ラドヤード・キプリング
読みづら~い
訳者橋本槙矩氏によると、かなり読みやすく訳したということですから
原文はどんなだか想像するだに恐ろしいですな。
キプリングで一番最初に読んだのが『旅路の果て』というインドを舞台にした短編で
植民地を目ざした英国人の苦悩が描かれていて面白かったものですから
期待して読み始めたのですが、ちょっとベクトルが違った気がします。
『めぇー、めぇー、黒い羊さん(Baa,Baa,Black Sheep)/1888年』
5歳のパンチと3歳のジュディはボンベイから帰国すると叔父の家に預けられます。
パンチはローザ叔母と息子ハリーに虐めぬかれ、学校でも、可愛い妹にも
バカにされるうちに、偽ることを覚えて無表情になっていきます。
人は虐げられるとどう変わってしまうのか? 興味深い1篇でした。
もちろん持って生まれた性格もあるのでしょうが、人格形成に周りの環境が
及ぼす力は大きいのかもしれないですね。
『橋を造る者たち(The Bridge Builders)/1893年』
ガンジス河に橋をかける公共事業に携わる英国人フィンドレイソンとヒッチコック。
もう少しで完成というある晩、河に洪水の兆しが見え始めます。
残された時間は6時間ほど。水夫ペルーが母なるガンジスの怒りについて語ります。
これは『旅路の果て』に通じるところがありました。
他人の国で行うインフラ整備や公共工事、こちらは善かれと思ってやっていても
土地の人がどれだけ感謝しているかは謎ですね。
そういえば、父が昔ゼネコンにいて、ダムとか高速道路とか造っていたのですが
台風だ、地震だというと家より現場を心配して飛び出して行ってましたねぇ…
『メアリ・ポストゲイト(Mary Pstgate)/1917年』
メアリがコンパニオンとしてミス・ファウラーに誠実に仕えてから11年。
軍隊に入っていたミス・ファウラーの甥が飛行中に死亡しました。
数日後町で少女が物置きの下敷きになって死にました。
メアリは敵の爆弾だと思いましたが、医者は物置きが崩れただけだと言います。
その後メアリは庭で墜落した敵機と負傷した兵士を見つけます。
敵というのははっきり書かれていないけどドイツかと思われます。
村上春樹氏の『遠い太鼓』に書いてあったような気がしますが
ドイツってすごく低空から爆撃してたんですってね?
そんなに愛情あふれる間柄だったとは思えないのですが、メアリは主人の甥の
復讐を企てます。 長年勤めたからこその行いだったのかしら?
キプリングは作家連には天才と言われたそうで、ヘンリー・ジェイムズあたりは
褒め上げてますが、未熟な私にはよく分かりません。
9篇収められていますが、ありがちな物語というのはひとつもないので
引き出しは多かったんだろうなぁ…と思います。
ただ短編にしちゃ話しの本題に入るまでが長いのよね…