報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「ダンテ一門の移動」

2019-11-28 17:19:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日11:16.天候:雨 千葉県成田市 JR空港第2ビル駅]

 ダンテ門流魔法道の創始者、ダンテ・アリギエーリを乗せた飛行機が着陸した。
 飛行機はイギリスのロンドンからやってきたもので、日本までのアテンド役はベイカー組に任された。
 ベイカー組は“魔の者”(の眷属)に弟子を2人殺されてしまったので、現在在籍している弟子はルーシー・ロックウェルしかいない。
 それでも無事に到着できたことで、出迎えた直弟子(1期生)達は大喜びだった。
 孫弟子(2期生。一部3期生含む)達は喜びよりも、むしろ緊張の色の方が大きい。
 特にアテンド役の1人であるルーシーは、本来なら自分自身の訪日とマリアとの再会を大きく喜びたいところなのだろうが、それどころではなかった。

 稲生:「全部で40人か。結構な参加だな……」
 エレーナ:「それでも半分以下だぜ?新規入門者を入れれば、もう100人以上はいるから」
 マリア:「日本まで来るのは大変だからね。まず見習は勇太を除いて参加できないし、だからアナスタシア組も意外と人数は少ないわけ」
 エレーナ:「数だけ多いけど、実際は見習だらけってことだな」
 稲生:「大師匠様はもちろん、大魔道師の先生方はグリーン車だ。僕達は普通車になるけどね」
 エレーナ:「私らの立場を理解すれば当たり前だぜ」

〔まもなく東京、大船、池袋行き、“成田エクスプレス”16号が到着します。黄色い線まで、お下がりください〕

 地下ホームに接近放送が鳴り響く。
 当然ながら日本語放送の後で英語放送が流れた。
 そして轟音と強風を伴って、12両編成の特急列車がホームに入線してくる。

 稲生:「先生方が乗られるのは12号車のグリーン車です」
 イリーナ:「センセ、1番後ろのようですわ」
 ダンテ:「うむ」

 ダンテは黒い山高帽にグレーのマフラーを首に巻き、黒いスーツの上から黒いローブを羽織っていた。
 さながら“ゴッドファーザー”のようであり、手に魔法の杖さえ持っていなければ、どこからともなくトンプソンを取り出して、敵を蜂の巣にしそうな勢いである。

 稲生:「こちらです」

 12号車はダンテ一門の貸切になっている為、ガラガラの状態であった。
 アテンド役の稲生は先にダンテ達をグリーン車に案内した。
 グリーン車の座席は革張りのレザーシートである。

 稲生:「大師匠様と先生方はこちらの車両をご利用ください。下車駅は新宿です」
 ダンテ:「おっ、ありがとう」

 稲生は自分を含む残りの孫弟子達を11号車に案内する。
 さすがに11号車は貸切ではなく、12号車寄りの3分の1くらいのスペースが貸切なだけである。

 エレーナ:「稲生氏、一緒に座ろうぜ。この座席、クルッと向かい合わせにして」

 ダンテ達とは車両が違うだけで気が楽になるエレーナ。

 稲生:「まあ、いいけど。僕は1番こっち側の方がいいね」

 稲生は12号車へのデッキに最も近い席に座った。
 そうこうしているうちに、新型の特急列車はインバータの音を響かせて発車した。

 マリア:「ルーシーもこっちに座ろう」
 ルーシー:「うん」
 エレーナ:「大師匠様のアテンド役、大変だったな?」
 ルーシー:「飛行機に乗ってしまえば、大師匠様はファーストクラスだし、私と先生はビジネスクラスに乗れば良かったから。でも、時々先生が大師匠様の所へ行かれるのは緊張したかな」

 基本的に機内ではダンテの相手をしたのはベイカーであったので、ルーシーはただ見ているだけで良かったのだが。
 本当にそれでいいのか、自分も何かしないといけないのではないかという緊張で一杯だったという。

 エレーナ:「帰りもアテンドだろ?大変だな」
 稲生:「笑っているけど、もしも大師匠様がウクライナに行かれることになったら、今度はキミがアテンド役だよ」
 マリア:「その通り」
 エレーナ:「ど、どうせしばらく無ーよ」

 そこへ車掌がやってくる。

 車掌:「失礼します。12号車のお客様方の幹事様は……?」
 稲生:「あ、はい。僕です」
 車掌:「恐れ入りますが、団体乗車券の確認を……」
 稲生:「あ、はい」
 
 ダンテ一門は『訪日観光団体』として乗車している。
 学生団体より割引率は低い。

 稲生:「あとこの車両の、そこの座席までですね」
 車掌:「かしこまりました」

 車掌の車内改札を受ける。

 稲生:「乗り換え先でも、多分検札あるな」
 ルーシー:「当たり前でしょ」

 ルーシーがさも当然のように言った。

 エレーナ:「おっ、さすが鉄道員の娘」
 ルーシー:「いや、常識だって」

 マリアはモスグリーンのダブルのブレザーを着ているが、ルーシーも今回はラフな服装ではなく、えんじ色のシングルのブレザーを着ている。
 スカートは同じ色のタイトスカートだった。
 マリアが日本の学校制服をモチーフにしたのに対し、ルーシーはイギリスの女子学生の服をモチーフにしたのかもしれない。
 少なくとも、現役時代の制服をそのまま持って来たわけではないようだが……。

 エレーナ:「それにしてもホウキで空港まで向かうの大変だったぜ」
 稲生:「ホウキで向かったの!?」
 エレーナ:「だいぶ手前で降下しないと、飛行機にぶつかって危ねー」
 稲生:「いや、そりゃそうだろ!」
 マリア:「アホか、オマエ」
 ルーシー:「ただでさえローマ教皇の来日で、教会の関係者達が警戒してるというのに何してるの」

 エレーナの奇行にマリアはツッコみ、ルーシーは呆れた。

 エレーナ:「先生達の様子は見に行かなくていいのか?」
 稲生:「うちの先生がいいって。大師匠様も長旅でお疲れだろうから、少なくとも電車の中では静かにするみたいだよ」
 エレーナ:「本番は今夜の宴会か……」

 エレーナはニヤリと笑った。

 稲生:「ファーストクラスはベッドのようにフラットの状態になるんだろう?それでも疲れるのかい?」
 ルーシー:「長旅は色々と気を使うから、ビジネスクラスもフラットになるタイプだったけど、私も殆ど寝れなかった」
 エレーナ:「おい、大丈夫かよ?」
 ルーシー:「一応、回復魔法は使えるから。HPはこれで回復する」
 エレーナ:「そしたら今度はMPが減るだろ?良かったらエリクサー、売ってやるぜ?」
 稲生:「売る気かよ」
 エレーナ:「エリクサーはポーションより高いんだ。当たり前だぜ。今なら魔界価格で売ってやる」

 魔法薬は全て魔界で調達する為、現地で買った方が断然安い。
 にも関わらず、ゲーム終盤になると高くなるRPGの不自然さ。

 ルーシー:「考えておくわ。もしかしたら先生方が元気に盛り上がるのは今日じゃなくて、最終日の東京のホテルかもしれない」
 稲生:「なるほど。ある程度休んでからの方がいいってか」

 ダンテ一門は、まずは都内へと向かった。

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