報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「冬休み前の打ち合わせ」

2023-05-20 20:44:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月23日10時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原「いよいよ、今日でリサ達の2学期の終業式です」
 善場「今日、沖縄から我那覇絵恋さん達が上京してくるのですね?」
 愛原「その予定です。LCCで来るらしく、到着は成田です」
 善場「承知しました」
 愛原「リサの話では、絵恋さんに付いてくるのは、『四天王兼副総督』です」
 善場「なんとも陳腐な役職ですね。で、どんなコですか?」
 愛原「名前が斉藤早苗」
 善場「斉藤……?」
 愛原「はい。写真だと、このコですね」

 私はスマホの画面を善場主任に見せた。
 これは我那覇絵恋さんが撮影したものをリサのスマホに転送し、そこから更に私のスマホに転送されたものである。

 善場「うーん……」

 見た目はリサに雰囲気が似ているコだった。
 だからこそ、絵恋さんも仲良くできたのかもしれない。

 善場「斉藤早苗……」
 愛原「どうかしましたか?」
 善場「何か、引っ掛かる名前ですね」
 愛原「ですよね。斉藤という苗字はけして珍しくはないですが、絵恋さんの旧姓や斉藤玲子の……」
 善場「あ、いえ、そこではないです」
 愛原「えっ?」
 善場「何か、キーマンとしての人物の名前に、似たような人物がいたような気がしたのですよ」
 愛原「そうなんですか。リサは知りませんかね?」

 私はリサにLINEを送ってみたが、終業式の最中なのか、すぐには返信は来なかった。

 善場「それで、これから迎えに行かれるのですね?」
 愛原「はい。向こうも終業式が終わってから、那覇空港に向かうようですが、実際の所は向こうを夕方に離陸する飛行機のようです」
 善場「ということは、成田に到着するのは夜ですね。そこからマンションに向かうのですか?」
 愛原「いえ。さすがに夜も遅くなるので、成田空港近くのビジネスホテルに1泊してから戻ろうと思います。幸い東横インのカードは持っているので……」
 善場「ああ、そうですか……」

 善場主任は半ば呆れた様子で、お茶を啜った。
 もう少し高級なホテルに泊まれんのかい、と言いたげな顔だ。

 善場「んんっ?!」
 愛原「えっ!?」
 善場「ああーっ!」

 その時、善場主任がいつものポーカーフェイスとは違う表情を見せてくれた。
 年に1回あるかないかだ。

 愛原「ど、どうしました!?お茶に何か異物でも!?」
 高橋「お、俺、何もしてないっスよ!?」
 善場「斉藤早苗って、あれです!白井伝三郎の同級生で、“トイレの花子さん”だったコ!」
 愛原「ああっ!」
 高橋「あいつか!」

 私達の脳裏に、夏用の半袖セーラー服を着て、白い仮面を着けた“トイレの花子さん”が浮かんだ。
 正体は白井伝三郎の高校時代の同級生。
 イジメを苦に東京中央学園の旧校舎女子トイレで首吊り自殺。
 それ以来、白井が旧校舎の壁に仕掛けた特異菌によって、幻覚症状に陥った学校関係者達の前に“幽霊”として現れるようになる。
 遺体そのものは火葬されて都内の墓地に埋葬されていたが、その骨壺を白井が強奪。
 自身が開発した新薬と、公一伯父さんが開発した化学肥料を合成し、骨からでも遺体を蘇生させる妙薬を開発した。
 どういう原理なのかは不明だが、白井はどうも『転生の儀』を行ったらしい。
 即ち、白井は斉藤早苗の体を乗っ取ろうとしたわけである。
 方法は違うが、似たようなことをしようとした人物が過去にもいた(直近では2011年のアレクシア・ウェスカー)から、アンブレラ界隈では珍しいことではないのかもしれない。
 噂では、アレクシア・ウェスカーの『転生の儀』は成功したとされている。
 そして、日本では白井の『転生の儀』が成功しているとされている。
 その白井が乗っ取っているはずの斉藤早苗が、ここに来ようとしている……!

 善場「愛原所長!私も同行します!どこのホテルですか!?」
 愛原「と、東横インです。成田空港の」
 善場「私も予約します!」
 愛原「で、ですが、もう部屋は満室になっていますよ?」
 善場「な、何ですって!?因みに、どの部屋に泊まるかは……」
 愛原「いや、分かりませんよ。特に、指名買いをしているわけではありませんので」
 善場「分かりました」

 善場主任は自分のスマホを取り出し、どこかに電話していた。
 ま、まさか、ここで何がしかの国家権力を発動するつもりだろうか?
 善場主任は、しばらく電話でどこかと話をしていた。
 それから、ようやっと電話を切る。

 善場「愛原所長」
 愛原「何ですか?」
 善場「成田空港への足は、確保されていますか?」
 愛原「いえ、まだです。予定としては都営新宿線で本八幡まで行き、そこから京成線で向かおうと思っていますが……」
 善場「分かりました。それでは、往路のみ私共で車を出しましょう。それで、一緒に向かいましょう」
 愛原「いいんですか?」
 善場「はい。ただ、私がエージェントであることが向こうにバレては大変です。同じホテルには泊まりますが、空港到着後は別行動としましょう。それでよろしいですか?」
 愛原「あ、はい。分かりました。……1つ、質問よろしいですか?」
 善場「何でしょうか?」
 愛原「『魔王軍沖縄支部』が上京したら、ウィルス検査をするとリサには伝えてあるんですよ。そして、そのことは既にリサから向こうにも伝わっているはずです。斉藤早苗は、それを100も承知で来るということになりますが、それについてはどうお考えですか?」
 善場「要は自然な形で会えば良いのです。私が空港や同じホテルにいることは不自然でしょうが、検査場でもある浜町のクリニックやこの事務所にいること自体は不自然ではないでしょう。ウィルス検査を指示したのは私ですし、私は愛原所長のクライアントです」
 愛原「なるほど」
 善場「今しがたBSAAにも連絡しました。もしも斉藤早苗がその姿をした白井伝三郎であるなら、それを確認次第確保します」
 愛原「そ、それで、私達の対応としては?」
 善場「何も知らずに対応してください。愛原所長方は斉藤早苗を、そのまま斉藤早苗本人だと思って接してください。けして、白井伝三郎に正体が知られているとバレてはいけません」
 愛原「わ、分かりました。というわけだ。分かったな、高橋?」
 高橋「うス……」

 そのことはリサにも伝えておかなくてはならないだろうが、下手にLINEしてその履歴を斉藤早苗が見たりしたらマズいので、リサが帰宅時に口頭で伝えることにした。
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“私立探偵 愛原学” 「年末に向けての大仕事」 2

2023-05-20 14:44:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月13日11時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 善場「愛原所長、お疲れ様です!」

 善場主任がやってきた。

 善場「例の物を頂きに参りました」
 愛原「はい。これです」

 私は日記を善場主任に渡した。

 善場「ありがとうございます」
 愛原「まさか、都合良くこんなものが出てくるとは……」
 善場「どこかに記録があるのではないかとは思っていたのですよ」

 善場主任は日記の中身を確認した。

 善場「ふーむ……。『医療ミスをしたせいで、暴力団に追われることとなった』旨は書かれていますが、新薬のことについては殆ど書かれていませんね」
 愛原「墓場まで持って行くつもりだったのでしょうか?」
 善場「そうかもしれません。もしいずれは告白するつもりであったのなら、手持ちの薬を隠すことはないでしょうから」
 愛原「確かに……。あ、そうだ。上野医師達が郡山に立ち寄った理由というのが、本当に薬を隠すだけだったのか、書いてありますかね?」
 善場「ちょっと見て見ましょう」

 上野医師の日記の文面は、平泉での宿泊を境に変わっている。
 よほど斉藤玲子のことが気に入ったのか、彼女と出会う前まではストイックな内容になっていたのに対し、平泉以降は彼女のことが出てこない日は無い。

 善場「……あー、ありました。一応、上野医師は斉藤玲子を家に帰すつもりだったようですね」

 ところが斉藤玲子に対し、ネグレクト状態の継母は、玲子の父親とのセックスに夢中で、ろくに対応しなかったらしい。
 むしろ、『勝手に家出したんだから、どうぞ連れて行って!』というトー横キッズもびっくりの毒親ぶりである。
 ……これでも、連れている男の方が警察にタイーホっておかしくね?

 善場「『泣きじゃくる玲子に対し、掛ける言葉が見つからない。小康状態だった喘息の発作がひどくなり、新たに薬を投与して鎮静化させる。尚、そこで私に復讐心が芽生えた。持ち運ぶのに不便で不要な薬を1つ、ここに埋めて行ってやろうかと思う。ちょうど今、まぐ合いの声を出している寝室と思しき部屋の真下に……』」
 愛原「あ、これだ!これですよ!」
 善場「なかなか上手い表現ですね。これだと、知らない人が読んだら、喘息の薬か何かを埋めただけのように見えます。まさか、バイオテロ組織が爆破してまで隠したい危険な薬だとは思いませんよ」
 愛原「誰か、ヴェルトロのメンバーが、この日記を読んだのでしょうか?」
 善場「この日記は桧枝岐村の小中学校の図書室にあったのですよね?」
 愛原「はい。学校関係者の話によりますと、しばらくは校長室に保管されていたようです。いずれは上野医師が取りに来ると思っていたそうで。だけど取りに来なかったので、本を管理するなら図書室だと思ったそうなんですが、これは児童・生徒に読ませるものではないので、蔵書室に保管されっぱなしだったようです。一応、預かり物ということなので、どこか書棚か何かに保管されてはいたようですが……」

 おかげで数十年経っても、比較的状態は良かったのだ。

 善場「一部の学校関係者は、この日記を読んだでしょう。しかし、ヴェルトロがこの日記の在り処を突き止めたとは思えません。もっと、別の手段を使って、情報を得たのでしょう。もしもこの日記のことを知ったのなら、日記ごと持って行くはずでしょうから」
 愛原「確かに……」
 善場「とにかく、これはこちらでお預かりします。報酬は後ほどお支払いさせて頂きます」
 愛原「恐れ入ります」
 善場「話は変わりますが、今度の冬休み、我那覇絵恋さんが上京するという話は本当なのですね?」
 愛原「それは本当のようです」
 善場「それ『は』?それ『は』と言いますと?」
 愛原「実は沖縄中央学園にも、『魔王軍』が結成されているんですが、その『四天王』も一緒に上京するらしいんですよ」
 善場「それはさぞかし賑やかですね。全員まとめて、何がしかのウィルスに感染していないか、検査したいものです」
 愛原「リサの影響を多大に受けているわけですからね。向こうでも廃止されたブルマを勝手に復活させて穿いているようですし」
 善場「は?」
 愛原「あ、いえ、何でもないです!詳細が分かり次第、またご連絡させて頂きます」
 善場「よろしくお願いします。他に変わったこととかはありませんか?」
 愛原「変わったことですか?うーん……あ、そうだ。主任は、『鬼ころし』という酒は御存知ですか?」
 善場「『鬼ころし』?よくスーパーやコンビニなどで売られている、パック入りの日本酒ですよね?それがどうかしましたか?」
 愛原「リサのヤツ、何だかそれに関心を示してまして……」
 善場「また酔ったりしたら、今度はどんな変化に至るか分かりませんよ?表向きは未成年だからということで禁止していますが、安全が確認できるまで、飲酒は禁止したいくらいです」
 愛原「ですよね?善場主任は、かなり飲まれるようですが……」
 善場「私は、既に人間に戻れていますので」

 でも、時々人間離れした身体能力を見せたりすることがある。

 善場「思春期の少年少女が大人に憧れて、お酒やタバコに関心を示すのと同じことでしょう」
 愛原「それが、リサが興味を惹かれているのは、その『鬼ころし』だけなんです。それ以外の酒やタバコには、見向きもしません」
 善場「どうして興味があるのか、言ってましたか?」
 愛原「何だか、『これを飲むと人間に戻れる気がする』とか言ってますが……」
 善場「まさか……。前回の件からしても、その逆の現象が起きると思われますが」
 愛原「いや、私も同意見なんですけどね。でも、妙なんですよね。ボジョレー・ヌーヴォーとかシャンパンとか、もっとおしゃれな酒は他にもあって、そういうのに関心を惹かれるのなら、まだ分かるんですよ。しかし、何であんな安酒なんか……」
 善場「鬼のイラストが描かれてるからでは?」
 愛原「まあ、そうかもしれませんね」
 善場「一応、『鬼ころし』の成分を確認しておきましょう。実は何か、BOWに影響するようなものが入っているのかもしれません」
 愛原「ありがとうございます」
 善場「よろしいですか?結果が分かるまで、リサには一切飲ませてはいけません」
 愛原「重々承知しております」
 善場「今度の変化は、あんなものでは済まないかもしれませんからね」
 愛原「はい、さようで……」

[同日17時00分 天候:晴 同事務所]

 善場主任との話が終わり、夕方になってリサが帰ってきた。
 そろそろコートの出番なくらいに寒くなってきたが、リサは相変わらず冬服のブレザーを着ているだけだった。
 一応、ブレザーの下に学校指定のグレーのニットのベストを着ているが……。

 愛原「お帰り、リサ。善場主任が、冬休みに上京してくる沖縄の『魔王軍』について教えろって言ってきたよ」
 リサ「ああ、それなんだけどね、大勢で先生の家に押し掛けるのは迷惑だってんで、人数を絞ることにしたの」
 愛原「え、そうなの?」
 リサ「本当はエレンだけ来ればいいんだろうけど、他にも『四天王』代表で1人来ることにした」
 愛原「そうなんだ」

 尚、我那覇絵恋さんは『四天王』ではなく、更にそれを管理する『総督』とのこと。

 愛原「何てコ?」
 リサ「まだ選定中。決まったら教えるね」
 愛原「ああ」

 この時、私はもう少し、『沖縄支部四天王』について、関心を持っておけば良かったのかもしれない。
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