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SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「スマグラー おまえの未来を運べ」

2011年11月04日 | 映画(サ行)

 コミックが原作らしく登場人物も劇画調に、衣装も演技も過剰気味でコミカル。ではあるけれど、中身はなかなかにハードだ。

 タイトルは密輸業者の意味で、裏社会の訳あり物を運ぶ闇の業者の話だ。例えば人間の首無し死体とか・・・。一方の首の方は別に宅配で送り届けられるのだから物騒だ。

 タイトルロールの運び屋は永瀬正敏が演じている。これがはまってカッコいい。主役の妻夫木聡は役者志望のフリーターで借金で困り果てたすえ、この稼業でのバイトを斡旋される。

 劇中、延々と続けられる拷問シーンがあり、これに耐えられるかどうかが評価の決め手だ。これに並ぶ拷問シーンはメル・ギブソンのキリスト受難映画「パッション」くらいしか知らない。

 一応めでたく任務は遂行され、話は完結する。もしシリーズ化するとすれば永瀬の運び屋が次は何を運ぶか?、あるいはフリーター妻夫木が次はどんな困ったシチュエーションで役者魂を見せるか?、二つの路線が考えられる。タイトルから言えば前者だが。

映画 「親愛なる君へ」

2011年10月13日 | 映画(サ行)
 特殊部隊の兵士が2週間の休暇を故郷で過ごしている。浜辺でサーフィンをやっているときに地元の女子大生と知り合う。休暇が終わって青年は戦場へ・・・。

 予告ですべてが分かってしまうような典型的なラブストーリーの予感。本来ならパスしたかもしれない作品を鑑賞したのは、名作「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」を撮ったラッセ・ハルストレム監督の作品だったから。

 特殊部隊ゆえ任地を明かせない二人をつなぐのは手紙のみ、という古典的な展開。しかし予告ですべては分からなかった。二人の運命の行方を大きく変えていくことになる突発的な事件が起こる。9.11だ。

 任務を終えて除隊、結婚という二人の夢は、対テロの国家危機の前に吹き飛んでしまうのだ。どうなる二人?

 意外な展開で遠回りはするけれど、ほろ苦さを湛えつつもどちらかといえばハッピーな結末には違いない。

映画 「4月の涙」

2011年06月02日 | 映画(サ行)

 20世紀初頭のフィンランド内戦の物語。ロシア革命の影響を受けた急進的な赤衛軍と政府系の白衛軍の争いだ。敗走する赤衛軍女性部隊の全員が、投降後輪姦されて荒野に放されたあと、脱走として銃殺される。

 これを違法として追求する若い准士官が、ただ一人の生き残りを正規の裁きの場へ連れて行くというのが主筋である。長い旅の中でほのかに心が通い合うように見えるが、女性は心を開いているわけではない。

 原野にポツンと建つ、これが裁判所か、という施設に人文主義者と言われる判事がいて、彼が判決を下す事になっている。

 ここが異様な雰囲気を持っており、「地獄の黙示録」のマーロン・ブランドが王のように君臨した「帝国」のような様相を帯びているのだ。

 戦争が知的な人文主義者であった判事を変貌させている。彼の隠された秘密によって、たどり着いた二人の運命がどのような結末を迎えるか、極めて上質のサスペンスを見るように最後まで目が離せない。

 久々に映画らしい映画を堪能できた。これは大人の映画だ。

映画 「白いリボン」

2010年12月15日 | 映画(サ行)

 オーソドックスなモノクロ画面で、ドラマはあくまで静かに進行する。

 舞台は第一次大戦前のドイツの小さな村。悪意に満ちた不可解な大事件が次々に起こり始めるが、引いたカメラは客観的で、饒舌にならない。

 ある村で教師をやっていた若者の回想として事件を推理する語り口であるが、犯人が明らかになるわけではなく、起こった事実以外には何も明かされない。

 地主である男爵家といくつかの家族の、家族内の秘密が描かれる部分があるが、それが事件とどう関わるのかは観客の想像に任される。

 それらは若者の知りえない部分であるはずなのに、全体が回想というオブラートで包まれ、曖昧さは回想の霧の向こう側にあるからと錯覚させる知的な構成になっている。

映画 「桜田門外の変」

2010年12月09日 | 映画(サ行)

 日本の行く末を案じて井伊直弼暗殺を企てた水戸藩士たちがどういう結末を迎えたか、ハシゴをはずされて行き場を失った一人一人のその後が丁寧に描かれている。

 主な配役以外は個々のエピソードが乏しいために、名前を出されても、その人がどうなったといわれてもピンと来ない。途中で七名の藩士が評定を受けるシーンがあるが、名前を呼ばれて刑場へ連行されるまで、七回の繰り返しを延々と映している。長回しに意図があるとも思えず、芸のなさに退屈してしまう。

 冒頭に用意された暗殺シーンの、敵味方入り乱れての死闘は見応えがある。ただ、あの雪の降りしきる朝、隠れるでもなく大勢の侍がいるのを、井伊側の誰も不審に思わないものだろうか?事前に動きを知らせる書状が届いていたにもかかわらず・・・。

 街道沿いでもない皇居桜田門外のだだっ広い場所に茶店が一軒、雪にもかかわらず開いており、実行までの間、そこで藩士が時間をつぶしているのも不思議な光景だ。

 配役は豪華なのに、今年公開の時代劇の中ではやや見劣りする一本だった。

映画 「最後の忠臣蔵」

2010年12月03日 | 映画(サ行)

 忠臣蔵の後日談。討ち入り前夜に姿を消し義士を離脱した瀬尾孫左衛門の秘話が主筋となる。

 孫左自身が必死で隠そうとする離脱の理由が最大のミステリーであるわけだが、予告でもチラシでも、それは既知の情報として観客に与えられている。

 そんなに隠さないでも我々はもう知っているんだよ、という状況での鑑賞は観客にとって不幸ではないのか?と、映画のプロモーションに関して一言苦言は呈したいのだが、とても良く出来た映画で感心した。

 もっとも予告では、この先に本当の感動があると宣言されてはいる。

 メガホンを取ったのはテレビ「北の国から」の杉田成道監督で、手堅く揺ぎ無い。一画一画を疎かにせずきちんと描ききっている端正さが印象的だ。

 ヒロインを演じる桜庭ななみがとても美しく撮られており、役所広司、佐藤浩市のベテランの中で良く健闘したと思う。

 死のモチーフとして当時の流行もの人形浄瑠璃「曽根崎心中」がたびたび挿入される。心中と武士の忠義は多少イメージが違うのではないかと思ったが、実は赤穂浪士の吉良邸討ち入り(元禄15年12月14日)のわずか4ヵ月後に浄瑠璃の題材となったお初・徳兵衛の心中事件は起こっている。

 両者は当時世間をにぎわした2大事件であったのだ。

映画 「信さん 炭坑町のセレナーデ」

2010年11月30日 | 映画(サ行)
 昭和30年代を描くノスタルジック路線の映画だが「ALWAYS 三丁目の夕日」と違って九州の炭鉱町が舞台となる。

 厳しい労働条件の炭鉱ゆえ、労使問題や外国人雇用、その酷使など深刻な問題を抱えているはずだし、子供の世界もイジメ、偏見、体罰の日常だ。

 しかし、そのリアルを描くことがテーマではないので、ほどほどに抑制の効いたバランスで生きる哀しみがジンワリと滲み出て、当時の子供たちのバイタリティが活写される。

 都会から越してきた母子と親しくなる悪ガキの、母親に対する慕情が切ない。

 監督も含め出演者に九州系が多いので、最近作「悪人」に比べても九州弁に関する限りはよほど違和感がない。

 大竹しのぶの配役は、「青春の門」の織江が炭鉱町でそのまま年をとったらこうなっていたかもと思わせてくれる。

映画 「シングルマン」

2010年11月05日 | 映画(サ行)

 自分自身の死の予感がある中で、パートナーが事故死する。最悪の状況だ。

 大学教授という社会的地位のある男が、この状況の中で自殺を計画する一日の出来事が描かれる。

 男の置かれた状況を複雑にしているのが、死んだパートナーが同性であったということだ。元恋人であった女性と教え子の男の子が主人公の最後の一日に絡んでくる。

 イギリス映画の雰囲気と、コリン・ファース、ジュリアン・ムーアというベテランの演技、ファッション界出身で監督第1作目というトム・フォードの美しい映像が、映画でなくては描けない純度の高い表現を見せてくれる。

映画 「ゾンビランド」

2010年08月06日 | 映画(サ行)
 
 凄絶な死闘とサバイバルが描かれるのではなく、生き残った四人の男女の「生きるための生活の知恵」に視点を置き、ロマンスも絡めたコメディになっている。

 が、ゾンビ映画には違いないので表現のグロテスクは避けられない。苦手な人には苦手だろう。

 これまでのホラー系ゾンビ映画は出演者の記憶もないが、本作はゾンビが徘徊する世界を背景にしたドラマに仕上がっており、出演者もウディ・ハレルソン、ジェシー・アイゼンバーグ、アビゲイル・ブレスリンと名のある役者を配している。

 が、何といっても強烈な印象を残すのは、本人自身の役で出演するビル・マーレイで、得な役どころだ。

 四人が目指す遊園地がクライマックスの舞台となるが、タイトルはゾンビに支配された世界(ここではアメリカ)そのものをさしている。

映画 「ソルト」

2010年08月03日 | 映画(サ行)

 文句なく面白い、この夏見るべき1本。理屈でみるなら「インセプション」、理屈抜きで楽しむなら「ソルト」だ。

 それにしてもほぼノンストップのアクション、それを見事にこなすハードなボディのアンジェリーナ・ジョリーがすばらしい。

 生まれついたときからスパイとして育てられた人間が、自分の意思で生きる決意に支えられて行動を開始する。生涯ただ一度の愛を封印して耐える女の情感がほとばしる。

 冷戦時代にスパイとして教育を受けてきた人間たちが、冷戦後その存在意義を何処に見つけたら良いのかという、ダークサイドでうごめく人間群像の物語でもある。

 冒頭の人質交換シーンで、迎えに来た男が一瞬ブラッド・ピットに見えて苦笑してしまった。