報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東京駅の地下で」

2023-05-13 20:36:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月13日19時40分 天候:雨 東京都中央区八重洲2丁目 八重洲地下街西駐車場]

 私はリサを伴い、八重洲地下街の駐車場へと向かった。
 八重洲地下街には2つの駐車場があり、東駐車場と西駐車場がある。
 このうち、東京駅に近いのは西駐車場である。
 八重洲地下街には、多くの飲食店が軒を連ねており、駅弁を食べたはずのリサが歩きながら店を物色している。

 愛原「リサ、目の色を変えるなよ?」
 リサ「分かってるよ」

 分かってない。
 リサの目は、獲物を物色する目になっている。
 だから私は、リサの手を引いて、足早に駐車場に向かった。
 そして地下駐車場に到着し、私達は善場主任の車を探した。
 広大な地下駐車場である。
 そこから1台の車を探すのは大変であるが、善場主任が目印とおおよその場所を教えてくれたので、何とか見つかった。

 善場「愛原所長、お疲れ様です」
 愛原「善場主任、お疲れ様です」
 善場「お2人とも、まずは車の中へ」
 愛原「失礼します」

 車は黒のアルファードだった。
 私とリサは、助手席後ろのドアから車内に入った。
 フロントガラスと運転席・助手席の窓以外は、スモークガラスになっている。
 また、運転席や助手席とリアシートの間には、カーテンが閉じられていた。
 当然暗いので、室内の照明は点灯している。

 善場「愛原所長、まずは例の物をお預かりします」
 愛原「あ、はい」

 私はコインロッカーの鍵を渡した。

 愛原「ご指示通り、日本橋口改札のすぐ近くにあるコインロッカーに入れました」
 善場「ありがとうございます」
 愛原「主任、アンプルの中身を聞いたらマズいですか?」
 善場「構いませんよ。詳しいことは、これからBSAAが回収して、解析の結果が出ない限りは不明ですから」
 愛原「それを踏まえた上で、ズバリあのアンプルの中身は何だったのでしょうか?」
 善場「分かりません」
 愛原「あらっ!」
 善場「逆に愛原所長は何だと思われますか?」
 愛原「えーと……有り得ないことだとは思いますが、ウィルス兵器が何かが入っていたのではないでしょうか?」
 善場「何のウィルスだと思われますか?」
 愛原「Tアビスです」
 善場「どうしてそう思われるのですか?」
 愛原「斉藤玲子の実家の爆破テロには、ヴェルトロの残党が関わっていたと聞きます。ヴェルトロが関わったバイオテロといえば、Tアビスです。以前、研修で資料映像を見せてもらいましたが、アンプルに入った状態の色は、明るい紫色のようですね。東京メトロ半蔵門線みたいな」
 善場「面白いことを仰いますね。しかし、所長の推理には矛盾点は無いように思われます」
 愛原「話の筋は通っていますが、しかしそれだと大きな矛盾が1つあるのですよ」
 善場「それは何でしょう?」
 愛原「Tアビスが完成した時期と、上野医師が所持していた時期が合わないということです。Tアビスが実際に使用されたのは、2004年です。それ以前に完成していたとしても、21世紀に入ってからのことでしょう。それが、その30年も前に存在していたとは考えにくいです」
 善場「でもヴェルトロは、何故かウィルスの入ったアンプルの存在に気づき、爆破しようとしましたね。何故だと思われますか?」
 愛原「そこまでは……。それこそ、高橋と一緒にいたクルド人メンバーを締め上げて吐かせるしか無いでしょうね」
 善場「私は上野医師は、先代白井だったと思っています」
 愛原「先代白井?」
 善場「『平成のマッドサイエンティスト』として名を馳せた白井ですが、実は『昭和のマッドサイエンティスト』がいたのかもしれません。それが、上野医師です」
 愛原「失礼ですが、主任は随分と確信を持って話しておられるように聞こえます。何か、お心当たりでも?」
 善場「私もですね、BOWになる前の記憶が曖昧になっていた部分があるのですよ。具体的には白井に捕まる前後、つまり大学時代ですね。もう既に少女というには大人の年代である女子大生まで捕まえたのは、偏に私が白井の秘密を知ってしまったからなんですよ」
 愛原「記憶が戻られたのですか?」
 善場「ええ。もしも日本アンブレラがもっと早くに創業していたら、五十嵐社長は上野医師を研究部門の責任者にスカウトしたと話していました」
 愛原「白井がですか?」
 善場「はい。当時、大学の客員教授として来ていた白井がです」
 愛原「そうでしたか」

 日本アンブレラの創業は1984年。
 もしその会社が、あと10年早く創業していたらの話だそうだ。

 善場「白井は白井で、上野医師の秘密を探っていたようです。私が大学生の頃には、既に上野医師は亡き者にしているはずですが、桧枝岐村ではその秘密が見つからなかったのでしょう」
 愛原「とんでもない野郎だ」
 善場「とにかく、例のアンプルはBSAAが翌日回収に来ます」
 愛原「翌日ですか?!しかし、翌日だと、また料金が……」
 善場「それについては、所長は御心配なさる必要はありません。……あ、忘れるところでした。所長が立て替えたコインロッカーの利用料金を、この場で精算させて頂きます」

 といっても、400円なんだがな。

 善場「あと、これは餞別です」

 と、善場主任は私にタクシーチケットを渡した。

 善場「鍵は受け取りましたが、今日の所はタクシーで真っ直ぐ帰った方が良いかもしれません」
 リサ「えっ、この車で送ってくれないの?」
 愛原「こら、リサ!」
 善場「あいにくと、これからすぐにこの鍵をBSAAに送らないといけませんので」

 すると、車の周りに赤ランプの光が見えるようになった。
 赤ランプを備えた車に囲まれたのではなく、この車が赤い光を放っているのだった。
 そう、つまりこの車は覆面パトカーだった。
 いや、警察組織が持っている車ではないだろう。
 だが、とにかく政府機関が緊急の時に使用する、緊急車両に違いは無かった。

 愛原「案外、駅の人混みは安全だと聞いたことがあります」
 善場「それは警察視点での話ですね。テロリストや反射組織の人間なら、そんなこと気にしませんよ」
 愛原「あらまっ!」

 私とリサは車を降りた。
 改めて翌日、また報告に行く約束をしてからだ。
 善場主任とその部下を乗せた車は、駐車場出口へと向かって行った。

 愛原「俺達も帰ろうか」
 リサ「うん」

 地下駐車場から八重洲地下街へと戻る。
 例の荷物から解放された安心感からか、急に私のお腹がグーグー鳴り始めた。

 リサ「お腹空いた?ねぇ、夕食食べてから帰ろうよ?」

 リサが腕を組みながら言って来た。

 愛原「しょうがないな……。ラーメンでも食べて帰るか」
 リサ「ラーメンか。先生が奢ってくれるなら、何でも美味しいからいいや」
 愛原「何だそれ……」

 私は呆れながらも、駐車場出入口近くのラーメン店に入った。
コメント
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