日々、心のつぶやき☆

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「風にそよぐ墓標」  門田隆将・著

2010-11-24 14:57:49 | 映画・DVD・音楽・TV・本など


久しぶりに本の話題です。
新聞の書評欄で知った「風にそよぐ墓標」を読みました。
最近、ニュース番組などにゲスト出演しておられる門田隆将氏が書いています。


1985年8月12日に御巣鷹に墜落した日航機の事故。
あれから25年、四半世紀が過ぎた今、事故で父親や夫など愛する家族を失ったご遺族のその後のお話が6話として書かれています。
あの日航事故の書物は多く読んでいますが、今この著者の書かれた魂のこもったお話にしばし絶句したり涙が流れたり、そして多くの愛情と希望を感じる事ができて本当にすばらしい小説だと思いました。


6つの家族のお話の中で、特に心に残ったのが「父が遺した機内写真」です。
反抗期だった高校一年生の長男が日頃特に母親と衝突ばかりしていた時に、家族で出かけるレジャープランを拒み、16歳の長男と中学生の弟だけ遺して両親と妹を一度に失ってしまいます。
家族5人がいきなり中高生だけになった現実。
そして親戚の人と遺体確認にでかけ、壮絶なあの体育館で家族を捜すという地獄のようなできごと。
父親は墜落直前の最後の機内写真を撮っていた事から「何を伝えたかったか?」と問いながら生きてきました。
物語はこの25年にも及んで、あんなに嫌いで反抗していた母親からのアドバイスに導かれるように進路を決めてきたという事実。
土木工学を専攻し、両親の補償金を使って留学して環境保全の専門家になった主人公。
まさに反抗期が救った命だったのですが、その後の苦しみや悲しみを乗り越えて亡き両親に恥じない様に生きる立派な子どもの生き方に胸が打たれました。


その他にもやはり子どもが「お父さんを連れて帰る!」という気持ちだけで棺の一つ一つを確認するお話。
「一緒に死にたかった」と泣き叫び、25年経った今では「ふつうが幸せ」と言い切る当時9歳の男性のお話。
遺書が残された事によるその後の苦しみなどなど・・・


部分遺体が多かった現場で、運良く家族の確認ができると「よかったですね。見つかって。」
「おめでとうございます。」と言う言葉が行き交う異常な現場。
もう普通の感覚ではなく、ギリギリの精神状態だと言う事がわかります。


最後は兵庫県の歯科医師会のトップスリーの方々が亡くなったお話です。
父親の後を継ぐように歯科医師になった息子さん兄弟が現地に遺体確認に行って自ら検視を手伝うのです。
この方は父親の遺体を見つけてもらった時の感動が忘れられなかったとか。
現地で働く看護師が悲惨な遺体を一つ一つ洗って丁寧に扱ってくれた恩を何かの形でお返ししようと検視を手伝ったのです。
やっと見つかった父親の頭皮だけを形にして再現し、まるでうたた寝をしている後ろ姿のようだったという記述など涙なしでは読めませんでした。
こうしたつらい経験から兵庫県にも「警察歯科医会」をつくる事ができ、その後の阪神大震災や福知山線の事故などで身元確認に力を発揮できたそうです。
この絶望から人生が止まるのではなく、まさに未来に向かって動いた人間の底力を感じました。



この日航の事故では結局責任の所在のないまま終わっています。
この6つの家族だけでなく520人の犠牲者の物語があるでしょう。
当時の日航の心ない態度や言葉は多くあったと聞いています。
「JALだから補償金がいっぱいでますよ。大韓航空だったら出ませんよ、だから幸せですよ」とか
「高木社長が間もなく弔問に来るから準備してください」と遺族に向かって指示する日本航空の職員。
まぁ、その後も体制は変わりなく現在のJALの衰退があるのかもしれませんね。


私が今までに読んだ日航機事故関連の書物と大きく違う事は・・・
絶望と悲しみの中で遺されたご家族が死者に向ける強い愛情、そして手を取り合いながら苦しみを乗り越えようとする勇気、亡き愛する家族に見せるかのような生きる力。
これらがただの悲しい物語としてではなく、読む人に勇気を与えてくれるのです。


著者の門田氏は「この6家族の不屈の物語は、人生で悩み、くじけそうになった人々に、かならず希望と勇気を与えてくれると信じている。」と言います。
まさにその通りだと思いました。
多くの人に読んでほしいと心から思いました。
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