SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画「イノセント・ボイス」~ 生きてこそ!

2006年08月02日 | 映画(ア行)
 
 世界は知らないことだらけだ。驚きに満ちた世界ならまだしも、「悲惨」に満ちている。この映画の現実が1980年代の出来事だと知って愕然としてしまう。

 赤紙が来て家族との別れが・・・・、というのは大戦中の日本の風景。この映画の場合は普通に学校に行った小学生が、その学校で家族さえ知らない間に軍隊に取られてしまうという世界なのだ。

 エルサルバドル政府の、農村に対する圧制に耐え切れず蜂起したゲリラとの15年に及ぶ内乱。ゲリラの根を断ち切るには子供の内に政府軍の兵として訓練してしまおうというわけだ。12歳になるとその子供狩りの対象となる。

 クラスの女の子に対する淡い思いも持てば遊びにも興じる、どこにでもいる普通の子供たちだ。だけど家にいて食事をしていても眠っていても、いつ銃撃戦が始まり弾丸が壁を突き破ってくるか分からない毎日。
 そこで徴兵を逃れるには先手を打ってゲリラの側に志願するしかない。しかし敵国のある戦争ではなく内乱、戦う相手は同胞なのだ。同じクラスに学んだ子供同士が銃を向け合う可能性もあるわけだ。

 劇中でゲリラ兵が奏でるギター曲や、子供たちの飛ばす色鮮やかな「紙ホタル」(極小サイズの熱気球だ)が闇空に消えていく風景に詩情が漂う。

 主人公の少年は危機一髪のところで難を逃れるが、これはけっしてご都合主義ではなく脚本を担当したのオスカー・トレス自らの体験に基づくものらしい。そうやって生き延びたからこそ、観客はこの現実を目にすることが出来るのだ。

 たまたまこのストーリーを語るのは自分になったが、これは他の誰になったかも分からない・・・・という意味のナレーションが最後に流れる。
 まさに生きてこそ!の、奇跡の物語なのだ。