報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「再び郡山市へ」

2023-05-08 20:19:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月13日12時00分 天候:晴 福島県いわき市小名浜地区 某海水浴場]

 私とリサは組事務所を後にするとタクシーに乗り、小名浜の海岸に向かった。
 そして、組長が言っていた海岸付近を探索してみた。

 愛原「組長が言っていた浜というのは、多分この辺りだ」

 岩壁もあるが、きれいな海水浴場が広がっている。
 真新しい海水浴場だった。
 恐らく、ここ数年の間に整備されたのだろう。
 明らかに震災後に、新しく整備された所だと分かる。
 看板には『遊泳禁止』とあるが、他にも、この海水浴場が、震災復興事業の一環で整備されたものであり、海水浴客誘致の為に整備されたという看板も立てられていた。
 今はもう海水浴シーズンが過ぎているから人けは少ないが、夏場はそれなりに賑わうのだろう。
 今のこの状態を見れば、とても潜伏する気にはなれなかった。
 恐らく震災前を含め、50年前はもっとひなびた場所だったのだろう。
 それこそ、地元民でも来るかどうかといった感じの……。
 それを選んで、上野医師と斉藤玲子はここを潜伏先にしようとしたのかもしれない。

 愛原「うーん……。全然、名残なんか無いなぁ……」

 50年の時は長い。
 震災さえ無ければ、ワンチャン何がしかの痕跡はあったのかもしれないが……。
 一応、私はデジカメでこの辺りの写真を撮影した。
 と、そこへ私のスマホが着信音を鳴らす。
 画面を見ると、善場主任からだった。

 愛原「もしもし、愛原です」
 善場「善場です。お疲れさまです」
 愛原「あ、善場主任。今はいわき市の……」
 善場「報告は後で伺います。それよりも、これから郡山に向かって頂けますか?」
 愛原「郡山ですか?」
 善場「はい。福島県郡山市です。できれば、今日中に」
 愛原「何かあったんですか?」
 善場「爆破された斉藤玲子の実家の敷地内から、ある物が見つかりました。本来はBSAAが回収するべきものです」
 愛原「それを、どうして私達が?」
 善場「中国でバイオハザードが発生しました。極東支部は元より、日本地区本部隊もそちらの応援に行ってしまってるので、今すぐ動ける隊が無いのです。今最も近い場所にいるのが、愛原所長なのです」
 愛原「わ、分かりました。すぐに向かいます」
 善場「お願いします」

 私は電話を切ると、待たせていたタクシーに乗り込み、再びいわき駅へと向かった。
 そして、いわき駅に着くと、少し愕然とした。
 結論から言うと、12時台後半にいわき市を出て、郡山市に向かう公共交通機関は無いということだ。
 高速バスは14時台、磐越東線でも13時台半ばに列車が1本あるだけだった。

[同日13時27分 天候:晴 福島県いわき市平田町 JRいわき駅→磐越東線737D列車先頭車内]

 昼過ぎに真っ先に郡山市に向かうのは、磐越東線である。
 もしかすると、高速バスとは競争しないようになっているのかもしれない。
 善場主任にもその旨連絡すると……。

 善場「かしこまりました。磐越東線は本数が少ないですし、高速バスもコロナ禍で減便しているのかもしれません。もしかすると、所長方が到着される頃には、物は既に警察に回収されているかもしれませんね」
 愛原「その場合は、どうしたら宜しいでしょう?」
 善場「警察署に向かってください。警察には私共から説明しておきますので」
 愛原「わ、分かりました」

 私は電話を切った。
 乗車券を購入してホームに向かうと、何回か乗ったキハ110系の2両編成が停車していた。
 もちろん、ワンマン運転である。
 さすがに今日は定刻通りに運転しているようだ。
 列車に乗り込み、2人用のボックスシートに向かい合って座った
 昼食は駅前のショッピングセンターで取った。
 リサは駅の自販機で購入した飲み物を、窓際の桟に置いている。

 愛原「この町ともさよならだな」
 リサ「ここから桧枝岐村に行くのに、やっぱりこの列車に乗ったのかな?」
 愛原「分からんね。乗ったのかもしれないし、それともヒッチハイクとかしたかもしれない」
 リサ「ふーん……」

〔ピンポーン♪ この列車は磐越東線『ゆうゆうあぶくまライン』、各駅停車の郡山行き、ワンマンカーです。赤井、小川郷、江田、川前の順に停車致します、まもなく、発車致します〕

 ワンマン列車では、発車メロディは取り扱われない。
 代わりに運転士が乗務員室窓から顔を出して、ピイッと笛を吹く。
 そして、車掌スイッチでもってドアを閉めた。
 ドアが完全に閉まったことを確認すると、運転士は再び運転席に座り、ハンドルを操作して、列車を走らせた。
 ディーゼルカーならではのアイドリング音が車内に響く。
 列車は、定刻通りに発車した。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本、磐越東線『ゆうゆうあぶくまライン』をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は小野新町、船引方面、各駅停車の郡山行き、ワンマンカーです。これから先、赤井、小川郷、江田、川前の順に、各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、1両目にお移り頂き、運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。乗車券、運賃、整理券は運賃箱にお入れください。定期券は、運転士にお見せください。【中略】次は、赤井です〕

 愛原「1日がかりだな……」
 リサ「何が?」
 愛原「いや、本当に福島県も本州では広い県だよ。東端のいわき市から、西端の桧枝岐村まで、本当に移動するだけで1日掛かりだ」

 列車の接続が全て良いとは限らない。
 また、鉄道はともかく、今度は桧枝岐村まで行くバスの本数も大変だった。
 それとも、昔の方が接続は良かったのだろうか?
 列車本数は、昔の方が多そうなイメージだし。
 なもので、上野医師達が偶然桧枝岐村に行こうとしたとは思えない。
 海でヤクザに見つかったから、今度は山に逃げようというのは分かる。
 しかし、それなら郡山から磐越西線にずっと乗っていても良かったと思うのだ。
 ……うん、私なら日本海へ逃げるか。
 しかしそこを上野医師達は、会津若松駅で降りて、会津鉄道(当時は国鉄会津線)に乗り換えたのである。
 それよりも、郡山で見つかったものとは何なのだろう?
 まあ、本来はBSAAが回収するべきものだというので、普通ではないのだろう。
 銃火器とかだったら、普通に警察が押収すれば良いだけだし……。
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“私立探偵 愛原学” 「いわき市での聞き込み終わり」

2023-05-08 15:03:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月13日11時00分 天候:晴 福島県いわき市某所 指定暴力団奥州虹元組本部事務所]

 組長「あれは今から50年ほど前のこと……。季節は夏ぐらいだったか……。大雨の降る晩、牛窪が事務所に転がり込んできたのが始まりだった」
 愛原「新井というヤクザは、そもそもどうして上野医師の診察を受けることになったのでしょうか?」
 組長「東京でカチコミがあったと聞いた。その最中、新井という男は大きな傷を負うことになったと。それで、以前懇意にしていた医者を頼ったのだと牛窪は言っていた」
 愛原「懇意にしていた!?」
 組長「何でも、たまたま飲み屋で知り合ったらしいのだが、私もそこまで詳しいことは知らん。……聞いていたかもしれんが、覚えていないところを見るに、下らん話なのだろう。とにかく、新井は舎弟の牛窪達に、その医者のいる病院に運ばせたということだ」
 愛原「上野医師は、どこかの総合病院の勤務医でした。都合良く、上野医師は病院にいたのですか」
 組長「まあ、そういうことになるな」
 愛原「そして、手術か何かをして失敗したと」
 組長「いや、分からん。牛窪のヤツ、ワケの分からんことを言っていた」
 愛原「ワケの分からんこと?それは一体……」
 組長「『あのヤブ医者!アニキを化け物にしやがった!』とか何とか……」
 愛原「化け物!?何ですか、それは?」
 組長「私もさすがに気になって聞いてみたのだが、『アニキが化け物になった!』としか言わんのだ。牛窪のヤツ、頭がおかしい所があるなとその時は思ったのだが……」
 愛原「そんなアタオカ発言の男の依頼、よく聞くになりましたね?」
 組長「少なくとも、新井が殺されたも同然の事に関しては、大きく男泣きをしての……。『兄貴を化け物にしやがったヤブ医者に、何としても落とし前を付けさせたいのです!どうか……どうか……1つ、このケチな野郎に力を!どうか、頼んます!!』と。それは本物だと思ったので、協力してやることにしたのだ」

 上野医師、一体、新井という男に何をしたんだ?
 化け物って、ゾンビウィルスでも注射したのか???
 地元を網羅している虹元組の包囲網から抜け出すことができなかった上野医師と斉藤玲子。
 ついに、見つかってしまう。

 組長「……今はもう無くなってしまったが、かつては小名浜の漁港の近くには寂れた砂浜があっての。夏場でも誰も近寄らない、いわゆる穴場というヤツだ。もっとも、私らはとっくに知っていたからな。例の医者達が海の方に潜伏しているという情報を得たので、その辺りを虱潰しに探したら、見つかったわい」

 そして、牛窪勝五郎と虹元組の組員達は上野医師達を捕まえに行く。

 組長「医者が連れていた少女……。ちょうど、そこのオマエさんくらいのコだったかな。牛窪のヤツ、医者ではなく、そのコを犯し始めてな」
 リサ「えっ!?」
 組長「何しろ東京では、『全身チ○ポ野郎』なんて敵対組織からは呼ばれてたらしい。そんな男が、オマエさんのようなかわいいコを見たらどういう行動をするか、火を見るより明らかだろう」

 組長はニヤけた顔で言った。

 リサ「……!!」
 愛原「その……斉藤……いや、上野医師が連れていた少女が犯されている間、上野医師はどうしたんですか?」
 組長「それがな、『窮鼠猫を嚙む』というのか、とんでもない行動に出たのだよ」
 愛原「と、言いますと?」
 組長「医者ってのは、危ないのも持ち歩いているものなのか……。残った私の舎弟2人は、上野医師を捕えようとしたんだ。そしたら、そいつ、鞄の中からアルコール……。まあ、消毒用の奴だな。それを、ぶっかけて来たんだ」
 愛原「それだけで、死にはしないと思いますが……」
 組長「うむ。それだけならな」
 愛原「え?」
 組長「その後、マッチで火を点けたのだよ」
 愛原「ええーっ!?」

 組員2人は火だるまになった。

 リサ「その後でお母さんを助けたんだ!」
 組長「お母さん?」
 愛原「あ、いや、もしかしたら、その少女……上野医師とその少女の娘かもしれないんですよ。ただ、『かもしれない』というだけで、まだ確信は無いです」
 組長「なるほど……。もしかしたらお嬢さんは、牛窪の娘かもしれんのw」
 リサ「え!?」
 愛原「牛窪は早漏だったんですか?」
 組長「それは分からんよ。だが、牛窪の話によれば、『孕んでも知らねぇ』みたいなことを言ってたからな」
 愛原「牛窪は生きている!?」
 組長「いや、今は生きとらんよ。会津の奥地で、結局、その医者にトドメを刺されたという噂を聞いている。で、実際、あれから姿を見せないところを見ると、そうなんだろうと思ってるよ」
 愛原「そこなんです!上野医師は、どうして、このいわき市から桧枝岐村に移動したのでしょう?会津の奥地というのは、桧枝岐村のことだと思います」
 組長「それはワシにも分かんよ。ただ、この町に居られなくなったのは分かるだろう?こんなヤクザに見つかって、ヒドい目に遭ったんだ。いられるわけがない」
 愛原「それは分かります。しかし、どうして桧枝岐村だったのか……」
 組長「さあな……。医者かその娘だかの縁じゃないのか」
 愛原「うーむ……」

 いわき市から移動したのは、やはりヤクザに見つかり、襲われたからだった。

 愛原「組長は、ヴェルトロという組織は御存知ですか?」
 組長「何だって?ベル……?」
 愛原「ヴェルトロです。2005年に地中海でテロを起こした宗教テロ組織です」
 組長「いくら裏稼業の仕事だと言っても、そんな外国のテロ組織までは知らんよ」
 愛原「そ、そうですよね。失礼しました」
 組長「他に無いのなら、私の話はここまでとさせて頂くが?」
 リサ「1つだけ!1つだけ聞きたいです!」
 組長「何かね?」
 リサ「牛窪に襲われたお母さんは、お父さんに助けてもらえたんでしょうか!?」

 すると組長は、残念そうな顔をした。

 組長「牛窪はオマエさんの母親の膣内に3発も放ったようだ。ヤツが自慢して言った。うちの組員を2人も火だるまにするような男が、牛窪が3発放つのをただ待っていたとは思えん。つまり……見捨てて逃げたということだな」
 リサ「そんな……」
 愛原「私からも宜しいでしょうか?」
 組長「何だ?」
 愛原「こう言っては何ですが、虹元組の皆さんは巻き込まれて大損してしまったといった感じです。特に友好団体でもない東京のヤクザが勝手に転がり込んできて、それでもせっかく協力してあげたのに、本人は女とヤるだけ。しかも、虹元組は2人もやられてしまった。これに関してはどう思われますか?」
 組長「もちろん、これは私も怒ったよ。当時は私も若かったからな。だがオヤジ……前の組長は、悪いのは油断した若い者と医者であって、牛窪本人に大きな責任は無いと言ったんだな」
 愛原「はあ……」
 組長「だが、『さすがにもう協力はできない』とし、『直ちにうちの組の縄張りから出て行け』と命じた」
 愛原「なるほど。そういうものですか。その時点で上野医師と斉藤玲子は……」
 組長「とっくにいわき市から出ていたよ」
 リサ「お母さんはどうなったんですか?」
 組長「さあ……。改めてうちの者が例の現場に向かったのだが、もう誰もおらんかったそうだ」

 恐らく、どこかでまた上野医師と合流したのかもしれない。
 そして、2人で桧枝岐村へ向かったのだろう。
 ややこしいことになった。
 斉藤玲子は、牛窪という男の子種も受けてしまっている。
 果たして、リサの父親はどちら?
 それとも、上野医師は医師だから、避妊薬……って、当時はあったのだろうか?
 それを入手して飲ませたか?
 取りあえず、ここで手に入る情報はここまでのようだった。

 愛原「最後に1つだけ教えてください」
 組長「何かね?」
 愛原「その……上野医師達が潜伏していた海岸の場所は、どこになりますか?」
 組長「今はもう震災による津波で無くなっとるよ?」
 愛原「それでもいいです」
 組長「分かった。おい、地図を持ってこい」
 組員「へい!」

 組員はいわき市の地図を持って来た。

 組長「小名浜のこの辺りだ。今は新しい海水浴場になってるな」
 愛原「ありがとうございました」
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“私立探偵 愛原学” 「いわきの町の組長さん」

2023-05-08 11:51:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月13日10時00分 天候:晴 福島県いわき市某所 奥州虹元組総本部事務所]

 愛原「えーと……ここだな」
 リサ「地味~」

 奥州虹元組の若頭、驫木の紹介で、私とリサは組長に会うべく、本部事務所へ向かった。
 それは市街地にあった。
 だが、堂々たる豪邸ではなく、4階建ての普通のビルであった。
 ただ、リサが言った通り、そのビルには何の看板も飾りも無く、空きビルなのかと思うほど。
 しかしよく見ると、曇りガラスの玄関ドアの横の郵便受けには、『虹元興業本社』と書かれている。
 しかも更には、地味なビルなのに、防犯カメラが見ただけで4つも付いている有様だった。
 確かに、暴力団の事務所と言えばそんな感じがする。
 私は玄関ドアの横のインタホーンを押した。

〔「……どなた?」〕

 インターホンの向こうから、若い男の声が聞こえた。
 まるで、高橋が応対しているかのようだ。

 愛原「東京から参りました愛原と申します。驫木さんの紹介で、組長さんへの面会で伺いました」

 すると、インターホンからの応答が無くなった。
 門前払いか?
 そう思った時、玄関ドアの向こうから、バタバタと走って来る音が聞こえた。
 そして、玄関ドアが少し開いた。

 組員A「……本当に愛原さん?」
 愛原「そうです。驫木さんの紹介なのも本当です」

 私は自分の名刺と驫木の名刺を2枚、組員に渡した。
 組員は、高橋がスーツを着るとしたらこうだろう的な、やはり派手な色合いのものを着ていた。
 驫木の直属なのか、驫木と同じような紫色のスーツを着ており、その下は黄色いシャツ。
 ネクタイは黒だった。
 但し、見た目は高橋よりも地味だ。
 高橋が金髪に染めているのに対し、この組員は坊主頭である。
 片耳が潰れていることから、柔道の有段者なのだろう。

 組員A「もしもし。本当に、驫木さんの仰る通りのお客様です」

 組員は耳に着けているインカムで、誰かと話を始めた。

 組員A「……分かりました」

 組員は私達の方を見ると言った。

 組員A「組長がお会いになるそうです。どうぞ」
 愛原「ありがとうございます」

 組員は玄関のドアをもう少し大きく開けると、私達を招き入れた。
 組員は私達を入れると、玄関のドアを閉め、鍵を掛けた。
 こりゃ下手打って組長の不興を買うと、いわきの海に沈められるパターンか。

 リサ「階段が急だ」

 しかも狭い。
 だが、さすがは暴力団の本部事務所と言える。
 表の玄関は、狭いあのドア1枚だけ。
 しかも入ったら、急な階段且つ幅は1人分だけ。
 そして、ビルの窓は小さい。
 明らかに、抗争相手が攻めにくいようにした設計であると分かる。

 組員A「こちらです」

 組長がいるのは最上階の4階にあった。
 エレベーターは使わせてもらえず(というか、そもそもあるのか?)、急な階段を4階まで上らされたのだから、さすがに息が切れた。
 しかし、武闘派組員の彼や、鬼のリサは全くそんな様子は無い。

 愛原「失礼します」

 さすがに組長室は豪勢な造りになっている。

 組長「これはこれは……。東京から遠路遥々ご苦労様です」

 組長の周りをガードするように立っている組員達は強面の男達ばかりであったが、組長自身はそんな感じはしなかった。
 見た目は80歳くらいだが、足腰はしっかりしているようだ。
 グレーのスーツを着ている。
 まるで、どこかの大企業の役員かと思うような見た目であった。

 組長「どうぞ、そちらへ」
 愛原「恐れ入ります」

 私とリサは、勧められるままソファに座った。
 その向かいに、組長が座る。

 愛原「東京で探偵をやっております愛原と申します。こっちは助手のリサで」
 リサ「こんにちは。愛原リサです」
 組長「ほお……。こんなかわいいお嬢さんが探偵の助手とは、まるで映画みたいですな」
 愛原「いやあ、全くです」
 組長「いや、これは失礼。昨夜はうちの驫木がとんだ失態を見せたようで、申し訳ありませんでしたなぁ」

 さすがにバレていたか。
 ママさん辺りがチクッたのかな?
 私ぢゃないヨ。

 組長「驫木はしばらくの間、謹慎させることにしました。あいつは頭も腕も良いのだが、一旦酒が入ると、いらん不始末を起こすケチな一面がありまして……。おい」
 組員B「へい!」

 組長は近くにいた組員に何かを命じた。
 すると、組長が座っていた豪勢な机の後ろにある金庫のドアを開けた。
 そこには札束が何束も入っており、そこから一束取り出した。

 組長「詫び料は、愛原さんの言い値でお支払いしましょう。どうか、これで落とし所とさせて頂きたい」
 愛原「いえいえ、詫び料などと……。今回私達が伺ったのは、驫木さんのことではないのです」
 組長「一応、驫木から聞いております。何でも、私の昔話を聞きたいのだとか……」
 愛原「組長にまで上り詰められた御方の昔話、1つや2つだけではないでしょう。恐らく、ごまんとあるはずです」
 組長「まあ……墓場まで持って行かねばならぬ話なら、いくつかありますぞ?さすがにそれは、お話しすることはできないが……」
 愛原「私が聞きたい話は、その中にあるのかどうかは分かりませんが……。どうでしょう?そんな昔話をタダで聞くのは申し訳ありません。今お支払いして頂けるという詫び料で、情報料をお支払いさせて頂くというのは?」
 組長「愛原さんも、なかなか取引上手のようですな。で、何が聞きたいのですかな?」
 愛原「はい。時期的には、今から50年ほど前の話になります」
 組長「50年前……。こりゃまた随分昔の話ですなぁ。私の記憶に残っているかどうか……」
 愛原「そこを何とか、言い値の詫び料でお願いします」
 組長「ふふ……。まあ、努力させて頂こう。もっと詳しい話を」
 愛原「はい。実は……」

 私は組長に事情を話した。

 愛原「……東京から、仲間を死なせた東京の医者に復讐をしようと追っていたヤクザがいました。その捜索依頼を、こちらの奥州虹元組にされたのではないかと思いまして。覚えておいでではないでしょうか?」
 組長「50年前……東京のヤクザ……。……ふむ……もしかして、牛窪のことかな?」
 愛原「覚えていらっしゃいますか!?」
 組長「ちょうど私が、オヤジ……つまり、前の組長ですな。そのオヤジから若頭の名を頂戴して、1年くらい経った時のことですか。確かに、東京のヤクザが事務所に転がり込んできたことがありました。確か……名前を牛窪……牛窪勝五郎とか言いましたかな」
 愛原「凄そうな名前ですね」
 組長「何せ全身墨だらけ。それだけならまだしも、顔も体も傷跡だらけの男は、今のヤクザにはおりますまい。ケンカとチ○ポの強さだけが自慢のケチな男でしたな」
 愛原「その牛窪という男が、上野……つまり、ヤクザの患者を医療ミスで死なせた医者に復讐を誓うヤクザだったのですね?」
 組長「そう聞いた。死んだ患者というのは、新井という男。牛窪はその舎弟だということです」

 そして私は、組長から驚くべき話を聞くことになる。
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