傑作ぞろいなのか? という疑問は別として、英国における “ 怪奇 ” が
少しだけ理解できたような気がします。
辞典で調べると “ 怪奇 ” とは、1. 説明できない不思議なこと 2. グロテスクな様子
となっておりますが、イギリスでは1. の不思議で、ある意味ファンタジックなことに
比重がかけられているのではないかしら?
『13日の金曜日』的阿鼻叫喚はなくて、ちょっと背筋が寒いかもね、という感じ。
この本に収められている8篇の中には1篇だけゴーストらしきものが登場しますが
その表れ方は控えめで、後から「もしかして… 」と驚く、というものです。
ジェントルですね。
『園芸上手/R・C・クック』
高齢の未亡人ボウエン夫人は、野菜や花のみならず
熱帯植物や薪になった木まで根づかせてしまうほどの園芸上手です。
ある日庭に捨てておいた兎肉の骨から兎が生えて跳んでいきました。
兎が生える様がちょっと気持ち悪いのよ…毛が生えてくるまではね。
このあとボウエン夫人が斧で指を切ってしまい、その指が庭に残ってしまうんです。
もしやボウエン夫人まで生えてしまうんじゃ…
『人殺し/ウィリアム・ワイマーク・ジェイコブズ』
友人マートルを殺してしまったケラーは、彼を庭に埋めました。
その後は庭づくりに余念がなく、立派な岩石庭園ができ上がったのですが
ある朝、庭がめちゃくちゃに掘りおこされていました。
人殺しがすべからくケラーのような目に合って自責の念にかられてくれたら、
と思うばかりです。
なんにも感じないで普通にしている人ばかりだったら、怖くってしょうがないね。
『ラズベリージャム/アンガス・ウィルソン』
11歳のジョニーは、村中の人から忌み嫌われているスゥインデール老姉妹を
心からの親友だと思ってただひとり庇っていました。
でも、ある午後のお茶会を境に姉妹とは二度と会うまいと決心します。
人々が親しくおつき合いをしていた時代にも孤独な老人は存在していたのですね。
もちろんこの老姉妹にはたくさんの問題があったのですが
問題が先か、孤独が先か? そこが悩ましいところです。
誇らし気に何百年前のゴーストが出ると言って聞かせてくれる気質や
妖精や精霊などが語り継がれているアイルランドの影響などがあることも
要因のひとつかもしれませんが、怪奇小説もどことなくノスタルジックで
美しく仕上がっている気がします。
ドバー!とかウギャー!という耳にうるさい擬音はまったく不要です。
この本には入っていませんが、デュ・モーリアやエリザベス・ボウエン、
エリザベス・テイラーなども、ぞっとはしますがどこか優雅ですよね。
眠る前に読んでも大丈夫な気がします。
余談です
福武文庫ってわりと「お!」って思うものがあったんですけどね。
ベネッセになってから文庫って出してます?
復刊してもらえないかしら…