報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「上野医師の遺品」

2023-05-10 20:24:51 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月13日15時37分 福島県郡山市 磐越東線737D列車先頭車内→JR郡山駅]

〔ピンポーン♪ まもなく終点、郡山、郡山です。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、運賃、整理券は駅係員にお渡しください。郡山から東北新幹線上り、宇都宮、東京方面。下り、仙台、盛岡方面。東北本線上り、白河、黒磯方面。下り、二本松、福島方面。磐越西線、磐梯熱海、会津若松方面。水郡線『奥久慈清流ライン』、磐城石川、常陸大子方面はお乗り換えです。今日もJR東日本、磐越東線『ゆうゆうあぶくまライン』をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 磐越東線はいわき側よりも、郡山側の方が利用客が多いようである。
 実際、列車本数も郡山~小野新町間の方が圧倒的に多い。
 郡山駅に近づく頃には座席は全て埋まり、ドア付近などに乗客が立つくらいには賑わっていた。
 そして、運転席からATSの警報が聞こえてくる。
 ゆっくりと郡山駅の6番線ホームに進入した。

 愛原「着いたか」

 いわき駅から2時間ほどの鉄旅。
 ダイヤ通りではあるのだが、高速バスと比べてどちらが早いのだろう?と首を傾げてしまう。
 とにかく列車を降りると、私達はまず改札口に向かった。
 いわき駅で購入した乗車券であれば、自動改札機を通過できる。

 リサ「新幹線じゃなくて、キップで乗るの久しぶり~」
 愛原「そうだな。思わず、Suicaで通過しそうになる」

 首都圏よりもまだ紙のキップの使用率が高い為か、ICカード専用の改札機は見受けられない。
 改札口を出ると、西口に向かい、そこのタクシー乗り場に向かった。
 爆弾テロがあった際、鉄道や路線バスのダイヤが大きく乱れた為、タクシー乗り場には長蛇の列ができていた。
 しかし今は、驚くほど静かであり、ガランとしていたタクシー待機場にも多くのタクシーが待機していた。
 だから、すぐに私達はタクシーに乗車できた。

 愛原「郡山警察署までお願いします」
 運転手「はい、郡山警察署ですね」

 私は一体、郡山警察署で何を渡されるのだろう?
 アンプルということだが……。

[同日16時00分 天候:晴 同市内字城清水 福島県警郡山警察署]

 郡山警察署は郡山駅の南、在来線の安積永盛駅との間ぐらいの場所にあった。
 その県道沿いにある。
 今は県道になっているが、かつては国道4号線であった。
 格下げの理由は、バイパス開通に伴う旧道化である。
 但し、峠のバイパスと違い、例え旧道であっても、市街地を通ることもあり、その賑わいはけして失われていない。

 運転手「着きましたよ」

 タクシーは警察署の敷地内に入り、正面エントランスまで乗り入れてくれた。

 愛原「お世話様です。領収書お願いします」
 運転手「はい」

 料金を払っている間、先にリサが降りた。

 リサ「ピーポ君、いないね」
 愛原「いや、それ警視庁!」

 料金を払って領収書を受け取った私は、早速リサを連れて警察署に入った。

[同日17時00分 天候:晴 同警察署→JR郡山駅]

 警察署で渡されたのは、ガワはジュラルミンのケース。
 大きさはそんなでもない。
 家庭用の救急箱くらいの大きさであった。
 担当の警察官と一緒に、中身を確認した。
 ジュラルミンケースの中には、保冷バッグが入っている。
 それにその中には、ジップロックのビニール袋が三重にもなっており、その中にようやくアンプルがあった。
 50年も前の物で、それはガラス製であった。
 だが、割れずに今でも残っている。
 そして、中身は紫色の液体。

 警察官「【善場が本当に所属している政府機関】の依頼により、代理人の愛原学さんに引き渡しを致します。異論ありませんね?」
 愛原「はい」
 警察官「こちらの書類にサインと捺印をお願いします」
 愛原「はい」

 書類には本当に細かい内容の文がつらつらと書き綴られていた。
 『輸送中の事故にあっては、警察は一切責任を取らない』という文章も見受けられた。
 そして、私が本当に政府機関の民間委託代理人であることを証明するという書類もある。
 善場主任からは特にどうしろとは言われていないが、私は自分の運転免許証で何とかなった。
 因みにリサは、マイナンバーカード。
 で、色々と書類の手続きやら何やらやって……。

 警察官「それでは、郡山駅までお送りします」
 愛原「あ、はい。ありがとうございます」

 何か上から指示されることをやるだけなので、流れ作業という気がする。
 多分、もう今は流れ作業的な感じになっているのだろう。
 再び警察署の正面入口に出ると、シルバーのミニバンが止まっていた。
 覆面パトカーなのかどうかは分からない。
 スーツ姿の私服警察官が2人、運転席と助手席に乗り込み、私とリサはその後ろに乗った。
 さすがのリサも、口数が無くなっている。

 警察官「こちら○×です。只今、PS(警察署)を出ました」

 助手席の警察官が、携帯電話でどこかへと連絡する。
 車は旧国道4号線に出た。
 郡山駅の方に向かう下り線である。
 しばらくすると、私のスマホにメール着信があった。
 善場主任からで、これから私達が行うことに対する指示である。
 郡山駅から新幹線に乗って帰京するのは想定内だが、乗る列車、そして乗車車両についても決められていた。
 今の所はそれだけ。
 東京駅到着後については、そのタイミングでまたメールするということだった。

 警察官「到着です。お疲れさまでした」
 愛原「あ、ありがとうございます」

 車は郡山駅西口に到着した。
 警察車両の特権からか、堂々と交番の前に止まった。
 交番の警察官も目を丸くして中から出てきたが、助手席の警察官が自分の警察手帳を見せると、すぐに納得して戻って行った。

 警察官「それではお気をつけて」
 愛原「ど、どうもお世話様でした」

 私は自分の荷物の他、ジュラルミンのケースを肩に掛けると、リサと一緒に駅の中に入った。

 リサ「新幹線に乗るの?」
 愛原「ああ。この時間帯に、郡山始発の“なすの”があるらしい。これに乗れって」
 リサ「ふーん……」
 愛原「まずはキップを買わないとな」
 リサ「その後で駅弁だね」
 愛原「いゃ、オマエなぁ……」

 善場主任の指示には飲食について特には無かったが、私は緊張感で、とても食欲は無かった。
 とにかく今、私はヤバい物を運んでいるわけだから……。
 もし落としてアンプルを割ろうものなら、バイオハザードが発生するのだ。
 この郡山市が、第2の霧生市になってしまうかもしれない。
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“私立探偵 愛原学” 「再び郡山市へ」 2

2023-05-10 14:48:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月13日14時15分 天候:晴 福島県田村郡小野町 JR小野新町駅]

〔ピンポーン♪ まもなく小野新町、小野新町です。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、運賃、整理券は駅係員にお渡しください。定期券は、駅係員にお見せください〕

 私とリサを乗せた列車は、磐越東線で最も大きい中間駅、小野新町駅に接近した。
 子会社に業務委託とはいえ、駅員も常駐している駅だ。
 みどりの窓口もある。
 その為、車両のドアもホーム側の全てが扱われる。
 つまり、無人駅では締め切り扱いの後ろの車両のドアも開くということだ。
 駅員が常駐しているので、不正乗降の心配が無いからだ。
 その為、乗降客数もそれなりにあるようである。

 

 単線の磐越東線において、上下列車が行き違いできる構造を持つ。
 上下線の線路に挟まれる形の構造になっているホーム。
 その向かい側には、いわき行きの列車が停車した。
 実はあれ、往路で私達が乗った列車である。
 ここで行き違うわけだ。

〔「小野新町です。この駅で20分ほど停車致します。発車は、14時36分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 ワンマン列車なので、肉声放送は運転士が行う。
 運転士が運転室のマイクを取って、そう放送した。
 小野新町駅の構造は、何となく小川郷駅と似ている。
 ホームは島式、そこと改札口を繋ぐルートは、構内踏切でも跨線橋でもなく、地下道という所が共通している。
 違うのは無人駅か否かということか。
 20分停車というのは、何もダイヤ乱れによる抑止ではなく、元からそういうダイヤである。
 どうしてこのようなダイヤになっているのかは、分からない。
 別に通過列車があったり、対向列車があったりするわけでもないし、列車番号が変わるわけでもない。
 また、乗務員交替が行われるわけでもないもよう。
 運転間隔の調整だろうか。
 小野新町駅のホーム有効長は長く、6両編成の列車が余裕で止まれる長さ。
 そこにたった2両編成が止まるのだから、まあ、ホームが余ってしまっている。
 ホームには小屋のような待合所もあるが、基本的に客は地下道入口近くのベンチに座って列車を待つようである。
 そこに自販機も1つある。

 愛原「リサ、ちょっと電話してくるから待っててくれ」
 リサ「うん」

 私はスマホを片手にホームに降りた。
 列車から少し離れたのは、気動車のアイドリング音が響いていたからである。
 実は先ほど、善場主任からメールがあり、都合の良い時に電話をするようにとあったからである。

 愛原「もしもし。愛原です」
 善場「愛原所長、お疲れ様です。現在地はどこになりますか?」
 愛原「磐越東線の小野新町駅です。ちょっと長い停車時間になってしまって、20分停車ということで、電話させて頂きました」
 善場「まあ、地方ローカル線にはたまにある運用ですね。それより、郡山駅に着いてからのことなんですが……」
 愛原「はい」
 善場「郡山警察署に向かってください。やはり警察が回収したそうで、今は警察署に保管されているとのことです」
 愛原「警察署ですか。分かりました」
 善場「タクシー代は、後で請求して頂ければ結構です」
 愛原「分かりました」
 善場「回収してからのことについては、後ほど連絡させて頂きます」
 愛原「分かりました」

 一体、何を回収するのか、私は何も聞いていない。

 愛原「あのー、一体何を回収するのか、教えて頂くことは……」
 善場「私共も、詳しいことは分からないのです。ただ、薬物反応が出た上、アンプルからは上野医師の指紋が出てきたそうです」
 愛原「えっ、アンプル?」
 善場「はい。これは私の予想ですが、平泉を出た上野医師達が岩手県沿岸部ではなく、福島県に向かったのは、このアンプルを隠す為だったのではないでしょうか。磐越東線に乗ったのも、郡山市に立ち寄った為。そしてそれは、斉藤玲子の実家の敷地内にアンプルを隠す為だったのではないでしょうか」
 愛原「一体、どうしてそれを?」
 善場「斉藤玲子の実家に立ち寄ったのは、彼女を家に帰す為も去ることながら、それにかこつけて、持ち歩いていると不都合なアンプルを隠したかったのかもしれません」

 とんでもない医者だな。
 でも、そのアンプルとやらは……。
 そこで私は、奥州虹元組の組長の話を思い出した。
 上野医師に復讐を誓うヤクザの男、牛窪勝五郎は、アニキを上野医師に化け物にされたから恨んでいたと。
 一体、化け物になった新井というヤクザはどうなったのだろう?

 愛原「中間報告をしましょうか?」
 善場「機密情報の漏洩になる恐れがあるので、それは結構です」
 愛原「そ、そうですか」
 善場「翌日、報告書を纏めて頂いた上で、口頭でも報告を頂ければ結構です」
 愛原「分かりました」

 電話を切って車内に戻ると、リサが……。

 リサ「先生。わたしもジュース買って来ていい?」

 と、聞いてきた。
 どうやら、ホームの自販機を目ざとく見つけたらしい。

 愛原「いいよ。但し、現金しか使えないよ?」

 この辺りはSuicaの適用範囲外なので。

 リサ「分かった」

 リサは列車を降りると、後ろの方にある自動販売機に向かった。
 リサの単独行動は登下校並びに学校行事に準ずるもの以外は認められていないが、他でもどこまでが許容範囲なのか分からない所がある。
 この場合も列車から降りたらアウトなのか、それとも改札口を出たらアウトなのか、それともフロア移動するとアウトなのか今でも分からない。
 今回は特にそれでアプリが警報を鳴らすことはなかったので、許容範囲なのだろう。
 グーグルマップで見れば、確かに駅構内にいればOKのように見えなくもない(グーグルマップだと、本人が列車内にいるのか、ホームにいるのか不明な為。駅構内にいることは分かる)。
 基準が果たしてそれなのか、やっぱり不明なのである。

 リサ「ただいま。この駅は売店無いみたいだね」
 愛原「お帰り。そうみたいだな」

 どうやらリサのヤツ、ホームの自販機だけでなく、改札口辺りまで行ってみたようである。
 いくら駅員が常駐しているとはいえ、さすがにキヨスクは無いようだ。
 リサにとっては飲み物は確保できても、食べ物は確保できないジレンマがあるか。
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