報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「イリーナ組、成田空港へ」

2019-11-26 19:46:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日09:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 オーナー:「そうですか。本日御到着ですか」
 稲生:「そうなんです。エレーナは?」
 オーナー:「エレーナは1度アルカディアにてポーリン先生と合流した後、成田空港へ向かうそうです」
 稲生:「そうですか」
 オーナー:「そっちのレストランのキャサリンも、今日は店を他の者に任せて既に出発しましたしね」
 稲生:「さすがですね。飛行機は10時45分くらいに着くのに」

 稲生達は何で行くのかというと……。

 マリア:「勇太、タクシーが来たわ」

 成田空港までの定額タクシーである。

 稲生:「あれだって結構贅沢な交通手段だと思うんですよ。それでもまだ控え目な部類なんですって」
 オーナー:「ハイヤーよりは安いですし、ややもすれば“成田エクスプレス”のグリーン車よりも安いかもしれませんね」
 稲生:「確かに……」
 マリア:「あれは勇太の家からルーシー達が空港へ向かった時の……」
 稲生:「ええ。同じサービスを使わせてもらいました。もっとも、ルーシー達は羽田空港へ向かったわけですが、僕達は成田空港へ向かうわけです」
 マリア:「ほら、師匠。早く乗りましょう」
 イリーナ:「分かってるよ」

 イリーナはローブを羽織ると、紫色のマスクをした。
 雰囲気的にはエキゾチックなスタイルの、占いの館にいそうな占い師のようである。
 大魔道師と魔道士はリアシートに座り、見習魔道士は助手席に座った。

 稲生:「それじゃお願いします」
 運転手:「かしこまりました。それでは成田空港の第二ターミナルでよろしかったですね?」
 稲生:「そうです」
 運転手:「かしこまりました」

 タクシーが走り出した。
 メーターは作動せず、その代わり種別表示機には『定額』という表示がされている。
 また、稲生が座る助手席の後ろにはリアシートに向かってモニターが設置されている。
 これで広告やらニュースが流れるのだが、奇しくもそこにローマ教皇が来日する旨のニュースが流れていた。

 マリア:「師匠、羽田空港は厳戒態勢のようです」
 イリーナ:「もちろん想定済みよ。『狩られる側の魔女』としての私達は、それよりは警戒の甘い成田空港ってわけ」
 マリア:「まさか教会の連中も、教皇来日と同じ日に『魔女の大師匠』が来日するとは思ってもみないでしょう」
 イリーナ:「多分、隠密に優れた連中はもう掴んでるだろうね」
 マリア:「それでは……」
 イリーナ:「大丈夫。教会の連中も、まさか教皇が来日中に大騒ぎできるほどの『魔女狩り』はできないだろうから、せいぜい私達が教皇のスケジュールを妨害しないかどうか監視するに留めるでしょうね」

 それでも教会の連中がそれ以上のことをしてきたら、今度は魔女側がニュースになるほどの大騒ぎを起こすつもりでいる。
 ややもすれば教皇のスケジュールに影響が出るくらいに。
 それはさすがに教会側も本位ではないはずだから、ダンテ一門を刺激しない行動に出るしか選択は無いはずなのだ。

[同日10:00.天候:雨 千葉県成田市 成田国際空港第2ターミナル]

 都内からタクシーで約1時間ほど掛かった。
 雨が降っていたことも何かしらの影響はあったと思うのだが、稲生的には特に遅れたとは思っていない。
 それでも到着した時には、もう既に多くの魔道士や魔道師達が到着していた。

 アナスタシア:「遅いわよ、あなた達」

 アナスタシアが腕組みをして稲生達に言った。

 稲生:「す、すいません!」

 鋭く咎めるアナスタシアの物言いに、稲生は思わず謝ったが、イリーナは目を細めたまま眉間に皺を寄せて反論した。

 イリーナ:「飛行機が到着するまで、あと40分以上もあるでしょ。ただでさえ今日は教皇も来日することで厳戒態勢なのに、その敵である私達が目立ってどうするのよ」
 アナスタシア:「ふん……」
 エレーナ:「おー、幹事さん、やっと到着したか」
 稲生:「幹事さん……。そうか、僕、幹事なんだぁ……」

 稲生は今更ながらそれに気づいた。

 稲生:「あそこにポーリン先生がいるね。リリィは?」
 エレーナ:「見習は『ダンテ先生を囲む会』に参加できねーよ。本来の参加者は1期生のみ。私ら2期生や3期生は、お供として付いて行くだけのことだぜ」
 稲生:「僕、見習なんだけど?」
 エレーナ:「稲生氏は幹事だから許されてるんだぜ。それに、どうせマスター昇格まであと一歩ってところだろ?それもあるぜ」
 稲生:「なるほど……」
 アナスタシア:「稲生君、あなたのアテンドに掛かってるんだからね?失敗したら除名モノよ」
 稲生:「じょ、除名!?」
 イリーナ:「アタシの弟子に余計なプレッシャー掛けないでくれる?」
 エレーナ:「そうっスよ。そんなこと言ったら、イリーナ先生なんか何回も除名モノじゃないっスか」
 イリーナ:「そうそう。って、コラ!」
 エレーナ:「ひゃはは!サーセン!」
 イリーナ:「マリアも笑いを堪えない!」
 マリア:「し、失礼……」
 イリーナ:「電車で1度都内に向かうみたいだけど、大丈夫なの?」
 稲生:「駅から出るわけじゃありませんから。ローマ教皇が来日する前に、僕達は東京を離れる予定です。そして教皇が西へ向かうのに対し、僕達は北へ向かうわけです。そうすることで、キリスト教会の目から逸らさせるのが狙いです」
 イリーナ:「聞いた?素晴らしい作戦でしょう」
 アナスタシア:「上手く行くといいけどね」
 稲生:「問題なのは“成田エクスプレス”もその先の電車も、車内販売無いってことなんですけど、本当にいいんですか?」
 イリーナ:「構わないわよ。ダンテ先生はファーストクラスで食事やら飲みやらは機内で済ませておられるわけだし、都内を出て現地に着くまでは静かに向かう必要があるとお考えだから」
 稲生:「そうですか。もちろん、乗り換え先の電車に乗る時に、団体でお弁当とかは予約してありますので」
 イリーナ:「さすが勇太君ね。完璧だわ」
 エレーナ:「あとは、ルーシーの緊張で足がガクブル状態なのをこの目に収めてやるだけだぜ」
 マリア:「さすがにもう慣れたんじゃない?」
 エレーナ:「さあ、どうだか」

 エレーナは肩を竦めた。
 ダンテ達を乗せた飛行機が到着するまで、あと数十分。
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“魔女エレーナの日常” 「ワンスターホテルの夜」

2019-11-23 22:58:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月20日00:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 ホテルのフロントに座るエレーナ。
 宿泊客が来ると席を立って接客する。

 宿泊客:「はぁー、やっと着いた……」
 エレーナ:「いらっしゃいませ。本日は御到着、真にお疲れさまでございます」

 稲生達に接する時とはまるで別人のように、恭しく宿泊客を出迎える。

 宿泊客:「おや、外人さんが……」
 エレーナ:「はい。でもこの通り、日本語は分かりますので」
 宿泊客:「なるほど。今日から2泊する予約を入れていた者です」
 エレーナ:「かしこまりました。それではこちらにご記入を……」

 その時、エレベーターのドアが開いた。
 そこから降りて来たのはリリアンヌ。
 何かエレーナに用があって来たのは分かるが、エレーナはそれを目で制した。
 今は接客中だから、少し待てと。

 エレーナ:「はい。ありがとうございます。それでは宿泊料金は前金で頂いております。お支払い方法は如何なさいますか?」
 宿泊客:「カードで」
 エレーナ:「かしこまりました。それでは、こちらに暗証番号を……」

 リリアンヌはスススッとロビーのソファに移動した。
 今はTシャツにショートパンツと、とても見習魔女には見えない恰好をしている。

 エレーナ:「ありがとうございます。それではお部屋の方が、3階の301号室をお取りしてございます。あちらのエレベーターをご利用下さいませ」
 宿泊客:「ありがとう」
 エレーナ:「ごゆっくりお過ごし下さいませ」

 宿泊客がエレベーターの方を振り向く際、ロビーのソファを見ることになる。
 そこに幽霊みたいに座っているリリアンヌを見てびっくりするのだった。

 宿泊客:「! いつの間に……!?」
 リリアンヌ:「……あ、はい。さっきからいましたけど……」

 エレーナは素で日本語を話すが、リリアンヌは話せないので、自動通訳魔法具を使うことになる。

 宿泊客:「あ、いや、これは失礼……」

 そう言ってエレベーターに乗っていった。

 エレーナ:「リリィ、ダメじゃねーか。お客をびっくりさせちゃ」
 リリアンヌ:「フヒッ!ご、ごめんなさい……!」
 エレーナ:「で、何の用だぜ?」
 リリアンヌ:「魔界から帰って来たんですが、先輩の部屋の鍵が開いていなかったので……」
 エレーナ:「ああ、そういや鍵掛けたままだったな。ほら、鍵」
 リリアンヌ:「あ、ありがとうございます。お先に休ませて頂きます……」
 エレーナ:「ちょっと待て」
 リリアンヌ:「フヒッ!?な、なな、何でしょう?」
 エレーナ:「オマエ、まだ学校あんだろ?こんなド平日に帰って来てどうするんだ?」

 ダンテ一門の最近作られた門規の中に、『高等教育以上の教育を受けた者以外は中等教育を修了させるものとする。但し、この門規が設定された時点においてマスター(一人前)と認められている者を除く』というものがある。
 リリアンヌは入門時、初等教育すら修了していなかった。
 それを修了してから見習として入門したのである。
 中等教育は魔界の寄宿制の学校に通っている。
 別に魔法学校というわけでもなく、魔界の子弟が通う普通の中学校だ。
 但し、寄宿制でもある。
 基本的には金帰月来という形を取っている。
 即ち、金曜日に学校を終えたら土日は家に帰り、再び月曜日からまた寮に戻って学校に通うというものだ。

 リリアンヌ:「ポーリン先生が、『今日からイリーナ組が東京に滞在する。奴らの計画に不備が無いかどうか確認せよ』とのことです」
 エレーナ:「私じゃなくてリリアンヌにやれって?」
 リリアンヌ:「エレーナ先輩はホテルの仕事が忙しいから無理だろうとのことです……」
 エレーナ:「いや、そりゃまあ確かにヒマじゃねーけどさ!」
 リリアンヌ:「イリーナ先生方はお泊りですか?」
 エレーナ:「そこはうちの先生の仰る通りだぜ」
 リリアンヌ:「イリーナ先生方はいつ頃出発されると?」
 エレーナ:「そこは聞いてねぇ。別にモーニングコール頼まれたわけじゃないし」
 リリアンヌ:「あう……」
 エレーナ:「いいから私に任せとけって。なぁ?ま、もう夜も遅いし、今夜だけは泊まらせてやるぜ。私から先生には言っておくから、明日はちゃんと学校に行くんだぜ?低学歴魔女エレーナ先輩からの忠告だ」
 リリアンヌ:「ありがとうございます……」

 リリアンヌはそう言うと、エレーナからもらった鍵を手に地下室へ向かって行った。

 エレーナ:(いくらイリーナ先生のことが嫌いだからって、ちょっと気にし過ぎだと思うな。明日になったら、私から連絡しておくか)

 その時、奥の事務室からオーナーが出て来た。

 オーナー:「エレーナ、仮眠の時間だよ」
 エレーナ:「ありがとうございます。本日のお客様は全てチェックインされました」
 オーナー:「そうかい」
 エレーナ:「あと急きょ、私の部屋に後輩が一泊しますので、よろしくお願いします」
 オーナー:「そうなのか。分かったよ。ちゃんと面倒看てあげるんだよ」
 エレーナ:「もちろんです。それじゃ、仮眠入ります」
 オーナー:「うん」

 エレーナはオーナーに業務を引き継いでもらうと、自分もまたエレベーターで地下に降りた。
 使用後はエレベーター鍵を抜いておく。
 そうすることで宿泊客が間違って地下階に下りないようにしているのである。

 エレーナ:「リリィ」

 エレーナが部屋に入ると、ぱっと見、リリアンヌはいなかった。
 しかしシャワールームから水の音がするところを見ると、どうやらシャワーを使っているようだ。

 エレーナ:「しゃあねぇ。明日の準備しておくか」

 仮眠後の着替えなどを用意し、稲生達の明日の行動を占って、結構遅めに出発することが分かった。

 エレーナ:「私の夜勤明けの直前みたいだな。これなら夜勤明けでも追い掛けられるだろう」

 それからシャワールームからバスタオル1枚だけ巻いた状態で、リリアンヌがでてきた。
 エレーナは後輩に早く服を着るよう命じると、自分もシャワールームを使うことにした。
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本日の支部総登山 20191123

2019-11-23 22:28:12 | 日記
 本日の支部総登山における大感動は、未だ冷めやらぬものでありますw
 道路の渋滞にハマり、遅刻はしたものの、無事に到着できた所は魔に勝てたと言ったところかな。

 

 本日のお弁当はこれ。

 

 で、開けてみるとこんな感じ。
 素朴な内容ながら、これぞ支部総登山といった感じの昼食ではなかろうか。
 本日は私の引っ越し先と同じ市に在住する同士とも出会えたし、市民の先輩としても色々と頼りになりそうである。
 法のことも大事だが、やっぱりどんな同士と会えるかも大事なのではないかな。
 間違っても広宣流布ではなく、風説の流布をするような輩とはお近づきになりたくないと私は思う。
 あっつぁブログなんか風説だらけだったもんな。

 そうそう。
 ちょっとヤバみなことがあった。
 本日は報恩坊が各末寺の宿坊になっているということで、冗談で、

「東京第三布教区、正証寺支部の人達が来たら追い返してくださいねw」

 と言ってみた。
 そしたら、ある信徒氏に、

「東京第三布教区なんて無いよ?」

 とマジレスされたので、私は、

「もちろん私のブログ小説の中のフィクションです」

 と答えると、納得して頂けたようだった。
 その後で、

「どうしてその架空の支部の人達を追い出さなきゃいけないんだい?」

 と聞かれたので、

「報恩坊の洗面所って、お湯が出ないじゃないですか。それをネタにした話があるんですが、正証寺支部の男子部班長、藤谷春人がボイラーいじって爆発させたんですよー」

 と、答えた。

「それって、どこの坊?」
「ここですw」
「おい!

 ピューッ

 と、このように楽しくやっている支部でございます。
 まだ認証されていない支部ですが。
 笑いあり、涙あり、しかし流血の惨は無しの報恩坊支部に興味を持たれた方は御一報のほどを。
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“大魔道師の弟子” 「東京最初の夜」

2019-11-22 22:38:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月19日22:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生達を乗せたタクシーがワンスターホテルの前に到着する。
 今回のタクシー代はイリーナがカードで払ってくれた。
 後部に積んだ荷物を降ろすのに、運転手が降りてハッチを開けた。

 運転手:「ありがとうございました」
 稲生:「お世話さまでした」

 そしてホテルの中に入る。

 エレーナ:「らっしゃいせー!何名様ですか!?」
 稲生:「ラーメン屋か!」
 イリーナ:「日本じゃ深夜労働時間が始まるというのに、随分と元気だねぇ……」
 エレーナ:「冗談っスよ。それより稲生氏、早くこちらに記入を」
 稲生:「あ、ああ」

 稲生が宿泊者カードに必要事項を記入する。

 イリーナ:「随分と繁盛するようになったのね」
 エレーナ:「おかげさまで。あ、因みに鈴木は今夜はいないので。ご安心を」
 稲生:「どこか行ってるの?」
 エレーナ:「顕正会のかつての上長がムショから出所するんで、ボコしに行くとか言ってたぜ?」
 稲生:「松本支隊長か……。まあ、口でボコしに行くんだろうな」
 エレーナ:「で、向こうをファビョらせてまた暴力事件を起こさせ、再びムショ送りにしてやるのが目的なんだと」
 稲生:「鈴木君ならやりかねん」

 稲生は苦笑しながら必要事項を記入した。

 稲生:「わざと殴らせて1日入院するくらいのケガを負って、被害者枠を分捕るとか前に言ってたような……?」
 エレーナ:「あいつも賠償金ふんだくるのが得意なクチか?少しサービスしてやらないとな」
 稲生:「はいはい」
 エレーナ:「支払いは?」
 イリーナ:「はいよ。アタシのカード使って」
 エレーナ:「さすがイリーナ先生、プラチナカードの白金が眩しいっス」
 イリーナ:「それは良かった」
 エレーナ:「それじゃ、部屋割りどうします?稲生氏とマリアンナ、2人一緒にします?」
 イリーナ:「うーん……。そうしてあげたいんだけど、他の組に誤解されると面倒臭いから、アタシとマリアンナにして」
 エレーナ:「了解でヤンス!マリアンナ、稲生氏の部屋のスペアキーが欲しかったら応相談な?」
 マリア:「ざっけんな!(絶対、カネ要求する気だろ、こいつ!)」
 イリーナ:「それじゃ、早速部屋で休ませてもらおうかねぇ……」
 エレーナ:「ごゆっくりどうぞ!」

 稲生はシングルルーム、マリアとイリーナはツインルームの鍵を受け取った。
 もっとも、フロア自体は同じである。

 イリーナ:「それじゃ稲生君、明日は最初にダンテ先生がお泊りになられるホテルの下見に行くからね?」
 稲生:「分かりました。きっと気に入ると思いますよ」
 イリーナ:「それは良かったわ」

 エレベーターを降りると、そこで2部屋に分かれた。

 イリーナ:「やぁーっと着いたねぇ。これで朝までゆっくり寝れるよ〜」
 マリア:「バスや新幹線の中で寝たのに、まだ寝足りないんですか?」
 イリーナ:「あれはほんのうたた寝だよ。やっぱり熟睡はベッドに限るね」
 マリア:「そうですか」
 イリーナ:「私が寝たら稲生君の部屋に遊びに行っていいからね。もっとも、明日の朝までには部屋に戻っているように……」
 マリア:「大師匠様が御来日されるというのに、そんな気持ちにはなれませんよ。バスルームにお湯を張ってきます」
 イリーナ:「またまたぁ……」

 イリーナは目を細めて言ったが、マリアはさっさとバスルームに行った。
 その際、着ていたローブやブレザーはハンガーに掛けておく。

 イリーナ:「そういえば、入浴剤は持って来た?」
 マリア:「それは大丈夫です」
 イリーナ:「さすがマリアだね」
 マリア:「少し高いホテルに行けば入浴剤を置いていることがありますが、このホテルにはありませんね」
 イリーナ:「まあ、そういうもんだよ」
 マリア:「明日は何時に起きますか?」
 イリーナ:「ここは朝食サービスが無いし、ダンテ先生のお泊りになるホテルの下見しか予定が入っていないから、あんまり早く起きる必要は無いんじゃない?」
 マリア:「そうですか。連泊とはいえ、このホテルのチェックアウトは10時のようです」
 イリーナ:「それなら、9時くらいでいいんじゃないかねぇ……」
 マリア:「分かりました。勇太にも伝えておきます」

 マリアは部屋の電話機を取った。
 それで起床時間を伝えておいた。

 イリーナ:「どれ、ちょっと着替えようかねぇ」
 マリア:「そこに寝巻があるようです」
 イリーナ:「あ、これね。こういうのはね、着替えてナンボでしょ。寛いでナンボってヤツね」
 マリア:「それは否定しませんが……」

 イリーナは着ているローブを脱ぎ、その下の紫色のワンピースも脱いだ。
 ローブを着ているから分からないが、イリーナもイリーナでなかなかセクシーなドレスを身に纏っているのである。
 裾の長いロングスカートのように見えて、実は結構両脇に深いスリットが入っていたりとか……。
 下着は高級ランジェリー。

 マリア:「どうですか?」
 イリーナ:「うーん……ちょっとムネが苦しいかねぇ……」
 マリア:「くっ!……エレーナに言って、サイズ交換させます」
 イリーナ:「いや、いいよ。今夜はこれで」
 マリア:「私の場合は少しスカスカなんですけどね!」
 イリーナ:「悪魔との契約上、しょうがないよ。そのうち体もオッパイも大きくなるさー」
 マリア:「それはいつですか?いい加減、いつまでも18歳でいるのにも飽きてきました」
 イリーナ:「私が思うに、勇太君と結婚したらだと思うんだ。その時には、勇太君も結構ダンディになっていたりしてね」
 マリア:「……勇太のダディみたいにですか?」
 イリーナ:「あー、イメージ的にはそうかもね」

 しばらくして人形達がバスタブの湯を止めに行った。

 マリア:「どうやらお湯張りが終わったようです」
 イリーナ:「じゃ、悪いけど私から入らせてもらうわね。上がったらマリア、好きに入ってていいから。お風呂から出たら、私ゃとっとと寝るからね」
 マリア:「分かりました」

 イリーナはバスルームに行くまでの間、全裸になった。

 マリア:「歩きながら脱がないでください!ストリッパーじゃあるまいし!」

 当然、服とか下着とかはその辺に脱ぎ捨てて行くので、弟子のマリアが回収するのだった。

 マリア:(いっそのこと、この人もポーリン先生みたいに普段は婆さんの姿をしていてくれたら逆にいいのかもしれない)

 介護や介助が大変ではないかと思うかもしれないが、マリアは自作の人形を魔法の糸で自由自在に操れる。
 老婆の1人くらいの介護、その人形達を駆使すれば簡単にできるような気がした。
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“大魔道師の弟子” 「北陸新幹線暫定ダイヤ」

2019-11-21 20:03:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月19日19:00.天候:晴 長野県長野市 JR長野駅]

 稲生達を乗せた長野駅東口行き特急バス最終便は、無事に終点に到着した。
 長野電鉄長野線や善光寺のある方とは反対側に到着する。
 この長野電鉄長野線、長野市の市街地は地下鉄のように地下トンネルを走ることで有名だ。
 もっとも、稲生はまだ乗ったことはない。
 弟子の身分とあっては、自由に歩き回ることができないのだ。

 運転手:「ありがとうございました」
 稲生:「お世話さまでした」

 バスの荷物室に預けた荷物を受け取ると、3人は駅の中に入った。

 稲生:「夕食がまだですね。駅弁を購入して来ます。何がいいですか?」
 イリーナ:「旅情たっぷりだねぃ。肉系統で。あとワインも」
 稲生:「はい。マリアさんは?」
 マリア:「私も同じく。でも、私はワインじゃなくていい」
 稲生:「では紅茶にしておきますね。キップは一人ずつ持ちましょう」

 自動改札口を通るので。
 新幹線改札内コンコースに入ると、途中で駅弁を買った。
 駅弁の販売店ではワインは売っていないので、それはNEWDAYSで購入することになる。

 稲生:「先生、これでいいんですか?」
 イリーナ:「そうそう」

 それはボトル缶に入った赤ワイン。
 プラスチックのキャップがグラス代わりとなる。

 稲生:「ウォッカではないんですね」
 イリーナ:「それが日本の鉄道の売店で買えるんだったら、そうしてもらうよ?」
 稲生:「いやー、見たことないですねぇ……」

 稲生は首を傾げた。

[同日19:36.天候:晴 JR長野駅・新幹線ホーム→北陸新幹線“はくたか”574号10号車内]

〔ピンポンパンポーン♪ 13番線に、19時38分発、“はくたか”574号、東京行きが12両編成で参ります。この電車は上田、佐久平、軽井沢、高崎、大宮、上野、終点東京の順に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から4号車です。まもなく13番線に、“はくたか”574号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 稲生:「だいぶ冷えて来ましたねぇ……」
 イリーナ:「もうすぐ冬だね。それに、週末はもっと寒くなるよ」
 稲生:「ええっ?」
 イリーナ:「何せ、雨が降るからね」
 稲生:「先生、それは……」

 稲生の声は入線してきた列車の音にかき消された。

〔「13番線に到着の列車は19時38分発、“はくたか”574号、東京行きです。北陸新幹線は台風19号の影響で、通常の8〜9割の本数で運転する暫定ダイヤで運行しております。……」」〕

 ドアが開く。

 稲生:「それじゃ、こちらへ」
 イリーナ:「うん」

 3人が乗り込んだのは普通車指定席。
 イリーナだけでもグリーン車ではないのかと思うが……。
 やはりというべきか、3人席に並んで座る。
 窓側がイリーナ、中側がマリア、通路側が稲生である。

 稲生:「先生だけでもグリーン車という手もありましたが……」
 イリーナ:「いいよいいよ。皆で仲良く行こうよ」

 イリーナはシートテーブルを出すと、その上に駅弁とワインを置いた。
 マリアはいつもの人形が入ったバッグを荷棚に置く。

 イリーナ:「今回は下見を兼ねての上京だよ。つまり、勇太君が上手くアテンドできるかどうかのね。私が引率するわけではなく、私が勇太君に付いて行くという形を取るからこういうことになるのね」
 マリア:「要約すると、『独りは寂しい』ということですね。分かりました」
 イリーナ:「そうとも言うかな」
 稲生:(往々にして魔女は孤独が好きとは限らないんだな……)

 好きで孤独でいるわけではないということか。
 稲生は幕の内弁当とお茶を開けた。
 そうしているうちに、列車が走り出す。

 稲生:「先生の占いに長野の新幹線車両基地が水没することは出ていましたか?」
 イリーナ:「まあ、出ただろうね」
 稲生:「だろう、とは?」
 イリーナ:「そもそも占ってないからね。いや、予知夢っぽいのは見たんだけど、特に危険に分類される見方じゃなかったからね。こうして暫定ダイヤながら、私達は普通に乗れているわけでしょう?」
 稲生:「まあ、確かに……」

〔「……北陸新幹線は台風19号の影響により……」〕

 稲生:「僕達は屋敷の中の停電対応に追われたわけですが、それだけでしたもんね」
 マリア:「何回、再起動掛けに行ったことやら……」

 マリアはチラッとイリーナを見た。

 イリーナ:「さすがに魔法具はそろそろ交換するべきだろうとは思ったわ」
 マリア:「今度は冬が来ますよ。大雪で停電したら、今度こそ凍死ですからね?」
 イリーナ:「うんうん。大雪が来る前に何とかする」

 イリーナは駅弁に箸をつけながら頷いた。

 イリーナ:「ダンテ先生におねだりすれば、すぐにでも……」
 マリア:「あれ、大師匠様からの頂き物だったんですか?」
 イリーナ:「私が1人で買えるわけないじゃない。あんな、大きな屋敷1つの電力を賄えるような魔法具」
 マリア:「はいはい」
 稲生:(もしかして、今回の『大師匠様を囲む会』というのは、先生方のおねだり会?)

 稲生は密かに政治家の後援会がよく行っている『○○先生を囲む会』的なものを想像していたのだが……。
 魔道師の繋がりはもっと単純で複雑なのかもしれないと稲生は思った。

[同日21:26.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 駅弁を食べた後は静かなものだった。
 イリーナはいつものように爆睡モードに入ったし、マリアは魔道書を取り出して読書を始めたし、稲生はマリアの人形達に車内販売のおねだりをされたりと、楽しい新幹線旅を満喫したようだ。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、総武快速線、横須賀線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 それから英語放送が流れる頃、魔道士達が動き出した。

 マリア:「ほら、あんた達、バッグの中に戻って」
 ミク人形:「はぁい」
 ハク人形:「はぁい」
 マリア:「師匠、起きてください。もうすぐ着きますよ」
 イリーナ:「うーん……。あと5分……」
 マリア:「降りられなくなっても知りませんよ」

〔「長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、東京、東京です。お出口は、右側です。……」〕

 イリーナ:「しょうがない。起きよう」
 マリア:「当たり前です」
 稲生:「よいしょ」

 稲生は荷棚から自分の荷物を取った。
 あとついでにマリアのバッグも。

 マリア:「ありがとう」
 稲生:「いえいえ」

 マリアも稲生には笑顔を見せてくれるようになった。
 イリーナが誇らしく思う点の1つである。

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 ホームに入線し、ドアが開くと乗客達がぞろぞろと降り出した。
 もちろん、稲生達もあとに続く。

 稲生:「あと、ホテルまでタクシーで行こうと思いますので……」
 イリーナ:「いいよ。カードの使える車に当たるといいね」
 稲生:「都内のタクシーなら、今はほぼ使えるとは思いますが……」
 マリア:「今回の『大師匠様を囲む会』で、新幹線に乗る機会はある?」
 稲生:「いえ、あいにくと無いです。ルーシーには残念ですが……」
 マリア:「ま、自力で乗ってもらうしかないか」
 イリーナ:「永住者の特権ね」
 稲生:「それでも、面白い電車には乗る機会がありますよ」
 イリーナ:「それは楽しみね」

 3人は新幹線改札口を出ると八重洲口のタクシー乗り場に行き、そこからタクシーに乗った。
 幸いというかやっぱりというべきか、乗ったタクシーはちゃんとキャッシュレスに対応した車であった。
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