報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「福島での聞き込み調査」

2023-05-01 20:47:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月12日14時14分 天候:晴 福島県田村郡小野町 JR小野新町駅]

〔「まもなく小野新町、小野新町です。お出口は、右側です。この駅で、後ろ2両の切り離しを致します。後ろ2両へご乗車のお客様で、小野新町より先へお越しの方は、前2両にお移りください。また、この作業の為、本日に限り、当駅の発車時刻を14時20分とさせて頂きます。お急ぎのお客様、列車遅れまして、大変申し訳ございません。……」〕

 磐越東線の中間駅では最も大規模な、小野新町駅に接近した。
 最も大規模といっても、駅員がいる有人駅で、留置線が何本かあり、夜間滞泊の設定があるに過ぎない。
 しかし、乗降客は多いようである。
 ワンマン列車だと無人駅では運転室直後のドアしか降りられないが、有人駅ということで、全部のドアから乗り降りできる。
 ドアが開いて、半分くらいの乗客が降りて行った。 
 と、今度は郡山行きの列車が入線してくる。
 全線単線の磐越東線は、途中いくつかある行き違い可能な駅で上下列車の行き違いを行う。
 運転室横に乗っていた作業員は、やはり切り離し作業を行う為に乗っていたらしく、この駅で降りて行った。

 リサ「ねえ、先生」
 愛原「何だ?」
 リサ「この列車に、わたしのお父さんやお母さんも乗ったのかな……」
 愛原「今から50年前のダイヤじゃ、分からんな」

 ただ、善場主任の話だと、昼下がりの列車だったという。
 奇しくもこの列車も、そんな時間帯に郡山駅を発車した。
 だから、もしかしたら、というのはある。
 ただ、同じ列車番号だったかは不明だ。
 何しろ、今は普通列車しか運転されていないこの路線も、かつては快速や急行列車も運転されていたほどである。
 上野医師と斉藤玲子が、そういう優等列車に乗った可能性はある。
 それに、当時は今よりも列車本数はあっただろう。
 また、確実に言えるのは、あの2人はこのキハ110系には乗っていない。
 50年前にこの車両は存在しないからだ。
 気動車ならキハ58系、キハ40系辺りか?
 もしかしたらもっと古く、キハ52系とかもいたかもしれない。
 あとは、ディーゼル機関車または蒸気機関車牽引の客車だったかもしれない。
 さすがに1970年代で蒸気機関車?と思うかもしれないが、都市部の幹線ではともかく、地方ローカル線ではまだ現役だった所もあったと聞く。

 愛原「確かに、こんな所で大ケガとかしようものなら、総合病院に運ばれるのに、相当時間が掛かるだろうなぁ……」

 今ならまだマシかもしれないが、50年前の交通事情と医療事情を鑑みれば……と思う。

[同日14時20分 天候:晴 JR磐越東線732D列車先頭車内]

〔「本日に限りまして、この列車、14時20分発とさせて頂きます。お急ぎのところ、列車遅れまして、大変ご迷惑をお掛け致します」〕

 この駅から2両編成ワンマンになるのか、運転士がマイクを使って放送していた。

〔ピンポーン♪ この列車は『ゆうゆうあぶくまライン』磐越東線、小川郷方面、各駅停車のいわき行き、ワンマンカーです。夏井、川前、江田、小川郷の順に停車します。まもなく発車致します〕

 どうやら、本当にワンマン運転になるようである。
 元々この列車は、郡山駅から2両編成ワンマン運転だったわけだから、ようやく元に戻ったと言えなくもない。
 とにかく列車は、通常ダイヤより5分遅れて、小野新町駅を発車した。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は『ゆうゆうあぶくまライン』磐越東線、小川郷方面、各駅停車のいわき行き、ワンマンカーです。これから先、夏井、川前、江田、小川郷の順に、各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。乗車券、運賃、整理券は運賃箱にお入れください。定期券は、運転士にお見せください。【中略】次は、夏井です〕

 車内で急病を起こした善場主任の祖父は、小川郷駅で降りるつもりだった。
 だが、上野医師に救命措置を受けた後、大事を取って、掛かりつけ医のいる病院へ向かう為、一緒にいわき駅(当時は平駅)に向かったそうだ。
 病院まで同行したのだろうか?
 そうでなくても、上野医師達がいわき市のどこへ向かったかくらいは分かるかもしれない。

 リサ「ねえ、先生」
 愛原「何だ?」

 リサは股間の辺りを押さえてモジモジしている。

 リサ「この列車のトイレって、洋式かな?」
 愛原「あー……どうだろう?」

 私はすぐに答えを返すことはできなかった。
 キハ110系が製造を開始した辺りは、確か交通バリアフリー法ができる前後だったはずだ。
 つまり、初期に製造され、その後、何のリニューアルも受けていない場合は和式である可能性が高い。
 逆に、その法律が制定された後に製造された車両であれば、洋式であるかもしれない。
 私は辺りを見回した。
 そして……。

 愛原「あー、分かった。多分、洋式だ」
 リサ「ほんと!?じゃあ、ちょっと行って来るね!」

 リサはそう言って、トイレに向かった。
 私が洋式だと思ったのは、車椅子スペースを見つけたからだ。
 あれは交通バリアフリー法に基づいて設置されているものだから、そうしておいて、トイレがバリアフリーではない和式だとは考えにくい。
 しばらくして戻って来たリサは……。

 リサ「洋式だった。さすが先生」

 と、上機嫌であった。

 愛原「それは良かった」

[同日15時10分 天候:晴 福島県いわき市小川郷高萩 善場家]

 小野新町駅から先は、対向列車の行き違いもなく、停車時間も僅かな駅ばかりである。
 そんな所では回復運転も見込めるはずがなく、小川郷駅も5分遅れで到着した。
 恐らく、終点のいわき駅もそんな感じで到着するのだろう。
 ただ、こういうローカル線では、折り返し時間は長く取ってあるので、それで折り返し列車は定刻通りに発車させる計画なのかもしれない。
 とにかく、予定通り、小川郷駅で降りた私達は、善場主任の祖父の家に向かった。
 それは、JAの近くにある一軒家だった。
 かつて小牛田に住んでいた公一伯父さんの家をイメージしたが、そんなことはなく、ごくごく普通の一軒家だった。

 愛原「こんにちは。東京から参りました愛原と申します。善場優菜主任の紹介で参りました」

 玄関のインターホンを鳴らし、用件を伝えると、善場主任の面影のある老婆が出てきた。
 恐らく、善場主任の祖母なのだろう。

 老婆「優菜の言っていた東京の探偵さんですね。どうぞ」
 愛原「失礼します」

 私達は家の中に入らせて頂いた。
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“私立探偵 愛原学” 「上野医師と斉藤玲子の軌跡を追う」

2023-05-01 15:59:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月12日13時15分 天候:晴 福島県郡山市 JR郡山駅→磐越東線732D列車先頭車内]

 いやー、参った。
 うん、参った。
 何が参ったのかというと、2つある。
 1つは言うまでも無く、ヴェルトロの残党によるテロ活動。
 そしてもう1つは、磐越東線の本数の少なさである。
 何しろ、郡山~いわきの全区間を走り通す列車が1日に5本しか運転されないのである。
 更にもう1本については、小野新町駅で乗り換えとなる。
 私達は、そのうちの1本に乗ろうとしている。
 結局、爆弾は1発しか爆発しなかった。
 しかも、ただの爆弾ではなかったらしい。
 それは、プロパンガスボンベを改造したもの。
 郡山市内には、まだまだプロパンガスを使用している家庭も多く、ヴェルトロはガスボンベの業者を装い、時間が経ったらそのガスボンベに引火して爆発する仕掛けをしておいたらしい。
 そして、狙われたのは斉藤玲子の実家。
 そこの家もプロパンガスを使用していたのだが、それが爆発する仕掛けのボンベと交換されていた。
 そして、爆発と同時に、隣り合った普通のガスボンベも引火して爆発したことにより、大きな爆発となったらしい。
 しかし、家族は無事だった。
 ちょうどその時、磐梯熱海温泉に宿泊していて無事だったという。

 愛原「何だか話が出来過ぎているなぁ……」

 私は首を傾げた。
 とにかく、昼過ぎてから安全が確認できたということで、東北新幹線、東北本線、磐越東線は運転再開となった。
 犯行声明の出ている市西部を走る磐越西線については、まだ運休が続いている。
 磐越西線を除き、運転再開となった郡山駅は、少しずつ混乱が収まってきているように思えたが……。

〔まもなく6番線に、列車が入ります。黄色い線の内側まで、お下がりください〕

 簡易的な接近放送が流れる。
 磐越東線は、郡山駅で最も東にあるホームから発着している。
 時刻表では『ワンマン』という表示があったので、編成は1~2両編成かと思っていたのだが、何故か4両編成でやってきた。
 もちろん、行先表示には『ワンマン』の表示はない。
 ただ単に、『いわき』と書いているだけだ。
 しかし、後ろ2両の編成を見ると、『小野新町』と書かれていた。
 これは一体……?
 私とリサは、前2両の『いわき』行きに乗った。
 車両はキハ110系という、比較的古い車両である。
 古いといっても、JR東日本発足後に製造された車両なので、国鉄形式ではない。
 2ドアのワンマン装置付きで、ドアの横はロングシートだったが、それ以外は向かい合わせのボックスシートだった。
 但し、4人用のボックスシートと2人用のボックスシートがある。
 まあ、相席にならずに済む2人用の方に向かい合って座った。

 愛原「おかしいな?『ワンマン』とあったのに、長い編成だな?」

 私が不審そうに辺りを見回した。
 それは他の乗客、それも地元民らしき者もそう思ったらしく……。

 乗客「今日は4両編成なのねー」

 と、連れの乗客と話している。
 だが、4両で良いのではないかと思うほど、座席の方は埋まりつつあった。
 それとも、この需要を見越して、増結したのだろうか?
 気動車であれば、編成も自由に変えられるというメリットはある。

〔「ご案内致します。この列車は13時24分発、『ゆうゆうあぶくまライン』磐越東線下り、三春、船引、小野新町方面、普通列車のいわき行きです。終点、いわきまでの各駅に止まります。本日は4両編成で運転致しますが、後ろ2両は途中の小野新町止まりです。後ろ2両は、途中の小野新町で切り離しを致します。ご注意ください。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 車掌の肉声放送が流れる。

 作業員A「お疲れ様です」
 作業員B「よろしくお願いします」
 運転士「はいー」

 1番前のドアから、作業服にヘルメットを被った男性2人が乗り込み、運転室の横に入り込んだ。
 ワンマン運転に対応している為、乗務員室は運転台の部分にしかない。
 あとは運賃箱とか、腰の辺りまでの低い仕切りの上に手すりが付いているだけに過ぎない。
 JRマークの付いたヘルメットを被っていることから、この作業員2人はJRの技術職員なのだろう。
 いくら犯行声明の対象外と言えど、目視で爆弾を警戒するのだろうか。
 何だか、よく分からない。

 リサ「先生。まだ、発車まで時間あるよね?飲み物買ってきていい?」
 愛原「ああ、いいぞ」

 リサはホームに降りて行った。
 そして、戻ってきた時、リサは自分のジュースの他に、私の缶コーヒーも買ってきてくれたのだった。

 愛原「ありがとう」
 リサ「むふー」

 私がフードの上から頭を撫でてやると、固い突起物があった。
 どうやら、角を隠せていないらしい。

[同日13時24分 天候:晴 JR磐越東線732D列車先頭車内]

〔まもなく6番線から、磐越東線、三春、船引、小野新町方面、普通列車、いわき行きが発車致します。お見送りのお客様は、黄色い線までお下がりください〕

 発車の時間になり、ホームに発車メロディが鳴り響いた。
 メロディ自体は都内のJR駅でも聞ける、ごくごく汎用的なもの。
 しかし、ワンマン列車では駅の発車メロディを使わないと聞いたので、ワンマン運転だらけのこの路線で、駅メロは珍しいのではないだろうか?
 そして、発車メロディが鳴り終わると、1番後ろに乗務している車掌のものと思われる笛の音が聞こえてきた。
 これも、最近では珍しいような……?
 で、ドアチャイムが鳴ってドアが閉まる。
 すると、運転室からブーッという発車合図のブザーが鳴った。
 JR東日本では在来線の『電車』ではブザー式の合図は省略されているが、『気動車』では行われている。
 その理由は分からない。
 とにかく、運転室から運転士がハンドルを操作する音が聞こえてくると、気動車ならではのアイドリング音を響かせて、列車は定刻通りに発車した。

〔「お待たせ致しました。本日もJR東日本、『ゆうゆうあぶくまライン』磐越東線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この列車は13時24分発、三春、船引、小野新町方面、普通列車のいわき行きです。これから先、舞木、三春、要田、船引の順に、終点いわきまでの各駅に止まります。……」〕

 車掌が肉声放送を行う。
 本当にワンマン運転ではないのだ。
 だが、今日のこの列車の運用が、実はとても珍しいことであることが、車掌の口から明らかになった。

〔「……尚、後ろ2両は途中の小野新町で切り離しとなります。また、切り離し作業の為、本日、小野新町駅の発車時刻が変更となってございます。小野新町から先、お急ぎのお客様には大変ご迷惑をお掛け致します。申し訳ございません。これは午前中の爆弾事件による影響により、車両の運用に支障が出た為でございます。……」〕

 愛原「あー、ハイハイ……」

 何となく分かってきた。
 こういうローカル線では、車両の運用もギリギリの状態で行われてることが多い。
 要は爆弾事件によって、午前中の列車が運休となってしまったが、そのせいで小野新町始発の列車までもが運休となり、輸送力に支障が出るので、それの送り込みを兼ねた運用を今行っているというわけだ。
 切り離される後ろ2両は、小野新町始発の列車に使われるというわけである。
 ということは、今添乗している作業員は、それの作業を行う為に乗り込んでいるのではないかと思った。
 そしてまた、小野新町始発の列車に添乗して郡山に帰る予定なのだろう。
 こう考えれば、合点は行く。
 4両編成まるっと営業運転に使っているのは、午前中運休した分を兼ねているのだろう。
 実際、いつもより明らかに乗客が多いと、地元の乗客は言っていた。
 首都圏ではあまり聞かないのだが、地方に行けば、地方ならではの事情、そして運用があるのだと思った。
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“私立探偵 愛原学” 「忘れてた 頃に現る テロ組織 お笑いじゃないよ ガチのテロだよ」

2023-05-01 11:46:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月12日09時20分 天候:晴 福島県郡山市 JR東北新幹線205B列車17号車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、郡山です。磐越西線、磐梯熱海、会津若松方面。『ゆうゆうあぶくまライン』磐越東線、船引、小野新町方面はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。郡山の次は、福島に止まります〕

 私とリサを乗せた各駅停車の新幹線は、郡山市内を走行していた。
 どういうわけだか、郡山市内に入ってから、すぐに減速運転を始めた。
 これが仙台だと、カーブが多く、また、騒音対策の為に市内は徐行区間となっている。
 前の列車が詰まっているのだろうか?

〔「お客様にお知らせ致します。只今この列車、郡山市内を徐行運転しております。これは警察からの発表ですが、先ほど、郡山市内におきまして、爆弾テロの予告が入ったことによります」〕

 愛原「ん!?爆弾テロ!?」
 リサ「爆弾?」

〔「犯行声明では郡山駅より西の一体とのことです。この為、磐越西線は安全確認の為、運転を見合わせております。また、東北本線、東北新幹線、磐越東線につきましても、安全確認が取れるまで、運転を見合わせます。この列車も郡山駅で、運転を……」〕

 乗客「あれは何だ!?」

 乗客の1人が、進行方向左側の窓を指さした。
 それは西側になる。
 車窓から見ると、西側にある住宅街のどこかで、煙が上がっていた。
 そして遅れて、爆発音のようなもの。
 今だ!
 今、爆弾が爆発したのだ!
 そして、列車は郡山駅の新幹線ホームに滑り込んだ。

 愛原「一体、何が起きている!?」

〔こおりやま、郡山。ご乗車、ありがとうございました〕

 私は荷物を取って、リサと一緒に列車を飛び降りた。

〔「東北新幹線ご利用のお客様に、お知らせ致します。先ほど郡山市の西側一帯を爆破するという犯行声明がありました。その為、安全確認を行う為、現在運転を見合わせております」〕

 愛原「これはヤバいぞ!」
 リサ「駅から出ていいの!?」
 愛原「斉藤玲子の実家は、駅の西側だ!」
 リサ「ええっ!?」

 私達は急いで改札口を出ると、駅のタクシー乗り場に向かった。
 だが、JRが全部止まったからか、バス停もタクシー乗り場も長蛇の列であった。

 愛原「くそっ!これじゃ、現地に行けない!」

〔「こちらは、福島県警郡山警察署です。先ほど市内○×地区にて、大規模な爆弾テロ事件が発生しました。その為、○×地区及びその周辺一帯を封鎖しています。市民の皆様は、犯行声明の出ていない市内東部または市外へ避難してください。繰り返し、お伝えします。……」〕

 駅前の通りを、パトカーがそのように放送していた。

 愛原「何たるちゃあ……」
 リサ「先生、これ見て!」

 リサが自分のスマホを見せた。
 それはニュースサイトであったが……。

〔「汝、一切ノ望みヲ捨てヨ」〕

 カーキ色の軍服にガスマスクを着けた男達が映っていた。

〔「ヴェルトロの再興は近イ」〕

 軍服にガスマスクは、2005年に潰れた宗教テロ組織ヴェルトロのユニフォームである。
 多くは南欧人及び西欧人で構成されていたが、その中にはクルド人も含まれていると聞く。

〔「我らがヴェルトロを死ニ追いヤっタ、Tアビスへノ復讐でアル。ヴェルトロの復讐ハ、神ノ復讐」〕

 愛原「ヴェルトロか!すっかり忘れてた!」
 リサ「でも、Tアビスへの復讐で、この町を爆破って?!」
 愛原「そ、そうだな。この町が、何の関係があるっていうんだ?」

 Tアビスとは、Tウィルスの改造版である。
 それまで、元からの水生生物以外の生物は、例えゾンビ化しても、水中では酸素無くして生きられないのが弱点であった。
 そこで、それを克服する為に改造された生物兵器ウィルスである。
 感染した人間はウーズと呼ばれる、まるで水死体を更に化け物にしたような姿になり、生きている人間の血を啜る為に徘徊する。
 但し、稀にウィルス耐性のある者はスギャグデッドという別の化け物に変化し、こちらは血ではなく、肉を求める。
 ゾンビ同様、噛まれると感染する。

 愛原「とにかく、このままでは埒が明かない。善場主任に聞いてみよう」

 私は自分のスマホを取り出すと、それで善場主任に電話した。

 愛原「もしもし?愛原ですが、善場主任ですか?」
 善場「愛原所長、ご無事でしたか」
 愛原「私達は無事です。しかし、ヴェルトロの犯行声明通り、爆弾が爆破してしまったようです」
 善場「はい。こちらも、その取り締まりを行っています」
 愛原「東京でも?」
 善場「高橋助手が暴走運転をさせたというクルド人ですが、ヴェルトロの関係者である疑いが出てきましたので、BSAAに引き渡されることになりました」
 愛原「マジですか!?」
 善場「警察の取り調べには知らぬ存ぜぬを貫いていたようですが、車の中からヴェルトロのエンブレムが見つかりましたので」
 愛原「物的証拠じゃないですか!」
 善場「BSAAの取り調べにあっては、黙秘権は存在しませんので」
 愛原「う、うん。射殺するかもしれない人達ですからね」
 善場「高橋助手も、仲間であるかもしれないので、再逮捕しますので」
 愛原「ええっ!?あいつが!?」
 善場「何しろ、ピンポイントでヴェルトロの残党の疑いのあるクルド人の車に乗り込んだわけですからね」
 愛原「いやー、でも、あいつがそんな……」
 善場「しばらくは留置場及び拘置所からは出られないかもしれませんね」

 刑務所とは言っていない。

 愛原「ヴェルトロの残党を捕まえた功績で、無罪放免というのは……」
 善場「司法取引制度は、我が国にはございません」

 尚、善場主任と話している間、また爆弾が爆発するような音は聞こえなかった。

 愛原「これからどうしましょう?斉藤玲子の実家が、正に事件現場の○×地区なのですが……」
 善場「事件現場は、今日1日は規制されるでしょうから、そこでの調査は諦めた方がいいでしょう。それより、私の祖父に話を聞いてみませんか?」
 愛原「善場主任の祖父?……あっ!」
 善場「50年前、磐越東線の車内で急病を起こしたところ、乗り合わせていた上野医師と思われる医師によって救命措置を受けました。もしかしたら、まだ覚えているかもしれません。私から話を通しておきますので、聞きに行ってみてください」
 愛原「わ、分かりました」

 私達は電話を切ると、混乱が構内まで波及してきた駅の中に戻った。
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