○ 学者、例えば神田教授は、「剰余金配当・配当規制の問題は、会社債権者と株主の利害調整の問題として、会社法の会計規制のなかでのもっとも中心的な規整である」(神田 会社法 第7版 P244)と言われています。私は、会社を経営した経験から、債権者と株主は必ずしも直接利害が衝突するものではないと考えています。そういう点から言いますと、学者の見解は全くの「的はずれ」です。例えば、現在日経新聞に私の履歴書を連載されている住生活グループ前会長の潮田健次郎さんは、債権者への支払いの資金繰りに大変苦労された記事を書いておられます。株主は登場しません。
○ 「的はずれ」の理由は以下です。
1) 債権者にお金を払わなければ会社が潰れます。事業が継続出来ません。会社が潰れたら、株主への配当など考えられません。残余財産等ありません。経営者は、取引先への債務の支払い、従業員への給与・ボーナス支払いを、株主への配当よりも遙かに重要で優先します。というか、優先しないと会社が潰れます。
2) 株主に配当しなくても、会社は潰れません。うるさい株主がいて配当が出来ずに「誠に申し訳ない」と言うかもしれませんが、赤字の会社の経営陣は、それどころではないのです。会社業績を回復させるべく、汗をかいています。
3) 会社が儲かっているように蛸配当を行う経営者がいます。例えばカネボウですね。しかし、キャッシュが回るから行う訳です。債権者への資金繰りが出来、その上ごまかして配当ができる資金繰りが出来るから蛸配当を行うのです。債権者への支払いが出来ないのに株主へ支払う事はありません。
4) 株主は、会社に対しては配当を期待します。出来れば継続的な高配当を望みます。つまり会社の継続を望みます。当然です。潰れれば株式は二束三文どころか、普通は無価値です。会社が高業績を上げて、配当もキチンと分配し、株価が上昇することを望みます。
債権者への支払をしなければ、会社は存続出来ない等と言うことは、馬鹿でもわかりますし、利益・分配可能剰余金がなければ、配当が受けられないぐらいの初歩的知識は、大抵の株主は持っています。
5) 株主への支払いは、純利益の20%とか50%とかの少額です。配当性向ですね。回数は、普通は中間と期末の年2回だけです。今度の会社法では、いつでも法令に従った手続きを経れば出来るようになりましたが、まあ、四半期毎行っても年四回です。債権者への支払いは、多額で、通常は毎月末、場合によっては適宜頻繁に行われます。時期・回数・金額は、配当と全く違います。少額の配当金と多額の債権者への支払いを同じレベルで考える発想自体がおかしいです。勿論キャッシュフローという共通点はありますが。
6) 米国での剰余金・配当規制の考え方は、日本と大幅に異なりますね。それについては、「日米の剰余金配当の考え方」として以前Blog↓に書きました。
http://blog.goo.ne.jp/masaru320/d/20071022
米国では、考え方が非常に単純明快で、実際的です。即ち、「債権者への支払いが出来ないような配当はしてはならない」としています。これは経営者にとって、当たり前の事です。債権者への支払いが出来そうにないのに、配当などする筈ありません。そんなことしたら、会社潰れるじゃんーと言うことですね。
○ 債権者と株主との利害調整の問題は、配当については殆ど問題無いと考えます。あえて言いますと、債権者への支払いと、自己株式(厳密に言うと自社の株式を取得することによって自己株式となる)取得の財源規制との関係で、問題は少しある場合も考えられないこともないですが(963条5項1号とも関連する)、これもあまり問題ないのではと思います。