報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「冬休み前の打ち合わせ」

2023-05-20 20:44:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月23日10時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原「いよいよ、今日でリサ達の2学期の終業式です」
 善場「今日、沖縄から我那覇絵恋さん達が上京してくるのですね?」
 愛原「その予定です。LCCで来るらしく、到着は成田です」
 善場「承知しました」
 愛原「リサの話では、絵恋さんに付いてくるのは、『四天王兼副総督』です」
 善場「なんとも陳腐な役職ですね。で、どんなコですか?」
 愛原「名前が斉藤早苗」
 善場「斉藤……?」
 愛原「はい。写真だと、このコですね」

 私はスマホの画面を善場主任に見せた。
 これは我那覇絵恋さんが撮影したものをリサのスマホに転送し、そこから更に私のスマホに転送されたものである。

 善場「うーん……」

 見た目はリサに雰囲気が似ているコだった。
 だからこそ、絵恋さんも仲良くできたのかもしれない。

 善場「斉藤早苗……」
 愛原「どうかしましたか?」
 善場「何か、引っ掛かる名前ですね」
 愛原「ですよね。斉藤という苗字はけして珍しくはないですが、絵恋さんの旧姓や斉藤玲子の……」
 善場「あ、いえ、そこではないです」
 愛原「えっ?」
 善場「何か、キーマンとしての人物の名前に、似たような人物がいたような気がしたのですよ」
 愛原「そうなんですか。リサは知りませんかね?」

 私はリサにLINEを送ってみたが、終業式の最中なのか、すぐには返信は来なかった。

 善場「それで、これから迎えに行かれるのですね?」
 愛原「はい。向こうも終業式が終わってから、那覇空港に向かうようですが、実際の所は向こうを夕方に離陸する飛行機のようです」
 善場「ということは、成田に到着するのは夜ですね。そこからマンションに向かうのですか?」
 愛原「いえ。さすがに夜も遅くなるので、成田空港近くのビジネスホテルに1泊してから戻ろうと思います。幸い東横インのカードは持っているので……」
 善場「ああ、そうですか……」

 善場主任は半ば呆れた様子で、お茶を啜った。
 もう少し高級なホテルに泊まれんのかい、と言いたげな顔だ。

 善場「んんっ?!」
 愛原「えっ!?」
 善場「ああーっ!」

 その時、善場主任がいつものポーカーフェイスとは違う表情を見せてくれた。
 年に1回あるかないかだ。

 愛原「ど、どうしました!?お茶に何か異物でも!?」
 高橋「お、俺、何もしてないっスよ!?」
 善場「斉藤早苗って、あれです!白井伝三郎の同級生で、“トイレの花子さん”だったコ!」
 愛原「ああっ!」
 高橋「あいつか!」

 私達の脳裏に、夏用の半袖セーラー服を着て、白い仮面を着けた“トイレの花子さん”が浮かんだ。
 正体は白井伝三郎の高校時代の同級生。
 イジメを苦に東京中央学園の旧校舎女子トイレで首吊り自殺。
 それ以来、白井が旧校舎の壁に仕掛けた特異菌によって、幻覚症状に陥った学校関係者達の前に“幽霊”として現れるようになる。
 遺体そのものは火葬されて都内の墓地に埋葬されていたが、その骨壺を白井が強奪。
 自身が開発した新薬と、公一伯父さんが開発した化学肥料を合成し、骨からでも遺体を蘇生させる妙薬を開発した。
 どういう原理なのかは不明だが、白井はどうも『転生の儀』を行ったらしい。
 即ち、白井は斉藤早苗の体を乗っ取ろうとしたわけである。
 方法は違うが、似たようなことをしようとした人物が過去にもいた(直近では2011年のアレクシア・ウェスカー)から、アンブレラ界隈では珍しいことではないのかもしれない。
 噂では、アレクシア・ウェスカーの『転生の儀』は成功したとされている。
 そして、日本では白井の『転生の儀』が成功しているとされている。
 その白井が乗っ取っているはずの斉藤早苗が、ここに来ようとしている……!

 善場「愛原所長!私も同行します!どこのホテルですか!?」
 愛原「と、東横インです。成田空港の」
 善場「私も予約します!」
 愛原「で、ですが、もう部屋は満室になっていますよ?」
 善場「な、何ですって!?因みに、どの部屋に泊まるかは……」
 愛原「いや、分かりませんよ。特に、指名買いをしているわけではありませんので」
 善場「分かりました」

 善場主任は自分のスマホを取り出し、どこかに電話していた。
 ま、まさか、ここで何がしかの国家権力を発動するつもりだろうか?
 善場主任は、しばらく電話でどこかと話をしていた。
 それから、ようやっと電話を切る。

 善場「愛原所長」
 愛原「何ですか?」
 善場「成田空港への足は、確保されていますか?」
 愛原「いえ、まだです。予定としては都営新宿線で本八幡まで行き、そこから京成線で向かおうと思っていますが……」
 善場「分かりました。それでは、往路のみ私共で車を出しましょう。それで、一緒に向かいましょう」
 愛原「いいんですか?」
 善場「はい。ただ、私がエージェントであることが向こうにバレては大変です。同じホテルには泊まりますが、空港到着後は別行動としましょう。それでよろしいですか?」
 愛原「あ、はい。分かりました。……1つ、質問よろしいですか?」
 善場「何でしょうか?」
 愛原「『魔王軍沖縄支部』が上京したら、ウィルス検査をするとリサには伝えてあるんですよ。そして、そのことは既にリサから向こうにも伝わっているはずです。斉藤早苗は、それを100も承知で来るということになりますが、それについてはどうお考えですか?」
 善場「要は自然な形で会えば良いのです。私が空港や同じホテルにいることは不自然でしょうが、検査場でもある浜町のクリニックやこの事務所にいること自体は不自然ではないでしょう。ウィルス検査を指示したのは私ですし、私は愛原所長のクライアントです」
 愛原「なるほど」
 善場「今しがたBSAAにも連絡しました。もしも斉藤早苗がその姿をした白井伝三郎であるなら、それを確認次第確保します」
 愛原「そ、それで、私達の対応としては?」
 善場「何も知らずに対応してください。愛原所長方は斉藤早苗を、そのまま斉藤早苗本人だと思って接してください。けして、白井伝三郎に正体が知られているとバレてはいけません」
 愛原「わ、分かりました。というわけだ。分かったな、高橋?」
 高橋「うス……」

 そのことはリサにも伝えておかなくてはならないだろうが、下手にLINEしてその履歴を斉藤早苗が見たりしたらマズいので、リサが帰宅時に口頭で伝えることにした。
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“私立探偵 愛原学” 「年末に向けての大仕事」 2

2023-05-20 14:44:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月13日11時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 善場「愛原所長、お疲れ様です!」

 善場主任がやってきた。

 善場「例の物を頂きに参りました」
 愛原「はい。これです」

 私は日記を善場主任に渡した。

 善場「ありがとうございます」
 愛原「まさか、都合良くこんなものが出てくるとは……」
 善場「どこかに記録があるのではないかとは思っていたのですよ」

 善場主任は日記の中身を確認した。

 善場「ふーむ……。『医療ミスをしたせいで、暴力団に追われることとなった』旨は書かれていますが、新薬のことについては殆ど書かれていませんね」
 愛原「墓場まで持って行くつもりだったのでしょうか?」
 善場「そうかもしれません。もしいずれは告白するつもりであったのなら、手持ちの薬を隠すことはないでしょうから」
 愛原「確かに……。あ、そうだ。上野医師達が郡山に立ち寄った理由というのが、本当に薬を隠すだけだったのか、書いてありますかね?」
 善場「ちょっと見て見ましょう」

 上野医師の日記の文面は、平泉での宿泊を境に変わっている。
 よほど斉藤玲子のことが気に入ったのか、彼女と出会う前まではストイックな内容になっていたのに対し、平泉以降は彼女のことが出てこない日は無い。

 善場「……あー、ありました。一応、上野医師は斉藤玲子を家に帰すつもりだったようですね」

 ところが斉藤玲子に対し、ネグレクト状態の継母は、玲子の父親とのセックスに夢中で、ろくに対応しなかったらしい。
 むしろ、『勝手に家出したんだから、どうぞ連れて行って!』というトー横キッズもびっくりの毒親ぶりである。
 ……これでも、連れている男の方が警察にタイーホっておかしくね?

 善場「『泣きじゃくる玲子に対し、掛ける言葉が見つからない。小康状態だった喘息の発作がひどくなり、新たに薬を投与して鎮静化させる。尚、そこで私に復讐心が芽生えた。持ち運ぶのに不便で不要な薬を1つ、ここに埋めて行ってやろうかと思う。ちょうど今、まぐ合いの声を出している寝室と思しき部屋の真下に……』」
 愛原「あ、これだ!これですよ!」
 善場「なかなか上手い表現ですね。これだと、知らない人が読んだら、喘息の薬か何かを埋めただけのように見えます。まさか、バイオテロ組織が爆破してまで隠したい危険な薬だとは思いませんよ」
 愛原「誰か、ヴェルトロのメンバーが、この日記を読んだのでしょうか?」
 善場「この日記は桧枝岐村の小中学校の図書室にあったのですよね?」
 愛原「はい。学校関係者の話によりますと、しばらくは校長室に保管されていたようです。いずれは上野医師が取りに来ると思っていたそうで。だけど取りに来なかったので、本を管理するなら図書室だと思ったそうなんですが、これは児童・生徒に読ませるものではないので、蔵書室に保管されっぱなしだったようです。一応、預かり物ということなので、どこか書棚か何かに保管されてはいたようですが……」

 おかげで数十年経っても、比較的状態は良かったのだ。

 善場「一部の学校関係者は、この日記を読んだでしょう。しかし、ヴェルトロがこの日記の在り処を突き止めたとは思えません。もっと、別の手段を使って、情報を得たのでしょう。もしもこの日記のことを知ったのなら、日記ごと持って行くはずでしょうから」
 愛原「確かに……」
 善場「とにかく、これはこちらでお預かりします。報酬は後ほどお支払いさせて頂きます」
 愛原「恐れ入ります」
 善場「話は変わりますが、今度の冬休み、我那覇絵恋さんが上京するという話は本当なのですね?」
 愛原「それは本当のようです」
 善場「それ『は』?それ『は』と言いますと?」
 愛原「実は沖縄中央学園にも、『魔王軍』が結成されているんですが、その『四天王』も一緒に上京するらしいんですよ」
 善場「それはさぞかし賑やかですね。全員まとめて、何がしかのウィルスに感染していないか、検査したいものです」
 愛原「リサの影響を多大に受けているわけですからね。向こうでも廃止されたブルマを勝手に復活させて穿いているようですし」
 善場「は?」
 愛原「あ、いえ、何でもないです!詳細が分かり次第、またご連絡させて頂きます」
 善場「よろしくお願いします。他に変わったこととかはありませんか?」
 愛原「変わったことですか?うーん……あ、そうだ。主任は、『鬼ころし』という酒は御存知ですか?」
 善場「『鬼ころし』?よくスーパーやコンビニなどで売られている、パック入りの日本酒ですよね?それがどうかしましたか?」
 愛原「リサのヤツ、何だかそれに関心を示してまして……」
 善場「また酔ったりしたら、今度はどんな変化に至るか分かりませんよ?表向きは未成年だからということで禁止していますが、安全が確認できるまで、飲酒は禁止したいくらいです」
 愛原「ですよね?善場主任は、かなり飲まれるようですが……」
 善場「私は、既に人間に戻れていますので」

 でも、時々人間離れした身体能力を見せたりすることがある。

 善場「思春期の少年少女が大人に憧れて、お酒やタバコに関心を示すのと同じことでしょう」
 愛原「それが、リサが興味を惹かれているのは、その『鬼ころし』だけなんです。それ以外の酒やタバコには、見向きもしません」
 善場「どうして興味があるのか、言ってましたか?」
 愛原「何だか、『これを飲むと人間に戻れる気がする』とか言ってますが……」
 善場「まさか……。前回の件からしても、その逆の現象が起きると思われますが」
 愛原「いや、私も同意見なんですけどね。でも、妙なんですよね。ボジョレー・ヌーヴォーとかシャンパンとか、もっとおしゃれな酒は他にもあって、そういうのに関心を惹かれるのなら、まだ分かるんですよ。しかし、何であんな安酒なんか……」
 善場「鬼のイラストが描かれてるからでは?」
 愛原「まあ、そうかもしれませんね」
 善場「一応、『鬼ころし』の成分を確認しておきましょう。実は何か、BOWに影響するようなものが入っているのかもしれません」
 愛原「ありがとうございます」
 善場「よろしいですか?結果が分かるまで、リサには一切飲ませてはいけません」
 愛原「重々承知しております」
 善場「今度の変化は、あんなものでは済まないかもしれませんからね」
 愛原「はい、さようで……」

[同日17時00分 天候:晴 同事務所]

 善場主任との話が終わり、夕方になってリサが帰ってきた。
 そろそろコートの出番なくらいに寒くなってきたが、リサは相変わらず冬服のブレザーを着ているだけだった。
 一応、ブレザーの下に学校指定のグレーのニットのベストを着ているが……。

 愛原「お帰り、リサ。善場主任が、冬休みに上京してくる沖縄の『魔王軍』について教えろって言ってきたよ」
 リサ「ああ、それなんだけどね、大勢で先生の家に押し掛けるのは迷惑だってんで、人数を絞ることにしたの」
 愛原「え、そうなの?」
 リサ「本当はエレンだけ来ればいいんだろうけど、他にも『四天王』代表で1人来ることにした」
 愛原「そうなんだ」

 尚、我那覇絵恋さんは『四天王』ではなく、更にそれを管理する『総督』とのこと。

 愛原「何てコ?」
 リサ「まだ選定中。決まったら教えるね」
 愛原「ああ」

 この時、私はもう少し、『沖縄支部四天王』について、関心を持っておけば良かったのかもしれない。
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“私立探偵 愛原学” 「年末に向けての大仕事」

2023-05-18 20:12:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月12日10時00分→13時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原「……というわけでありまして、来年から事務所を移転することになりましたので」
 クライアント「そうですか。都心の一等地に移転されるので?」
 愛原「いやいや!まだそんな、とんでもない。私共には、専用の事務所はまだ早かったみたいで、住まいと事務所を一体化することにしました。菊川2丁目のこちらに移転することになりますので、今後ともどうか御贔屓に……」
 クライアント「ほおほお」

 というような挨拶で午前中が終わる。

 善場「先週、調査して頂いた上野医師の件ですが……」
 愛原「新たに何か分かりましたか?」
 善場「こちらはこちらで、調査の結果が出ました。具体的には、リサとの親子関係です」
 愛原「どうでした?」
 善場「DNA鑑定の結果、リサは斉藤玲子さんと上野医師の間にできた娘である可能性が高いとの結果が出ました」
 愛原「そうでしたか!牛窪の娘じゃなくて良かった」

 しかし、そうなると、斉藤玲子は僅か14~15歳でリサを生んだことになるな……。
 リサだけじゃない。
 リサの妹達を何人も生んでいる。
 その後、全員が白井に連れ去られることになるわけだが……。

 善場「ヴェルトロがどのようにして、斉藤玲子の実家の場所と、そこにTアビスと似たウィルスが隠されていたことを知ったのかは不明です。それについては、BSAAが調査しております」
 愛原「分かりました。それで、私達としては、今後どのような協力をさせて頂ければ宜しいですか?」
 善場「今のところは、特にありません」
 愛原「あらまっ!」
 善場「申し訳ございませんが、しばらの間、待機でお願いします」
 愛原「分かりました……」

 私はとても残念であった。
 このままでは、あまり売り上げが宜しくない。
 どうしたものか……。

[同日11時00分 天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 事務所に1本の電話が掛かって来た。

 愛原「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます」
 男性「あ、あンの~……愛原学さんですか?」

 電話の向こうから、東北地方の訛りによく似たイントネーションの男性の声が聞こえた。

 愛原「はい。そうですが?」
 男性「東京の探偵の愛原さんですね?」
 愛原「そうです。何か、お仕事の御依頼でしょうか?」
 男性「仕事の依頼っつーか、あの……」
 愛原「ん?」
 男性「以前、うちの村に来ましたよね?桧枝岐村ですが……」
 愛原「あ、はい。伺いましたよ。桧枝岐村の方ですか?」
 男性「消防団の者です。以前、出張所に行かれたとかで……」
 愛原「はいはいはい。そうですそうです」

 上野医師と斉藤玲子が潜伏していた家が白井に襲撃された際、放火されたのか、火災が起きたことを私達は突き止めた。
 火災が起きたのだから、当然消防が出動したはずで、その時の記録を見せてもらえないか、村で唯一の消防署の出張所に足を運んだことがあった。
 だが、さすがに何十年も前のことなので、その記録は廃棄されていた。

 男性「医者の上野先生をお探しの探偵さんが来たっつー話を聞いて、あンれと思いまして……」
 愛原「と、仰いますと?」
 男性「村の小中学校の図書室から、上野先生の日記が見つかりまして、それで東京の探偵さんにお知らせせねばと思ったんです」
 愛原「上野医師の日記!?それは本当ですか?!」
 男性「はい。表紙の所さ、上野先生の名前が書いてあっから、間違いねぇと思います」

 何でそんなものが小学校だか中学校の図書室に!?

 愛原「それは今もありますか?」
 男性「へ、ヘェ!あります」
 愛原「着払いでいいので、その日記を送って頂くことはできますか?」
 男性「校長先生に聞いてみます」
 愛原「どうしてその日記が学校にあったんでしょう?」
 男性「いンや~、それはちょっと……分かんねぇべさね~」
 愛原「と、とにかく、こちらに送ってください。校長先生にも、よろしくお願いします」
 男性「分かりました」
 愛原「あ、あの、事務所の住所と連絡先は……」
 男性「ああ。出張所に置いてかれた名刺さ書いてありますんで、分かります」

 そうだった。
 もしも上野医師などの事で何か分かったことがあったら、連絡をお願いしていたんだった。
 そしてその名刺は、宿泊した旅館にも置いてきたし、医療機関繫がりで、村の診療所にも置いてきた。
 小さい村のことだから、もしかしたら、私達のことで噂が広がったのかもしれない。
 無医村状態だった村に、流れ者とはいえ、医者が来たとあらば、村中大歓迎だっただろう。
 その医者が何者かに殺されたというだけで、村内では歴史に残る大事件だっただろうし、それが最近になって、東京から来た探偵が情報を探しているとなれば……。
 私はすぐに善場主任に連絡した。
 善場主任も驚いているようだった。

 善場「さすがは愛原所長です。報酬をお支払いしますので、日記が届いたら、すぐに私共にお寄せください」
 愛原「分かりました。一応、中身は確認しておいた方が良いかと思いますが……」
 善場「そうですね。その後で結構です」

 とのことだった。
 日記を見つけたのは私ではないのだが、それを転送しただけで報酬がもらえるとはかなり美味しい。
 ややもすれば、何回目かの桧枝岐村訪問になりそうだったが、それは免れるようだった。

[12月13日10時00分 天候:晴 同事務所]

 配達員「ゆうパックでーす!」
 愛原「早っ!」

 福島の山奥の村から差し出されるのだから、2~3日くらい掛かるのだろうと思いきや、1日で到着した。

 配達員「着払いのお荷物ですが、よろしいでしょうか?」
 愛原「あ、はい。大丈夫です」

 日記はかなりの厚みがあった。
 恐らく1年分書けるタイプではないだろうか。
 私は料金を支払い、荷物を受け取った。
 中を開けると、表紙はハードカバーになっており、開くと『上野兵介』という名前が書かれていた。
 これが上野医師のフルネームなのだ。
 パラパラとページを捲ってみると、50年も前の書物ではあるが、案外状態は良かった。

 愛原「はー、なるほど……」

 いかにして上野医師が東京から東北に逃れ、そこで斉藤玲子と出会って、共に逃避を続ける描写が綴られていた。

 愛原「なるほど。これは良い証拠になるかもしれん」

 私はすぐに善場主任に連絡した。
 主任はすぐに取りに行くと答えた。
 私は主任が取りに来る間、もう少し日記を読んでみることにした。
 気になるのは最後の方……。

 愛原「やっぱり、上野医師は牛窪を殺している。しかも、斉藤玲子に死体遺棄を手伝わせてるな……」

 私が何故か切なさを感じたのは、『玲子、自分を無理やり犯した男がいざ死ぬとなると、何故か慈しみの顔つきになる。女というのは……』という部分。
 いくら他人棒でも、自分をヒィヒィ言わせてくれた男がいざ死んだとなると、悲しそうな顔になったことに対し、上野医師が憤りを感じているのが分かる。
 内容が斉藤玲子との性的な描写が多々あったので、学校の図書館で預かっても、さすがに児童達には見せられなかったようである。
 そして、上野医師は自分がまだ狙われていることを危惧していたようだ。
 それで、この日記を懇意にしていた当時の小中学校の校長先生に託したのだという。
 日記はそこで終わっていた。
 気になったのは、もっとよく探せばあるのかもしれないが、例の薬品については全く書かれていないことだ。
 日記にすら書かず、墓場まで持って行くつもりだったのだのだろうか?
 それとも……。
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“私立探偵 愛原学” 「我那覇絵恋来る!」

2023-05-18 15:23:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月5日16時00分 天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 リサ「ただいま」

 善場主任との打ち合わせが終わる頃、リサが帰って来た。

 善場「あら、お帰り。テストはどうだった?」
 愛原「テスト?」
 善場「あら、愛原所長?この時期は期末テストの最中ですよ?」
 愛原「そ、そうだったけか……」
 リサ「別に。普通にできたよ」
 高橋「このやろ!よゆーブッこきやがって!」
 愛原「さすがは地頭は良い。やっぱり、上野医師の娘かもしれませんよ?」
 善場「そうだといいですね」
 リサ「それより、言い忘れてたことがある」
 愛原「何だ?」
 高橋「あぁ?」
 善場「なに?」
 リサ「今度の冬休み、サイトー……じゃなかった。エレンがこっちに来る」
 愛原「エレン……って、斉藤絵恋……もとい、我那覇絵恋さん!?」
 リサ「そう」
 高橋「あのレズガキが来るだとォ!?」
 愛原「オマエもLGBTのBだろうが」
 リサ「本当は冬休み、わたしが行きたいところなんだけど、わたしは単独行動が禁止されてるし」
 善場「それはそうね。どうしても沖縄に行く場合、愛原所長の同行が必要よ」

 当初は陸路交通以外の交通機関の利用も禁止されていた。
 それまでBOW(人工生物兵器)が、それら交通機関内で引き起こしたバイオハザードを危惧してのことだろう。
 しかし八丈島との往復に船舶や航空機を利用した際、特に何の問題も無かったことから、その規制は緩和された。
 但し、未だにパスポートの取得は禁止されている。

 愛原「いやあ、すっかり忘れてたな」
 リサ「わたしは『引越しが忙しいから行けない』って言ったんだけど、『そしたら私から行く!』だって」
 高橋「マジかよ……」
 愛原「沖縄の冬休みって、いつからいつまでだ?何か短いイメージがあるんだが……」
 善場「確かに短いですね。それこそ企業や役所の年末年始休みに、毛を生やした程度の長さですよ」
 愛原「そんなに短いのか!」
 善場「その分夏休みは長いですし、それにプラスして、台風シーズンの時は臨時休校になったりするので、そのせいでしょうね」
 愛原「そういうことか」

 雪国では厳冬期の登下校を避ける為、逆に冬休みが長くなっている。

 リサ「来年の春は修学旅行で東京に来るって言ってたし」
 愛原「なるほど。沖縄県の高校生にとっては、東京が修学旅行の行先か」
 リサ「わたしはわたしで、沖縄行くー」
 愛原「修学旅行ならいいよ。……ん?善場主任、この場合は?学校行事だからいいんですかね?」
 善場「そうですね。それは構わないと思います。BSAA極東支部の幹部達は中国人や韓国人が多いですが、幸いかの国々でも修学旅行は行われていますので」
 愛原「へえ!中国や韓国でも修学旅行ってあるんだ!」
 善場「日本統治時代の名残らしいですよ。なので、詳しい説明は不要と思われます」
 愛原「それはいい。お土産よろしくなー」
 リサ「何言ってるの?先生も一緒に行くんだよ?」
 愛原「何で?」
 リサ「この前の中等部代替修学旅行、一緒に来たじゃん」
 愛原「あれは俺がPTAの会長代行だったから……あ!」
 リサ「PTAの会長は、引率者の1人になるんだよ?」
 愛原「マジかー!」
 善場「リサの監視、よろしくお願いしますね。くれぐれも、BSAA北米支部を出動させることのないように……」
 愛原「どうして沖縄で、北米支部?」
 善場「お忘れですか?沖縄には広大な米軍基地があります」
 愛原「それは知っています」
 善場「BSAAの構成員は、主に各国の軍隊からの出向者で賄われています。当然、北米支部の隊員の殆どはアメリカ軍からの出向者です。そして、北米支部の出張所みたいな所が沖縄の米軍基地にあるのですよ。管轄は確かに極東支部日本地区本部ですけどね。自分達の近所に暴走BOWが現れたら、管轄など差し置いて、緊急出動するに決まってるじゃないですか」
 愛原「マジかー!」
 リサ「まあ、来年の話だよ」

 リサは笑いながら言った。
 『来年の事を言えば鬼が笑う』そのものであった。

 愛原「で、絵恋さんの上京の話に戻って……。具体的に、沖縄中央学園の冬休みっていつからだ?」
 リサ「今年はクリスマス・イブからだって」
 善場「沖縄県立高校では、概ね12月25日からになってますね。今年は25日は日曜日なので、週休2日制を取っている所では、更にその前日の土曜日である24日から休みになるのでしょう」
 愛原「で、終業式が23日か……」
 リサ「そういうことになる」
 愛原「東京中央学園は?」
 リサ「開始時期は沖縄と同じだね。ただ、1月の方が長い」
 善場「沖縄では概ね1月4日までとなっています」
 愛原「短いな!正月三が日に、プラス1日だけ!?」
 善場「そのようです」
 愛原「東京中央学園は?」
 リサ「来年は9日まで。10日に始業式」
 愛原「東京の方が、沖縄より1週間弱長いんだ」
 リサ「そういうことになる」
 愛原「ふーん……。そうなのか」

 本当に地方や地域によりけりだな。
 因みに仙台市は、だいたい東京基準。
 だいたいね。

 善場「ちょうど良かった。我那覇さんにも色々と聞きたいことがあるので、こちらから向かったり、呼んだりする手間が省けました。我那覇さんにそう伝えておいてください」
 リサ「うん、分かった。後でLINEしとく」
 善場「お願いしますよ」

[同日18時00分 天候:晴 同地区内 愛原のマンション]

 善場主任が帰り、事務所を閉める時間となった。
 結局新しい依頼は無かったが、少なくともデイライトさんと繋がっている限りは、そちら方面からの仕事の依頼は多々あるので、まあいいだろう。
 斉藤社長がいた頃は、そちら方面からの仕事の依頼もあったので、本当に食いっぱぐれの心配は無かったのだが。

 高橋「お帰りなさい。夕飯、もうすぐできますんで」
 愛原「おー、いつも悪いな」
 高橋「いえ。これくらい、弟子として当然です」
 愛原「今日の夕飯は何だ?」
 高橋「カレイの煮付けにしてみました」
 愛原「おー、それはいいな。たまには魚も食わなきゃ」
 高橋「ですよねー?」

 高橋はリビングのソファに寝転がってスマホをいじっているリサをチラッと見て言った。

 高橋「明日はサンマでも焼こうかと思っています」
 愛原「なるほど……」

 リサは既に制服から体操服にブルマへと着替えていた。
 ブルマは学校用の緑色ではなく、紺色のブルマである。
 無地の紺色ブルマなら、実はまだ一部の学生服取扱店で購入できるというトリビア。
 体育用と何ら変わらないのだが、スカートの下に穿くインナー用として需要が若干あるらしい。

 愛原「リサー、そろそろ飯だってよ」
 リサ「んー」

 リサは起き上がった。

 愛原「『魔王軍』とLINEか?」
 リサ「そう。『魔王軍沖縄支部』」
 愛原「ん?」
 リサ「こっちは『魔王軍東京本部』。エレンのいる所は、沖縄支部」
 愛原「そんなのがあるのか。何だか、暴走族のチーム名みたいだな?」
 高橋「ンなワケないっすよ、先生!そんな中二病みたいな名前なんかダサくて付けらんないスよ」
 愛原「そうかな?関東連合みたいに、シンプルでいいと思うけど?」
 高橋「連合というからには、色んなチームが寄り集まってるわけですよ。で、その1つ1つのチーム名を見たら面白いっスよ」
 愛原「だから、中には中二病みたいな名前があるんだろ?」
 高橋「いや、まあ、中にはそういうのもありますけど……」
 リサ「その『魔王軍沖縄支部』の『四天王』がこっちに来るって」
 愛原「ふーん……って、ええっ!?」
 高橋「あー、そうかよ……って、えーっ!?」

 来るのは絵恋さんだけじゃないの!?
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“私立探偵 愛原学” 「愛原家の引越し前段階」 4

2023-05-18 11:45:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月5日12時00分 天候:晴 東京都江東区東陽町 某ラーメン屋]

 畑中所長との話が終わった後、私と高橋は事務所に戻ることにした。
 ちょうどお昼時だった為、途中で昼食を食べてから帰ることにした。
 ちょうど近くにコインパーキングがあり、そこに車を止めて店に向かう。
 この辺りは都心から少し外れていても、なかなか駐車場は無い。
 車があれば便利なのだが、肝心の駐車場が少ないというのが東京のネック……って、昔から言われてるね。

 愛原「寒い時にこそ、温かいラーメンだな」
 高橋「そうっスね」

 カウンターに座り、ラーメンを注文する。
 私はチャーシューメンだが、高橋は辛いタンメンを注文した。

 愛原「お前も辛い物が好きだったな?」
 高橋「まあ、そうっスね。……最近のリサほどじゃないっスけど」
 愛原「ああ、あいつな。本当に鬼になってきやがった。本人も、もう人間に戻れないって思っているらしい」
 高橋「射殺の御命令なら、いつでもどうぞ」
 愛原「いや、せんでいいし、射殺すらできないと思うぞ、あいつは」

 鬼ではないが、オリジナルのリサ・トレヴァーも、屋敷の大爆発に巻き込まれてようやく死亡したことになっている。
 つまり、そこまでしないと、リサ・トレヴァーを名乗るBOWは死なない、死ねないということだ。

 高橋「とんでもないヤツだ」

 但し、薬で眠らせることはできるので、それだけが唯一の救いだ。

 愛原「あとは、何だかあいつ、『鬼ころし』に興味を持っているんだ」
 高橋「『鬼ころし』?酒の名前っスか?」
 愛原「そう」
 高橋「何だかリサには効きそうな名前っスね。鬼殺しだけに」
 愛原「本人もそう思ってるらしいんだ」
 高橋「試しに飲ませてみます?」
 愛原「バカ言うな。それでまた変化でもしようものなら、今度は俺がBSAAに射殺されるよ。前回はまだ浜町のクリニック半壊させたり、JC体型からJK体型に成長したくらいで済んだが……」
 高橋「今度はJD体型になりますかね?」
 愛原「じゃあいいよ」
 高橋「え?」
 愛原「とにかく、今度という今度は化け物に変化してしまうかもしれないんだ。オマエも昔、仙台の郊外で見ただろ?『4番』が化け物に変化したところ」
 高橋「あー、はいはい。覚えてますよ。俺がガスボンベ爆発させたおかげで、ギリ脱出できたヤツっスね」
 愛原「そんなこともあったっけな。『2番』のリサに、そんなことはさせられない。分かってるな?」
 高橋「分かってますって。超OKっスよ」

 本当に分かってるのかな?
 私が半信半疑になっていると、ラーメンが運ばれてきた。

 愛原「どれ、じゃあ食うか」
 高橋「はい。頂きゃす!」

 隣の高橋からは、辛いラーメンの風味が漂ってくる。
 そこまで辛党というわけではない私は、何となく咽る感じがした。

[同日13時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 ラーメンを食べ終わって、再び車に乗り、事務所に向かう。

 愛原「そういえば、辛いラーメンの有名店があったな。蒙古タンメン中本っての」
 高橋「有名ですね。昔、知り合いと一緒に行きましたよ」
 愛原「そんなに辛いのか?」
 高橋「失礼な話、あんまり先生は得意じゃないかもです」
 愛原「ほお、そんなにか」
 高橋「はい。まあ、辛味無しの塩ラーメンとかもありますので、そういうのでもよろしければ」
 愛原「俺は醤油派なんだが……」
 高橋「リサなら、ガッツリ辛い奴も食えるかもですね」
 愛原「なるほどな。ちょっと食べさせてみたくなったよ」
 高橋「いいっスね。辛党になったあいつが、どれだけ辛い物にチャレンジできるか、見ものですよ」
 愛原「そうだな」

 事務所のあるビルに到着し、車を駐車場に止める。

 愛原「それじゃ、午後から業務再開だな」
 高橋「ういっス。食後のコーヒー、入れますね」
 愛原「ああ。ありがとう」

[同日15時00分 天候:曇 同事務所]

 新たな仕事の依頼は来なかったが、しかし善場主任がやってきた。

 善場「そうですか。年明け早々、お引越しが決まりましたか」
 愛原「ちょっと年始はバタバタするかもしれませんが、落ち着きを取り戻し次第、またお役に立たせて頂ければなと思います」
 善場「かしこまりました」
 愛原「それで、上野医師の件はどうなりましたか?」
 善場「上野医師は医師でありながら、新薬の開発にも多大なる興味を持っていたようです。その薬の被験者に、新井という暴力団員を選んだようで……」
 愛原「で、化け物になってしまったと」
 善場「そのようです。上野医師はその薬品をいくつか持っていたようで、そのうちの1つを郡山の斉藤玲子の実家の敷地内に隠したようです」
 愛原「あの薬がそうだったんですね。中身は何だったんですか?」
 善場「ヴェルトロが狙ったわけですよ。それまで登場した生物兵器の中で、最もTアビスに似たものでした」
 愛原「Tアビスに似たもの?ということは、本物のTアビスではないと?」
 善場「はい。もちろん投与しようものなら、何がしかのクリーチャーに変化するものと思われますが、成分を分析した結果、似て非なる物だと分かりました」
 愛原「50年も経っているわけだから、成分が劣化したとかは考えられませんか?」
 善場「もちろん、それも考慮した上での話です」
 愛原「これは失礼致しました。いくつか薬を持っていたということですが、他にはどこにあるのでしょうね?」
 善場「私が思うに、いわき市や桧枝岐村でしょうね。斉藤玲子にも、投与していたかもしれません」
 愛原「ええっ?」
 善場「いわき市の海岸に隠していたのでしょうが、恐らく東日本大震災の大津波で流されたと思われます。あとは、最期を迎えた桧枝岐村でしょう。ただ、桧枝岐村に関しても、白井が襲撃した際に持ち出された可能性は考えられますね」
 愛原「確かに……」
 善場「あとはリサの両親は、斉藤玲子と上野医師で良いのかというのは、まだ鑑定中です」
 愛原「そうですか」
 善場「こちらも分かり次第、お伝えします」
 愛原「よろしくお願いします」

 父親が『全身チ○ポ』の強姦ヤクザ、牛窪でないことを祈ろう。
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