報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「帰京ミッション」

2023-05-12 20:30:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月13日17時37分 天候:曇 福島県郡山市燧田 JR郡山駅→東北新幹線280B列車17号車内]

〔11番線に、停車中の列車は、17時37分発、“なすの”280号、東京行きです。この電車は、各駅に停車致します。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、11号車。自由席は1号車から6号車と、12号車から17号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 郡山駅で新幹線のキップを購入した私達は、それで新幹線乗り場へと入った。
 途中でリサが所望している駅弁を購入する。
 リサはやっぱり肉系統の駅弁を選んだ。
 私はというと、重要な物を運搬しているという緊張感で、とても食欲など無い。
 せいぜい、コーヒーくらいで我慢しておく。
 缶コーヒーではなく、レギュラーコーヒーをNewDaysで購入した。
 それから善場主任の指示通り、最後尾の車両に向かう。
 郡山始発の“なすの”号ながら、秋田新幹線の車両も連結した長大編成だった。
 その為、ほとんど自由席ながら、車内の混雑度はさほどでもない。
 東京駅からの折り返し運用がメインなのかもしれない。

 愛原「こういう時、2人連れだと楽だ」
 リサ「ん?」

 秋田新幹線のE6系は在来線規格の車両である為、新幹線車両でありながら、普通車でも3人席が無い。
 ただ、シートピッチは、併結相手のE5系“はやぶさ”車両や東海道・山陽新幹線のN700系よりも狭い。
 最後尾ということもあって、元々空いている列車の中でも、更にガラガラだった。
 普通の荷物は網棚に置いておくが、アンプルの入ったジュラルミンケースだけは足元に置いておく。
 一応、中にはスポンジの緩衝材もあるが、もしも落として割ったりでもしたら、この列車がゾンビトレインと化してしまう。
 それだけは避けなくてはならない。

〔「お待たせ致しました。17時37分発、東北新幹線上り、“なすの”280号、東京行き、まもなく発車致します」〕

 テーブルを出して、リサは駅弁と飲み物を置き、私はコーヒーだけを置いた。
 リサは早速、駅弁の中を食べようとしている。
 車内が空いていて静かな為に、ホームからは微かに発車メロディの音色が聞こえてくる。
 ご当地メロディであり、郡山市ゆかりのアーティストが歌った“キセキ”をアレンジしたものだそうだ。

〔11番線から、“なすの”280号、東京行きが発車致します。次は、新白河に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕
〔「11番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 甲高い客扱い終了合図のブザーが聞こえてくると、ドアが閉まる。
 この駅にはホームドアが無いので、車両のドアが閉まり切ると、列車は動き出した。

 愛原「取りあえず、時間通りに発車したな」

 今のところは順調。
 しかし、まだ善場主任からの連絡は無い。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、“なすの”号、東京行きです。次は、新白河に止まります。……〕

 列車は下り副線ホームを出発した。
 郡山駅の11番線ホームは、郡山始発の“なすの”専用ホームとなっている。
 その為、実際は上り列車が出発する。
 発車の際は下り線を逆走する形で出るというわけだ。
 ポイントを通過して下り線を跨ぎ、それから上り線に入って、再び加速する。
 多分、このような運用は、列車本数の多い東海道新幹線では殆どやらないだろう。
 それよりは本数が少なく、コロナ禍で更に減便されてスッカスカダイヤになった東北新幹線だからできることかもしれない。
 リサは駅弁をガツガツ食べ始めた。
 見ていると腹が空く感じがするのだが、すぐに緊張で胃がもたれる感じがしたりもする。
 私は合法的に運搬しているだけなのだが、これがバイオテロ組織ともなると、もっと大変なんだろうなと思う。
 私の場合は、箱に入ったアンプルが1本だけだからまだ良いのだが、エヴリンを運んでいた組織はもっと大変だっただろう。
 ……あ、いや……。

 リサ「ん、どうしたの?先生?」

 こちとらエヴリンと同等のラスボス、リサ・トレヴァー日本版改良型亜種と行動しているんだから、やっぱり大変だ。
 まあ、エヴリンと違って、食べ物でも与えておけば大人しいという性質がある。

 愛原「いや、何でもない」
 リサ「この箱、善場さんに渡して御役御免になったら、一緒に美味しい物でも食べようよ~?」
 愛原「オマエ、駅弁食いながら言うセリフじゃないだろ」

 リサなりに気を使ってくれてるのかもしれないが。

[同日19時16分 天候:雨 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 列車が南下する度に、天気が悪くなっていった。
 ついに大宮駅を出る頃には、雨が降り出していた。
 上野駅を出る頃、ようやく善場主任からメールが来た。
 どうやらGPSか何かで、私達の動きを追っているようである。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 リサ「何だって?」
 愛原「いや……」

 予想の斜め上を行く指示に、私は少し意外であった。
 そして列車は、定刻通り、東京駅の22番線ホームに到着した。

 愛原「こっちを行くんだって」

 列車を降りると、私は進行方向とは逆方向に向かった。
 そこは日本橋口である。
 東海道新幹線も含めて、新幹線改札口では最も利用客が少ない所である。
 東海道新幹線の方は、それでもまだ少し賑わっているが、JR東日本の新幹線の方は本当にガラガラである。
 何せバリアフリーのバの字も無く、階段しか無いのだ。
 東海道新幹線側は、まだエスカレーターくらいはあるのだが。
 ただ、人が少ないということもあって、トイレも空いていてキレイなので、穴場とのこと。
 そんな日本橋口の改札口を出る。
 入口と出口が1つずつしかない、寂しい改札口だった。
 しかし、東京駅では唯一の『在来線を通らず、直接新幹線ホームに行ける改札口』ではある。
 混雑している在来線コンコースを通りたくない人は、あえてここから出入りしているのだとか。

 リサ「で、どうするの?」
 愛原「コインロッカーに行く」

 この日本橋口改札から最も近いコインロッカーに行く。
 旧型の鍵式であった。
 そこの空いているロッカーに、ジュラルミンケースを入れる。
 そして、お金を入れてあとは鍵を掛けるだけ。

 愛原「あとはこの鍵を、善場主任に渡せば良い」
 リサ「そんな簡単なの?」
 愛原「そうみたいだな」
 リサ「これから新橋まで?」
 愛原「いや。ヤエチカの駐車場に、車で来ているらしいから、そこまで来いだって。で、そこでこの鍵を受け取るらしい」
 リサ「ふーん……」

 恐らく善場主任達は、直接受け取れないのだろう。
 コインロッカーなら人目はあるし、監視カメラもあるので、不審者がこじ開けようとするなら、すぐに通報されるだろう。
 善場主任はコインロッカーの鍵を受け取り、それをBSAAの関係者に渡すのだろうと私は思った。

 愛原「というわけで、次はヤエチカに行くぞ」
 リサ「りょーかい」

 私達は旅行客で賑わう東京駅構内を進んだ。
コメント
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