わらず財源規制をしています。そんな財源は無いですね。これでは100%減資ではないのではないでしょうか。まあ、普通は無償取得してその取得株式の消却ということになると思います。
・取得条項付株式と全部取得条項付種類株式の違いは、①特別決議で決めるべき重要な事項、即ち取得対価等の権利内容が決定されているかどうか、②平時に定めておくか、債務超過等の緊急時に定めるかではないしょうか。
・ということは、普通の取得条項付株式についての規定で、当たり前のことですが「取得対価等の重要な事項は、株主総会の決定&総会決議は特別決議とする」とすれば、わざわざ全部取得条項付種類株式という、変種の株式類型を定める意味がどれだけあるのか疑問が生じますね。
○では、どういった場合にこの種類株式が利用出来るのでしょうか?
【想定内の利用―この例は知りません】
普通の会社は、普通株式のみ発行の会社ですね。この会社が債務超過の状態に陥ったけれども、スポンサーが登場して再建しようとする場合等の特殊なケースでしょうか。再建のため既存株主の保有株式は全部消却(100%減資)という場合のときですね。まず会社が、定款変更により新たな種類の株式発行を可能とし、これに従いその種類の株式をスポンサーに対して発行する。既発行普通株式については、全部取得条項付種類株式とする定款変更の決議を行う。総会決議を経て、会社が全部取得条項付種類株式となった旧普通株式を無償で取得しその上で全部を消却すると、スポンサーに新たに発行された種類株式だけが残るという場合でしょうか。でも、私は、これも取得条項付株式でできると思うのですけどね。取得条項付株式が2種類必要なときは、甲種・乙種とすればいいのではないでしょうか。
【想定外の利用―実例が数件ぐらいあるのではないでしょうか】
・TOB等で2/3以上の普通株式を取得して、総会特別決議を通じて定款変更&議案決議を行い、普通株式をこの種類株式にした上で会社が取得し、身代わり株式として交付する普通株or種類株のくくりを調整して=1株未満にして、少数(特に個人)株主を排除する為に利用されていますね。
・株式併合と類似ですね。違いは、この種類株式を利用した場合は、株式買取請求権や取得価格決定申立が出来ますが、株式併合の場合は出来ませんね。でも実際は殆ど同じではないかと思います。つまり、株式のくくりを調整して,追い出すことには変わりがありませんからね。株式併合のときは、端株をまとめて売却してその売得金を分配しますね。確かに権利が違うかも知れませんが、少数株主が権利行使して争うのは、バカバカしくてしませんから、現実的にはお金を渡されて排除される訳ですね。
・但し、税務上は扱いが違うかも知れません。(法人税基本通達2-3-1等)。この辺のことはよく知りませんので、ご存じの人は教えて下さい。
(株主を追い出す手法をsqueeze outと呼んでいます。しかし、正確には少数株主を法的に排除する手法はfreeze outで、事実上排除するのがsqueeze outと言うとも言われています。私は、どっちでも構いませんけどね。)