[12月12日10時00分→13時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
愛原「……というわけでありまして、来年から事務所を移転することになりましたので」
クライアント「そうですか。都心の一等地に移転されるので?」
愛原「いやいや!まだそんな、とんでもない。私共には、専用の事務所はまだ早かったみたいで、住まいと事務所を一体化することにしました。菊川2丁目のこちらに移転することになりますので、今後ともどうか御贔屓に……」
クライアント「ほおほお」
というような挨拶で午前中が終わる。
善場「先週、調査して頂いた上野医師の件ですが……」
愛原「新たに何か分かりましたか?」
善場「こちらはこちらで、調査の結果が出ました。具体的には、リサとの親子関係です」
愛原「どうでした?」
善場「DNA鑑定の結果、リサは斉藤玲子さんと上野医師の間にできた娘である可能性が高いとの結果が出ました」
愛原「そうでしたか!牛窪の娘じゃなくて良かった」
しかし、そうなると、斉藤玲子は僅か14~15歳でリサを生んだことになるな……。
リサだけじゃない。
リサの妹達を何人も生んでいる。
その後、全員が白井に連れ去られることになるわけだが……。
善場「ヴェルトロがどのようにして、斉藤玲子の実家の場所と、そこにTアビスと似たウィルスが隠されていたことを知ったのかは不明です。それについては、BSAAが調査しております」
愛原「分かりました。それで、私達としては、今後どのような協力をさせて頂ければ宜しいですか?」
善場「今のところは、特にありません」
愛原「あらまっ!」
善場「申し訳ございませんが、しばらの間、待機でお願いします」
愛原「分かりました……」
私はとても残念であった。
このままでは、あまり売り上げが宜しくない。
どうしたものか……。
[同日11時00分 天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
事務所に1本の電話が掛かって来た。
愛原「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます」
男性「あ、あンの~……愛原学さんですか?」
電話の向こうから、東北地方の訛りによく似たイントネーションの男性の声が聞こえた。
愛原「はい。そうですが?」
男性「東京の探偵の愛原さんですね?」
愛原「そうです。何か、お仕事の御依頼でしょうか?」
男性「仕事の依頼っつーか、あの……」
愛原「ん?」
男性「以前、うちの村に来ましたよね?桧枝岐村ですが……」
愛原「あ、はい。伺いましたよ。桧枝岐村の方ですか?」
男性「消防団の者です。以前、出張所に行かれたとかで……」
愛原「はいはいはい。そうですそうです」
上野医師と斉藤玲子が潜伏していた家が白井に襲撃された際、放火されたのか、火災が起きたことを私達は突き止めた。
火災が起きたのだから、当然消防が出動したはずで、その時の記録を見せてもらえないか、村で唯一の消防署の出張所に足を運んだことがあった。
だが、さすがに何十年も前のことなので、その記録は廃棄されていた。
男性「医者の上野先生をお探しの探偵さんが来たっつー話を聞いて、あンれと思いまして……」
愛原「と、仰いますと?」
男性「村の小中学校の図書室から、上野先生の日記が見つかりまして、それで東京の探偵さんにお知らせせねばと思ったんです」
愛原「上野医師の日記!?それは本当ですか?!」
男性「はい。表紙の所さ、上野先生の名前が書いてあっから、間違いねぇと思います」
何でそんなものが小学校だか中学校の図書室に!?
愛原「それは今もありますか?」
男性「へ、ヘェ!あります」
愛原「着払いでいいので、その日記を送って頂くことはできますか?」
男性「校長先生に聞いてみます」
愛原「どうしてその日記が学校にあったんでしょう?」
男性「いンや~、それはちょっと……分かんねぇべさね~」
愛原「と、とにかく、こちらに送ってください。校長先生にも、よろしくお願いします」
男性「分かりました」
愛原「あ、あの、事務所の住所と連絡先は……」
男性「ああ。出張所に置いてかれた名刺さ書いてありますんで、分かります」
そうだった。
もしも上野医師などの事で何か分かったことがあったら、連絡をお願いしていたんだった。
そしてその名刺は、宿泊した旅館にも置いてきたし、医療機関繫がりで、村の診療所にも置いてきた。
小さい村のことだから、もしかしたら、私達のことで噂が広がったのかもしれない。
無医村状態だった村に、流れ者とはいえ、医者が来たとあらば、村中大歓迎だっただろう。
その医者が何者かに殺されたというだけで、村内では歴史に残る大事件だっただろうし、それが最近になって、東京から来た探偵が情報を探しているとなれば……。
私はすぐに善場主任に連絡した。
善場主任も驚いているようだった。
善場「さすがは愛原所長です。報酬をお支払いしますので、日記が届いたら、すぐに私共にお寄せください」
愛原「分かりました。一応、中身は確認しておいた方が良いかと思いますが……」
善場「そうですね。その後で結構です」
とのことだった。
日記を見つけたのは私ではないのだが、それを転送しただけで報酬がもらえるとはかなり美味しい。
ややもすれば、何回目かの桧枝岐村訪問になりそうだったが、それは免れるようだった。
[12月13日10時00分 天候:晴 同事務所]
配達員「ゆうパックでーす!」
愛原「早っ!」
福島の山奥の村から差し出されるのだから、2~3日くらい掛かるのだろうと思いきや、1日で到着した。
配達員「着払いのお荷物ですが、よろしいでしょうか?」
愛原「あ、はい。大丈夫です」
日記はかなりの厚みがあった。
恐らく1年分書けるタイプではないだろうか。
私は料金を支払い、荷物を受け取った。
中を開けると、表紙はハードカバーになっており、開くと『上野兵介』という名前が書かれていた。
これが上野医師のフルネームなのだ。
パラパラとページを捲ってみると、50年も前の書物ではあるが、案外状態は良かった。
愛原「はー、なるほど……」
いかにして上野医師が東京から東北に逃れ、そこで斉藤玲子と出会って、共に逃避を続ける描写が綴られていた。
愛原「なるほど。これは良い証拠になるかもしれん」
私はすぐに善場主任に連絡した。
主任はすぐに取りに行くと答えた。
私は主任が取りに来る間、もう少し日記を読んでみることにした。
気になるのは最後の方……。
愛原「やっぱり、上野医師は牛窪を殺している。しかも、斉藤玲子に死体遺棄を手伝わせてるな……」
私が何故か切なさを感じたのは、『玲子、自分を無理やり犯した男がいざ死ぬとなると、何故か慈しみの顔つきになる。女というのは……』という部分。
いくら他人棒でも、自分をヒィヒィ言わせてくれた男がいざ死んだとなると、悲しそうな顔になったことに対し、上野医師が憤りを感じているのが分かる。
内容が斉藤玲子との性的な描写が多々あったので、学校の図書館で預かっても、さすがに児童達には見せられなかったようである。
そして、上野医師は自分がまだ狙われていることを危惧していたようだ。
それで、この日記を懇意にしていた当時の小中学校の校長先生に託したのだという。
日記はそこで終わっていた。
気になったのは、もっとよく探せばあるのかもしれないが、例の薬品については全く書かれていないことだ。
日記にすら書かず、墓場まで持って行くつもりだったのだのだろうか?
それとも……。
愛原「……というわけでありまして、来年から事務所を移転することになりましたので」
クライアント「そうですか。都心の一等地に移転されるので?」
愛原「いやいや!まだそんな、とんでもない。私共には、専用の事務所はまだ早かったみたいで、住まいと事務所を一体化することにしました。菊川2丁目のこちらに移転することになりますので、今後ともどうか御贔屓に……」
クライアント「ほおほお」
というような挨拶で午前中が終わる。
善場「先週、調査して頂いた上野医師の件ですが……」
愛原「新たに何か分かりましたか?」
善場「こちらはこちらで、調査の結果が出ました。具体的には、リサとの親子関係です」
愛原「どうでした?」
善場「DNA鑑定の結果、リサは斉藤玲子さんと上野医師の間にできた娘である可能性が高いとの結果が出ました」
愛原「そうでしたか!牛窪の娘じゃなくて良かった」
しかし、そうなると、斉藤玲子は僅か14~15歳でリサを生んだことになるな……。
リサだけじゃない。
リサの妹達を何人も生んでいる。
その後、全員が白井に連れ去られることになるわけだが……。
善場「ヴェルトロがどのようにして、斉藤玲子の実家の場所と、そこにTアビスと似たウィルスが隠されていたことを知ったのかは不明です。それについては、BSAAが調査しております」
愛原「分かりました。それで、私達としては、今後どのような協力をさせて頂ければ宜しいですか?」
善場「今のところは、特にありません」
愛原「あらまっ!」
善場「申し訳ございませんが、しばらの間、待機でお願いします」
愛原「分かりました……」
私はとても残念であった。
このままでは、あまり売り上げが宜しくない。
どうしたものか……。
[同日11時00分 天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
事務所に1本の電話が掛かって来た。
愛原「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます」
男性「あ、あンの~……愛原学さんですか?」
電話の向こうから、東北地方の訛りによく似たイントネーションの男性の声が聞こえた。
愛原「はい。そうですが?」
男性「東京の探偵の愛原さんですね?」
愛原「そうです。何か、お仕事の御依頼でしょうか?」
男性「仕事の依頼っつーか、あの……」
愛原「ん?」
男性「以前、うちの村に来ましたよね?桧枝岐村ですが……」
愛原「あ、はい。伺いましたよ。桧枝岐村の方ですか?」
男性「消防団の者です。以前、出張所に行かれたとかで……」
愛原「はいはいはい。そうですそうです」
上野医師と斉藤玲子が潜伏していた家が白井に襲撃された際、放火されたのか、火災が起きたことを私達は突き止めた。
火災が起きたのだから、当然消防が出動したはずで、その時の記録を見せてもらえないか、村で唯一の消防署の出張所に足を運んだことがあった。
だが、さすがに何十年も前のことなので、その記録は廃棄されていた。
男性「医者の上野先生をお探しの探偵さんが来たっつー話を聞いて、あンれと思いまして……」
愛原「と、仰いますと?」
男性「村の小中学校の図書室から、上野先生の日記が見つかりまして、それで東京の探偵さんにお知らせせねばと思ったんです」
愛原「上野医師の日記!?それは本当ですか?!」
男性「はい。表紙の所さ、上野先生の名前が書いてあっから、間違いねぇと思います」
何でそんなものが小学校だか中学校の図書室に!?
愛原「それは今もありますか?」
男性「へ、ヘェ!あります」
愛原「着払いでいいので、その日記を送って頂くことはできますか?」
男性「校長先生に聞いてみます」
愛原「どうしてその日記が学校にあったんでしょう?」
男性「いンや~、それはちょっと……分かんねぇべさね~」
愛原「と、とにかく、こちらに送ってください。校長先生にも、よろしくお願いします」
男性「分かりました」
愛原「あ、あの、事務所の住所と連絡先は……」
男性「ああ。出張所に置いてかれた名刺さ書いてありますんで、分かります」
そうだった。
もしも上野医師などの事で何か分かったことがあったら、連絡をお願いしていたんだった。
そしてその名刺は、宿泊した旅館にも置いてきたし、医療機関繫がりで、村の診療所にも置いてきた。
小さい村のことだから、もしかしたら、私達のことで噂が広がったのかもしれない。
無医村状態だった村に、流れ者とはいえ、医者が来たとあらば、村中大歓迎だっただろう。
その医者が何者かに殺されたというだけで、村内では歴史に残る大事件だっただろうし、それが最近になって、東京から来た探偵が情報を探しているとなれば……。
私はすぐに善場主任に連絡した。
善場主任も驚いているようだった。
善場「さすがは愛原所長です。報酬をお支払いしますので、日記が届いたら、すぐに私共にお寄せください」
愛原「分かりました。一応、中身は確認しておいた方が良いかと思いますが……」
善場「そうですね。その後で結構です」
とのことだった。
日記を見つけたのは私ではないのだが、それを転送しただけで報酬がもらえるとはかなり美味しい。
ややもすれば、何回目かの桧枝岐村訪問になりそうだったが、それは免れるようだった。
[12月13日10時00分 天候:晴 同事務所]
配達員「ゆうパックでーす!」
愛原「早っ!」
福島の山奥の村から差し出されるのだから、2~3日くらい掛かるのだろうと思いきや、1日で到着した。
配達員「着払いのお荷物ですが、よろしいでしょうか?」
愛原「あ、はい。大丈夫です」
日記はかなりの厚みがあった。
恐らく1年分書けるタイプではないだろうか。
私は料金を支払い、荷物を受け取った。
中を開けると、表紙はハードカバーになっており、開くと『上野兵介』という名前が書かれていた。
これが上野医師のフルネームなのだ。
パラパラとページを捲ってみると、50年も前の書物ではあるが、案外状態は良かった。
愛原「はー、なるほど……」
いかにして上野医師が東京から東北に逃れ、そこで斉藤玲子と出会って、共に逃避を続ける描写が綴られていた。
愛原「なるほど。これは良い証拠になるかもしれん」
私はすぐに善場主任に連絡した。
主任はすぐに取りに行くと答えた。
私は主任が取りに来る間、もう少し日記を読んでみることにした。
気になるのは最後の方……。
愛原「やっぱり、上野医師は牛窪を殺している。しかも、斉藤玲子に死体遺棄を手伝わせてるな……」
私が何故か切なさを感じたのは、『玲子、自分を無理やり犯した男がいざ死ぬとなると、何故か慈しみの顔つきになる。女というのは……』という部分。
いくら他人棒でも、自分をヒィヒィ言わせてくれた男がいざ死んだとなると、悲しそうな顔になったことに対し、上野医師が憤りを感じているのが分かる。
内容が斉藤玲子との性的な描写が多々あったので、学校の図書館で預かっても、さすがに児童達には見せられなかったようである。
そして、上野医師は自分がまだ狙われていることを危惧していたようだ。
それで、この日記を懇意にしていた当時の小中学校の校長先生に託したのだという。
日記はそこで終わっていた。
気になったのは、もっとよく探せばあるのかもしれないが、例の薬品については全く書かれていないことだ。
日記にすら書かず、墓場まで持って行くつもりだったのだのだろうか?
それとも……。