ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

NHK番組「メイドインジャパン これが逆襲のシナリオだ」を拝見した話の続きです

2013年05月14日 | 日記
  2013年5月11日土曜日と12日日曜日の午後9時から1時間枠で、NHK(日本放送協会)が2回にわたって放映したNHKスペシャル「メイドインジャパン これが逆襲のシナリオだ」を拝見した話の続きです。

 第一回目の番組の中で、「パナソニックのノート型パソコン事業が今後のパナソニックの在り方を占う事業態勢だ」との取締役社長の津賀一宏さんのコメントを紹介しました。事業収支をある程度、確保し続けている実績を評価しての発言だと思いますが、パナソニックを背負う中核事業にはならないことも確かです。液晶テレビやエアコンディショナーなどの中核事業と事業規模が違い過ぎます。

 旧松下電器産業時代に、元々、コンピューター事業は手がけないと判断したことから、パソコン事業にかなり遅れて参入し、確か、当時のAV(オーディオ・ビジュアル)機能に強いパソコンとしての製品を売り出しました。しかし、すぐにデスクトップ型はシェアが取れず撤退しました。

 当時の日本市場でのパソコン大手はNECと富士通などです。これに対して、エプソンが一時頑張りますが、現在は注文仕様中心のパソコン事業に収まっています。

 意外なことかもしれませんが、ノート型パソコンは日本企業の東芝が開拓した日本発の製品です。1989年に東芝が発売した「Dynabook J-3100SS」が世界初のノート型パソコンです。当時の先進パソコンユーザーが欲しがるニーズを探り、基本仕様を考え、製品化し、市場をつくり上げました。製品コンセプトを日本の企業が考えました。たいしたものです(ワードプロセッサーなどの製品が下ごしらえをしたと考えています)。
 
 ただし、日本の国内市場では先進パソコンユーザー向けでしたが、東芝は米国では軍用の携帯型パソコンという市場を確保し、事業収支を確保するという戦術を用いました。価格がかなり高い製品でした。東芝は、ノート型パソコン向けの高性能・薄型液晶パネルの開発で先行します。一時は、ライバルのノート型パソコンメーカーにも販売し供給しました。

 この日本発の製品であるノート型パソコンは、その後はNECや富士通などが参入し、米国IBMやアップル社も参入し、混乱状態になりました。その中で、一時はソニーが「VAIO」ブランドのノート型パソコンなどで高い事業収支を上げました。

 こうした状況の中で、旧松下電器産業のノート型パソコンはニッチェ市場で生き延びるという苦難の道を歩きました。その典型例は、第一回目の番組の中で映像として紹介された水をかぶっても、落下しても壊れない工事用などの野外で使える堅牢なノート型パソコン市場で開花します。企業が野外向けなどの用途向けとして購入するので、性能優先で、コスト重視ではない用途を確保しました。

 こうした状況で、松下電器産業のパソコン事業を救ったのは、部品事業です。何回も事業撤退の危機があったのですが、光ディスクの駆動装置の光ピックアップ部品の事業などが下支えしました。例えば、携帯型DVD(多目的光ディスク)プレーヤーなどの製品事業ではある程度の成功を収めます。ソニーと東芝と松下電器産業はCD(コンパクトディスク)やDVD、その次世代規格ディスクで競合し協力し合いながら、世界をリードする企業でした。

 この結果、ノート型パソコン向けの光ディスク駆動装置などの供給メーカーとして存在感を高め、パソコン事業と組み合わせて事業形態を進化させてきました。その内に、高性能なノート型パソコンは、松下電器産業製がいいというブランドを確立しました。特定の性能重視のユーザーから信頼を勝ち取ったのです。

 NHKの番組は、事業規模は小さいがある程度の事業収益を確保している独特の存在感の事業として、社長は評価しているという雰囲気のコメントを伝えました。しかし、その具体的な評価内容は伝えていません。「日本企業の逆襲のシナリオが分かる」という事例になっていません。消化不良な内容でした。

 5月12日日曜日に放映した第2回の冒頭に伝えた3D(3次元)プリンターの事業性も正直、分かりませんでした。



 既に、日本では試作品市場では3Dプリンターが利用されています。これに対して、米国のある企業は、3Dプリンターをある程度の規模の部品生産事業に育てるというビジネスモデルを提案し、実行しています。そのビジネスモデルの中身の紹介がありません。樹脂でつくれる部品という制約をどうクリアするのか、量産加工法とどう競合するのか、よく分からない映像内容でした。

 日本企業が考えもしなかったビジネスモデルを提案し、成功する米国企業も現実にありますが、それなりの理屈のビジネスモデル案になっています。

 一番気になったことは、米国の3Dプリンター事業を推進するマネージャーが「従業員はいらない」という発言です。人件費があまり必要ないというビジネスモデルのようですが、これでは米国で製造業が復活しません。米国のアップル社が製品の企画・設計を担当し、台湾・中国企業に組み立て生産を委託するモデルと似たようなものです。

 米国に製造業の人材を育てる生産工程の従業員を必要とする事業を育成する戦略を、オバマ大統領は立てています。この戦略とは異なります。3Dプリンター事業の具体的な可能性も示せない、表面的な紹介でした。